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#17 心のみちしるべ その2_慈悲喜捨から学ぶ_20230716


はじめに

私は主に医師を生業として生活しています。その現場では病気で苦しいんでいる人がたくさんおられます。私はHSPなので、他者の苦しみに人一倍、共感してしまうので、仕事量の多さ、責任の重さも合わさって、仕事が終わるとヘトヘトになってしまいます。仏教に出会う前は、そのことに気づかずにいて、気づかないふりをして、人を助けるというやりがい、また人から評価される時に生じる承認欲求をエネルギーにしてがんばってきました。仏教に出会い、私の心のシステム、人間の心のシステムを少し理解したので、それを客観的に観て、それらを諦めて、うまく休めるようになってきたと思います。

慈悲喜捨の悲

心を育て方として、仏教では慈悲喜捨の考えがあります。前回はその中の慈をお話しましたので、今回は悲をテーマにお話します。生きとし生けるものが苦しんでいたり、痛いって感じていたりしていると、そういうものの声に耳を傾けて、それを他人事として片付けないで、自分のことのように憐れむ、その悲しみに寄り添う、その痛みの寄り添う、そういった心が悲です。自分の子ども、自分の家族、自分の友人という狭いところに限定していないで、もっと観ている世界を広げて、世界の裏側で苦しんでいる人たちもいる。遠い場所、時間で苦しんでいる存在があっても、自分と離れていると自分には関係がないと思ってしまいますよね。自分の家族だから、家族が苦しんでいるから助ける、それに憐れみの気持ちを持つのではなく、そうではない人たちにも国境を越えて、人種を越えて、つらい思いをしている人にも寄り添う。少しでもそこに憐れみの心を持つ。これが悲の実践者の心です。

研究紹介

18歳から35歳、94人の健康な女性を対象としました。対象者を慈悲の訓練を行うグループ、記憶の訓練を行うグループ、そして何もしないグループの3つのグループに分かれました。

慈悲の訓練グループは1日の慈悲の瞑想コースに参加しました。慈悲の瞑想は瞑想をベースに、自分自身や他の人に対する博愛的で有効的な態度を養うことを目的としています。私の配信しているStand FMの放送でも最後の方にいつもしているのが慈悲の瞑想です。この研究では、慈悲の瞑想を行うことは特定の人物や状況とは無関係に、向社会的感情や動機づけとして思いやりを育むことが目的でした。

記憶の訓練を行うグループは記憶したいことを場所をイメージして関連づける認知機能を向上させるトレーニングをおこないました。つまり思いやりの訓練をおこなうグループは愛着や親愛に関する感情を訓練し、記憶の訓練をおこなうグループは認知能力を訓練しました。

その方々にニュースの素材やドキュメンタリーの抜粋された映像を観てもらいました。それは困難な状況にある人の映像や、豊かな生活をしている人の映像などです。その映像を観た時に感じた共感な感情、肯定的な感情、否定的な感情を評価しました。

その結果は、豊かな人々の映像をみた時と困難な状況にある人々の映像をみる時を比べると、肯定的な感情は豊かな人々状況の映像を見た時の方が多く、逆に否定的な感情は困難な状況にある人々の映像を見た時の方が多かったです。また、共感的な感情は困難な状況にある人々の映像を見た方が高かったという結果でした。


そして、慈悲の訓練、記憶の訓練とそれぞれの訓練を受けた結果は、慈悲の訓練を受けたグループは困難な状況にある人々の映像を見た後も、豊かな人々の状況を見た後も肯定的な感情はより高く変化しました。一方、否定的な感情はどちらも変化しませんでした。また共感的な感情は慈悲の訓練を受けたグループは豊かな人々の生活を見た場合により高く変化しました。

また慈悲の訓練を受けたグループは脳のmOFC、淡蒼球、被殻、VTA/SNといった部位に強い活性化と関連することが示されました。つまり、思いやりをもつと肯定的な感情や共感的な感情だけでなく、脳自体も変化するのですね。慈悲喜捨の悲の実践の可能性にワクワクしてしまいます。

この研究を勉強し、おかげさまであらためて悲の大切なを感じることができました。悲の心は、自己中心的な欲望や執着を超え、他者への思いやりや共感を育むことによって発展します。また、悲の心は、他者の苦しみを理解するだけでなく、それに対して行動を起こすことも含みます。悲の心を培うためには、他者への思いやりや共感を養うことが重要です。他者の立場や感情に共感し、自己の利益だけでなく、他者の幸福や苦しみにも目を向けることが求められます。また、自己中心的な欲望や執着を超え、他者の利益や幸福を優先する心を育むことも大切です。

終わりに

慈悲喜捨の悲は、自己の成長と共に他者への思いやりを深め、世界に対してより積極的な貢献をするための心の修行として重要な要素です。このような心を育てることによって、より幸せな社会や世界を築くことができるとされています。子どもたちとテレビでニュースをみて、私たちならどう感じるかな、何か私たちできることはないかなあと話してみたくなりました。いい教育になると思ったのですがどうでしょうかね。

Reference

Olga M Klimecki 1, Susanne Leiberg, Claus Lamm, Tania Singer. Functional neural plasticity and associated changes in positive affect after compassion training. Cereb Cortex. 2013 Jul;23(7):1552-61.


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