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ひらめき☆マンガ教室課題9(香野コメント)

中間講評(コミティア131出店)を挟んでの課題9は「今を描く」です。コミティアの話は、前日譚後日談でまとめていますが、自分の所属チームのことしか書いてないので、あとでアップしようと思ってます。しかし、今は何はともあれ、課題9のお話。

マンガはこれまでにいろんな作品が生まれてきた。それでも、「今わたしが描かなくてはならないもの」を作品にすることが求められている、そこで何を描くか?という課題です。

こちらに関しては、ネーム提出が1/11だったのに、まだ完成稿の講評が行われていません。というより、完成稿の〆切も5/23(土)なので、まだ仕上げている人もいるはず。というわけで、ほぼネームの感想になります。

なんでかというと、実は・・・・・・2020年の上半期に世界中で苦難を分かち合っているウイルス蔓延により、講義が2月末から行われていないのです。ネーム提出+ネーム講評の時点では「ん? 何かが流行りつつあるぞ・・・?」というぐらいだったのですが。今振り返ると、割と現在の状況を予感しているかのような作品も存在していて、ひとつには、時代を読む力がマンガには必要なのだろうということ。そして社会は、日常が分断されるというのは錯覚かもしれなくて、地続きだということも覚えておきたい。

◆蝶々ひらり「少女を拾いました」

拾われた記憶喪失の少女が、ラベリングを無効化させる無垢な存在ということかと。それなら、大人が喋るのは「LGBTa」まわりのワード(を彷彿とさせること)だったら意図が伝わりやすいかも。オンナ2人が少女を拾うという設定がおとぎ話の感じがあるので、それぐらいストレートでも読めると思いました。

◆五月十三日「アルバム」

とにかく、先輩が……せつない。原作付きで話の筋が明確な分、ディテールが気になってきます。このアプリ(名称は素敵アプリ?素敵アルバム?)は何をハッキングして、どのようにすごく良い結果を生み出すのか、がわかりづらかったです。もしかしたら……想像してみました。

この街は「情報収集実験都市」として、すでに記録が記憶を上書きすることが日常になっている。アプリはそこから逸脱するハッキング。試験ではみんなが平均点をとり、男女の情のもつれもなく、軋轢をうまない。それがこの街が平和である証拠。そうなると、主人公は先輩から逃げても、街の外にはつまらない喧嘩がある。つまり、この主人公は何からも逃れることができず、永遠にループし続ける。…ということなのかも。

◆ねりけし「ヘアドネーションやってみました」

タイトル1枚絵がすごい。あとで秘密は分かるけどインパクト大。「流行りそう」という「今っぽさ」だと思うのですが、たとえばタピオカほどまだ一般的ではないので、冒頭で「なんかキテますよね」とか「SDGs」的なことを押さえておくとわかりやすそう。流行り(そうな)もの推しの作品なので、流行への揶揄も今っぽさとして入れるのなら、もっと目立たせないと、かえって(揶揄するにしても、流行を追うにしても)ぼやけてしまうかと。

◆拝島ハイジ「死にさえすればいいのよ」

今から延長線上の未来。孤独死してもいいけど、あとで迷惑かからないようにしたいのは切実だ。セリフの「ただ死ぬのも難しい世の中だ」は「ただ死ぬ」まで傍点があったほうがこの場合は意図が伝わりそう。個人的に、最新型AIBOは、それを受け継いでくれる人がいないからかわいそうで飼えないなと思ってます。

◆中山墾「サウナ行こうぜ」

いろいろあるけどサウナに行ってスッキリ整う話…の予感。この時はまだ、東京2020が、2020年に開催される予定だったんだよなぁ…などと思うニュースキャスターの喋りが入ってます。あー、行きたいなぁ岩盤浴とか。何より続きが読みたいです。

