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【ポエム】僕がいなければ、世界はダメになってしまう

 今日は、僕の誕生日。


 21歳だ。

 21年も生きていて、なにの役に立てたのか、考えてみた。


 僕がいなければどうなっていたか。


 家庭ゴミがひとりぶん、減る。

 二酸化炭素の排出量がひとりぶん、減る。


 汚物の排出量もひとりぶん、減る。

 僕に踏みつぶされた蟻が、延命する。


 僕が塩をまいて観察したミミズが、生き延びる。

 僕が鼻をかむために使っていたぶん、ティッシュペーパーが残る。


 僕が所属していたクラスからひとり減り、予算に余裕ができる。

 僕が傷つけてきた人たちが、傷つかずに済む。


 僕が不登校だったせいで増えたぶんの担任の仕事が、減る。

 僕が抱えている殺意が消えて、世界のリスクがひとつ、減る。


 僕はいないほうがよかったのか。

 いや。待ってほしい。

 

 僕がいなければどうなっていたか。


 僕に初恋した人が、初恋できなくなる。

 僕と友達になりたい人が、ひとりぼっちになる。


 ティッシュペーパーの売り上げがひとりぶん、落ちる。

 文芸市場からひとり、コアな顧客が減る。


 僕が通っていた高校の収入がひとりぶん、減る。

 僕が払ってきた消費税がひとりぶん、減る。


 僕を好きになった人が、僕を好きになれなくなる。

 僕に怒りをぶつけた人が、怒りをぶつけられなくなる。


 それだけじゃない。

 大変なことになるぞ。


 あのアーティストのファンがひとり、減る。

 そのファンクラブに払っている年会費がひとりぶん、減る。


 あの新進気鋭の作家のファンがひとり、減る。

 新作の売り上げが一冊分、落ちる。


 僕が通院している病院の客がひとり、減る。

 薬剤師が処方する薬がひとりぶん減り、売り上げが落ちる。


 僕が買ってあげたユニクロのジャンパーが一枚、売れ残る。

 僕の髪を切りたがっていたあの散髪屋は、僕の髪を切れない。


 僕の大好きなユーチューバーの動画の視聴回数が一回ぶん、減る。

 僕が書いたコメントにグッドボタンを押せなくなる。


 大変だ。

 その影響は計り知れない。


 僕と付き合っていた彼女は、僕と付き合えなくなる。

 「もう、別れよ」と言ってきたあの言葉は存在しなくなる。


 僕をいじめてきた彼は、僕をいじめることができなくなる。

 「絶交しよ」と言ってきた彼は、僕の存在を知ることすらできない。


 僕が口にしてきた「ありがとう」がすべて、消える。

 それで救われてきた誰かが、ひとりも救われなくなる。


 ダメ人間である僕を、反面教師にできなくなる。

 僕を見下していたすべての人が、僕を見下せなくなる。


 大変だ。

 僕がいなくなっただけで、このありさまか。


 僕が生きているおかげで、得をする人がいる。

 僕は世界を回せないが、得をする人を増やせる。


 僕がいじめられたおかげで、ひとりぶん、いじめ被害者が減る。

 僕が誤解されてきたおかげで、ひとりぶん、誤解される人が減る。


 僕が泣いてきたおかげで、誰かが泣かずに済む。

 僕の涙を拭くためのハンカチが、一枚ぶん、売れる。


 僕がいなければ、世界はダメになってしまう。

 しょうがないな。


 今日も、生きておいてやろう。