憧れ系の気持ち

中高を女子校で過ごしているし、学校外の人と仲良くしようとする社交性も気力もないので、異性と関わった経験のなさは日本でも有数のレベルだと思う。
同級生の多くは塾の知り合いとか昔の友達とか、そういうところで付き合いがあるみたいで、小学校を卒業してすぐ、同級生だった男の子に「田中(仮)?」と声をかけられたのに「誰ですか?」と返事をしたのが最後のわたしは、うーん……。

そういうわけでわたしは、小学校のときの足が早いからなんとか君がすき!みたいな、具体性のない恋愛もどきしかしたことがない。と思う。だから恋愛とかそっち系の感情の区分が上手にできない。

中学で女子校に入ってからも、憧れてる、ような人は何人かいた。話しかけられたらその日中嬉しかったり、その人の幸せを願ってみたり、友達ではあったけど友達よりもっと一方的な好意。尊敬とまではいかなかったしいちばんの友達になりたいとも思わない、でも心が吸い寄せられてて、憧れがいちばん近い言葉だったと思う。

でもいつからか、憧れとか無理あるくね、みたいな流れが私の中で生まれた。
そもそも私が憧れるような人は、悪口を言わない下ネタを言わない約束を破らないとか、そういう私の理想のオンパレードで、それをたかが中学生の女の子に押し付けるなんて無理があったのだ。勝手に小さい幻滅を繰り返し、そんな自分に自己嫌悪した。私は自分の理想を叶える人を見つけてこの世界の美しさを担保してもらおうとしていたが、それはなんか身勝手だなーと思うようになった。
綺麗なところだけを崇める関係、ともだちですらなかったのかも。

憧れるのをやめましょう、は結構うまくいったけど、やっぱり好きだなあと思う人がいた。仲良くはない。帰り道にあったら話す程度、ごく稀に寄り道に付き合う程度、廊下でお互い一人だったら挨拶するとかその程度。
その人は恐ろしく外交的で、友達がたくさんいる。人懐こいその人はもしかしたら私を数多いる友達の末席に数えてくれてはいるかもってくらいで、人懐こい反面ドライなところもある人だから、同級生Gくらいなものかもしれない。
だから私は、その人と帰り道の途中で会って一緒に帰る時間が好き。学校では私以上の人が溢れかえってるのに、帰り道の電車の中にはその人には悪いけど私しかいないから。その間だけは同級生Cに昇格。学校から一緒に帰ったことなんて一度もないくせに、月に1.2回は帰り道に会って、その度に嬉しくなってる。4年間くらいずっと、いまも続いてる。

その人が学校で泣いていたある朝には慰める輪ができてた。そのときは同じクラスで席も近かったけれど、私は当然何もしなかった。東に泣いている人あればすぐに行って慰めてやり、みたいな人もいるけど、所詮ギリギリ友達の私が野次馬みたいに出張るのは嫌だった。それに気心の知れた友達に慰められる方が元気がでるし、そういうのは弁えてたつもり。でも私ならなんて言うか考えたりした。
その日の帰り、たまたまその人に会った。自虐気味に話しかけてきて、まだ落ち込んでるようだったから、朝のうちに考えた精いっぱいの慰め文句とずっと思ってた褒め言葉を言ってみた。ちょっと笑ってくれた。嬉しかったけど、私が年単位で蓄えてた気持ち悪い気持ちの一片も、その人の心には引っかからないんだろうなとか思った。
一方的な好きも憧れも、相手からしたら随分と気持ち悪いものだって自覚してて、それを見せないようにって頑張ってすらいたのに、いつのまにかよくわからない思慕のお返事を求めてたみたいで嫌になった。

その人に彼氏ができたとき、告白してきた同級生の女の子と付き合ったことがあると聞いたとき、結構ちゃんと悲しかった。彼氏は知り合ったばかりの人らしくて、どうせその人の魅力の半分も知らずに彼女って響きのために付き合ったんでしょ!ぽっと出の野郎め!と思ったし、同級生の女の子は本人が後輩を手玉に取って楽しんでる、みたいなことを言っていたから、なんであんな女と!て思った。素直におめでとうとか言えない。
部活終わりに、駅で学校帰りに彼氏とデートしたその人と会ったときは、惚気話された。デートの興奮冷めやらぬ、なのか、私の降りる駅でその人も下車して、やばいこんなことされたの!って、彼氏がその人にした恋愛術を私相手に実演してくれた。なんか普通にどきどきした。女子同士で軽く抱きしめたり手を握り合うとかよくあることなのに。彼氏→彼女(その人)→無関係の私、のどきどき伝播、普通に私が混ざるべきじゃない。あと、その人は彼氏と手繋ぐとどきどきしたのに私相手には普通にできちゃうんだーとか思ってちょっと落ち込んだ。

その人のインスタのサブ垢にフォロリク送る気はない。その人の誰でも通す用アカウントとだけ繋がってて、誰かの誕生日か誰かと遊んだ日に投稿されるストーリーを眺めるだけ。DMもしない。たまにハート押したりする。その人はお調子者だから、変なことするたびに写真撮ってる。卒業したら、来年の今ごろになったら私は同級生Tくらいになってる。

別に恋愛的な好きではない。まともな恋もしたことないけど、なんとなく自分は異性愛者だと思ってるし、別に手繋ぎたいとかも思わないし、そこまでの情熱が伴ってないから。
憧れでもない。生き方を真似しようとはならないし、廊下で騒いでる声が聞こえると普通に騒がしいなと思う。盲目にその人の全部が輝いてるわけじゃない。
じゃあ推しなのか。そうかも。だったら嫌だなあ。推しっていうのはなんか癪。あと推しに向けるものより承認欲求が混じってると思う。いっぱい話したい、私のこと見てほしい、でも私がその人に少しの影響も与えたくないし、私のこといますぐ忘れて!と思う。そんなこと願う間もなく忘れられるだろうなって感じだけど。
世の人みんなこんな感じなのかな、だったらもっと好きを表す言葉があればいいのに。単純な好きも憧れも滅多にないでしょ。色を表す言葉がたくさんあるみたいに、いろんな汚い気持ちを掛け合わせて生まれたいろんな好きをそれなりにうまく分類できたらなー……


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