◆暮介「恋は計画的に」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/guresuke/14965/

特に前半は、企画がハマっていて、読者を飽きさせないですよね。コマもテンポよく読めます。恋愛したいのと子どもを育てたいという願望の距離が近すぎて不自然に感じます(もちろん「リミット」を考えて婚活をする人は多いですが、その場合、恋愛とか考えないのでは…これは男女によって差があるのかもしれません)。後輩を使うなどして、「この先輩はこう考えてるんですよ」と読み手をリードしてもらえるとありがたい。

◆グヤグヤナンジ「ソーシャル・フレンド」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/guyaguyananji/14875/

リアルに会わないけど勇気づけられている感じ、2000年代のBBS文化に似ている感じがして、今なのか、な…?とは思いました。ただ、スマホゲームでチームメンバーになるとこんな感じもあるので、ありなのかなぁ。日常で感じる心象風景が自然に描かれていて、いいです。モノローグの多さは、ちょっと気になりました。

◆拝島ハイジ「離れ目のわたしたち」

ルッキズムを、顔の同じ双子で扱う試みがいいと思いました。32ページがぴったり。ただ、大工事の前といっても、すでに整形途中の子だからか、主人公が割とかわいい感じで、彼氏がすでにいる。この分だと「以前もそこそこだったのでは」感が……(それもまたリアルっぽいですが)。前から彼氏がいるのが悪いというのではなく、【彼氏はそのままでいいと言うけど「私は」自分の顔が嫌いなのだ】というのをどこかで言ってあげたほうが、女性の読者は腑に落ちると思いました。整形したいとは思わない人でも、ダイエットとか肉体改造について思い当たるフシはあるはずなので。「そう、そうなんだよね!」みたいな共感が生まれやすいかも。

◆とき ところ「穴について」

一時期からしばらく、BLから離れてしまった理由はいろいろあるんだけど、こういうのが読みたかったからかもしれない、と思いました。映画を観ているような感覚になるけど、「セックスなんて裁縫と同じなんだろうけどな」からのくだり、マンガだからこそ際立つ表現がたくさんある。

◆静脈「ミッション」

毒親サバイバルの定義を最大限に広げていて、しかも彼氏がテンプレじゃない不思議キャラ。次から次へとネタが途切れず、ずっと読んでしまう。課題であることを考えると、「つづく」じゃなくてもよかったのでは。連載前の読み切りだったら、こういうのあると思うんで…。

◆ハミ山クリニカ「誰がためにお昼の鐘はなる」

ペン入れ後の後輩の変態感まっしぐらで素敵。会食恐怖は、チラホラニュースにもなってきているので、ネタとしては今っぽいと思いました。ただ、もしかしたら「完食」と切り分けた方が伝わりやすいのかも。別のルートで恐怖になってる人も、まぁまぁいるので。「一人で飲食店に入れない」という人も結構いて(会食恐怖とは違うけど)、困難の裾野をひろげると、より多くの人が「自分のことだ…」と思えるのでは。

◆kubota「週末芸人」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/kubota/15226/

「あっち行けばどうだったんだろう」と思いながら会社員やっている人は、意外と多いので、この企画は社会人に響くはず。極めてふつうの感想として、ペン入れしたのを見てみたいです。コメントにもある通り、一人の語り以外でもこれまでのことがわかる描写があると、主人公の感情がうねっていく様子が伝わりやすいかも。

◆鴫原一起「カナミッチャン」

ネームよりもコマを増やしたり背景の移り変わりがあることで、時間の経過が明確になりましたね。下校中の雰囲気が伝わってきます。この自主避難生活が終わった時のことを考えさせられます。この期間中に大事にしたいことがハッキリした結果、友人や仕事仲間の間に溝が生まれてしまうとか。そういうことが多くなりそうです。

