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【雑記】ガールズバンドクライ 感想

『世界に存在する命題にどのような解答を示すのか』物語において私が最も重要と捉えているのはこのテーマ部分だ。凹凸のない平坦な、問いも答えもない物語に意味がないとまでは言わないが、少なくとも私は自分が見ている世界よりも、誰かが見ている世界に興味がある。そしてガールズバンドクライというアニメは、確かに素晴らしい解答を見せてくれた。

 主人公・井芹仁菜はこの物語におけるカウンセラーだ。挫折と後悔で折れた桃香、虚実のギャップに押し潰されるすばる、才能人故に本気でぶつかれない智、親族を失い孤独と疎外感の中で生きるルパ、そして現実と過去の影に追われる仁菜。それぞれの苦悩に「負けるな」というエールと理想を目指し続ける背中を見せつける、実にロックな応援歌ではないだろうか。

 仁菜がバンドメンバーを励まし、ただリーダーになる訳ではないというのがこの物語の魅力的なところだ。仁菜に過去の自分を重ね、自分が敗北した現実を示し、自分にないものを見出しては夢を託して消えようとした桃華に「私で逃げるな!」と平手打ちをする。仁菜は決して完全無欠な理想主義者ではなく、理想に遥かに遠く、人を変えるだけの実力もない、それでも「どの口が言うんだ」とだけは言わせない矛盾無き信念で魅せる。引っ張るのではなく立ち上がらせる。痛いぐらい刺さってトゲになる。それがトゲじゃなくなる頃には骨になる。仁菜の魅力はそういう堅さにあると思う。

 そして仁菜自身の問題――父親との確執や親友との決裂、ダイダスとの差にロックの現実。「間違ってたって思いたくない」ただそれだけを胸に、全ての戦いに決着をつけた後半の畳みかけはとても美しかった。話の通じない父親は仁菜自身と同じように仁菜の幸せを考えていたし、ヒナは仁菜と同じようにダイダスが好きで「間違ってたって思いたくない」為に戦っていた。
 これら全ての決着において重要なのは、「私は間違ってない」は「あなたは間違ってる」ではないというところにある。父親もヒナも「間違ってた」わけではない。仁菜は「間違ってない」し彼らも「間違ってない」と仁菜が理解し、認められるようになったことで初めて仁菜は救われたのである。
 そしてダイダスとの対バン問題は「間違ってたって思いたくない」為に三浦さんが用意してくれた助け船を拒絶することを選んだ(ヒナが接触しなければダイダスに助けて貰う選択肢と分からなかったと考えると、ヒナも大概に『仁菜の親友』である)。ダイダスメンバーや中田さんが言うように、現実において重要なのは「生き残ってられるかどうか」だ。それでも事務所をやめてアマチュアで続ける道で生き残ってみせるという茨の道を選択するのは、ガールズバンドクライが「勝敗や正否でしか語られない現実に、悔いなく生きてやる」という解答を示した最終回だったのではないだろうか。

『地下室の手記』の「私」は「安っぽい幸福と高められた苦悩と、どちらがいいか?」と問うた。彼女たちは、もうこの答えに悩むことはない。

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