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死なない生き物

「私は死なないと思っていた。冗談じゃ無くって。本当にそう思ってた。」

母が語っていて僕も信じていた。どうか馬鹿馬鹿しいと笑ったりしないで。

「拳銃で頭を撃たれたりしない限り私は死なないと思ってた。」

僕自身も信じていた言葉だから。同感する。

いつかはみんな死んでしまうけど。
私は特別に扱われるべきだから死なない。
そうだね。お母さんは特別だから死んだりしないよ。

母の意味する処の死なないとは何なのか。
母の言い分を問えなくなっている今。深く考える、考えざるを得ない。

お母さんが死んでしまって1年も経つ。
1年もあの人と会話していないなんて、信じられない。

今日はお母さんが死んじゃった日。
あなたともう一年も話してないなんて信じられなくて、何だか新鮮な感情だ。悲しいのと寂しいのと何故か安心するのと、何故こんな気持ちになるのかお母さんに問いたい。そう伝えたい一番の相手がもういなくて絶望して立ち尽くす。お墓の前で。

線香に火を着ける。

「そんな量じゃこっちまで匂ってこないじゃない。もっといっぱい焚いてよ」

母の言う事はいちいちもっともだ。
箱から線香をごそっと取り出し火を着ける。量が多いので時間が掛かる。

「そういえば庭の月桂樹のことだけど。香りが良いのだから切ったりしないで大切に。料理にも使いなさい」
「わかってるよ。うるさいな」
「うるさく言わないと聞かないでしょ?」
「ちゃんと聞いてるよ。わかっているよ」

母の言うことはいちいちもっともだ。
鮮明に聞こえる。

僕のお母さんは死なない。
拳銃で頭を撃たれたりしたら流石にしんじゃうだろうけど。

どこのヤクザの世界の話をしているのか。

お母さんは死なないもの。
私の母親は死なない生き物。









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