◆矢作さくら「あなたの■はなんですか?」

テレビで食パンブームと騒ぐ前から、パンフェスとかあるし、焼き立てパンの香りは「しあわせ」ですよね。そしてこの黒塗りしてミュートして生きていこうっていう処世術も、「わかる・・・わかるよ・・・」という感じ。ましてや、世の中的にもこんな感じ(夏のスポーツ大会で前借りするはずだった僕らの景気はどこに行ったの・・・とか)。このまま病んでる感じで終わるのか、別の世界を見つけるのか、続きが気になります。

◆向田哲郎「お天道様が見てるだけ」

後半のターンで駆け足になってしまっていて、このシステムが理解しづらいのがもったいない・・・。社会に対するいろんな問題意識を描こうとしていることが伝わるのだけど、この作品で核になっているものが見えづらくなっていると思います。ふたりが飲んでる居酒屋のモデルは新橋界隈にある「たぬき」かなぁ・・・などと酒場が恋しい今日この頃です。

◆obj.A「僕らは畜群」

もしもニーチェの「ツァラトゥストラ」にインスピレーションを得ているとするならば、描こうとしたのは超人なのか畜群なのか、どちらでもないのか……思考を促す作品だと思いますが、「畜群」というパワーワードということもあり、描こうとしたものにフォーカスした方が拮抗できると思いました。特にラストについては、「死の価値を決めるのは生者だ(でも本当に価値のあるものなんて消えてなくなる)」ということなのか……作品の中で知ることができたらうれしいですね。

◆ なは菜っ葉の菜「FEELTER[フィールター]」

完成稿がネームとはまた違う感じですが、ページを削いだことが効果的だったと思います。盛る、フェイク、インフォデミックが現実の視覚空間に影響を及ぼす近未来という設定で21世紀(今)を見てみた、という芯がハッキリして、洗練された感じがあります。最終的に「すっぴんの方がかわいくね?」的なやりとりが頭に浮かんだのはなぜだろう。カルチャー誌に載っていてほしい作品。

◆ririo100「価値について」

少年が成長する物語として読みました。少年が火星と地球を行き来している(っぽい)のはどうして?とか、おじさんと少年はどうして一緒に暮らしているのか?とか、興味が尽きないので、その辺りの背景がわかると、もっと物語に没入できると思いました。

◆タケチイチコ「幸福論」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/takechi1ko/14688/

生活設計第一世代と、いろいろとですね・・・クマザワさんと境遇が近いせいか、身に沁みる(体型じゃなくて)。でも、境遇が近くない人にも納得してもらうのであれば、ズートピア的な、ローカライズしすぎない方向性があるとわかりやすいのかもしれない、などと思いました。実はネームのときはタイトルとの親和性に疑問もあったのですが、完成稿で特に「人が幸福を求めるのは寂しいからなのか……」とふと考えました。コメントを読んだところ、作者の意図が成功していたのかもしれません。

◆市庭実和「under the roof」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/tilapia/14783/

なんでもない日が奇妙な一日に変わるやりとりは面白い。自らを草(デラシネ、根無し草)とたとえる来訪者への視線も、ヒリヒリする。ただ、いちばんの謎はラストの「変わらないね、富士山は」でした。唐突に多摩川沿いのマンションを勝手に想像してしまった。いや、そうではなく・・・・変化を肯定していたところ、変わらない富士山を最終的に行き着く。それとも「ユウくん」が富士山の暗喩なのか、知りたいなぁと思いました。

◆吉田屋敷「アキラさんを殴りたい」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/yoshida444/15254/

モノづくり業界あるある・・・・・の闇落ち描写が印象に残るのと、時間の経過(最初の出会いから数年経ってる)がわかりづらかったので、「喋るのが下手になった」「もともと喋ってないじゃん」というコアな部分が不明瞭になっているのかも。そういえば最近は一流クリエイターほど「会話が大事」って言ってるのを聞く機会が多いのですが、うーん。その多くは会話ではなくスパーリングのような気がしますね。

もしもサポートいただけたら、作品づくり・研究のために使います。 よろしくお願いいたします。