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【山本教】すべての小説を愛しなさい。

 丘の上に人々が集まり、好き勝手にいろんな小説について語りあっていた。

 そのうち、気に入らない小説や、好みでない小説の愚痴が始まった。共感が起こるとさらに盛り上がり、しまいには特定の小説に対する罵倒に発展した。


 そこへ、イエス山本が使徒たちとともに現れた。

 人々の前に立つと、「あなたたちは、どうして小説を罵倒するのですか?」と問われた。

 すると、ひとりが、「面白くないものは、面白くないと言わないといけない」と答えたので、イエス山本は憤慨し、「あなたたちに小説の面白さを決める力があるとお思いですか」と叫ばれた。

 驚く人々の中には反発しようと口を開きかけた者もあったが、イエス山本は、さらに強い口調で、「完璧な小説しか書いたことがないのなら、どうぞ、他人の小説を貶しなさい」と諭された。

「今まで自分が書いた小説を思い出し、その中に完璧ではない小説がひとつでもあるのなら、他人の小説を貶すことなどできましょうか」

 すごい剣幕に圧倒された人々に、イエス山本は少し穏やかな声になって、「すべての小説を愛しなさい。自分が書いた小説と同じように愛せば、その面白さを探そうとする姿勢が崩れることはありません」と説かれた。

 人々は何も言えなくなり、丘の上から散り散りに去っていった。