My Favorite Things~モノと私のストーリー~③硝子の片想い

片想いが一番パワフルなのよ、と
誰かが言っていた。

何がパワフルなのかというと、
想いの対象に向けられる熱量が、だそう。

だとしたら、それは人間関係だけでなく
モノとの関係にも当てはまるように思う。

憧れて、
恋焦がれて、
でも手にするのが怖くて。
成就することのない想いは募るばかり。

私にとってのソレは、
佐瀬工業所さんのガラスペンだ。

ヨーロピアンな雰囲気のガラスペンが
実は日本生まれの筆記用具だと知ったのはわりと最近のことだ。
明治時代に風鈴職人が考案したのがはじまりだという。

明治45年創業の佐瀬工業所さんの先代は、
その風鈴職人の元で修行を積まれたというから
品質は折り紙付きだ。

一本一本、職人の完全手作業で生み出される
ガラスペンはため息が出そうなほど美しい。

さぞやお高いのかと思えば、そんなことはない。
むしろ、その品質と職人技の価値を考えれば安いくらいだ。

自分へのご褒美として買ってもいいし、
何なら誕生日やクリスマスに旦那さんに
おねだりしてもよいかもしれない。

手が届かないわけではないのに
なぜか手が出せない。

それはやはり、私の「覚悟」が足りないからだと思う。

私のガラスペン歴はたかだか2年ちょい。
アートとしてのカリグラフィーをたしなみたい、というわけではなく
ちょっとした手紙やメッセージをガラスペンでさらさらと書けるような
大人女子に憧れたのだ。

ところが、私の日常生活において、手書きのメッセージを書く場面は残念ながらめったにない。

職人の手仕事が生み出すアートのような日用品が大好きな私だけれど、あくまでも日用品なので、使ってこそ価値があると思っている。
ただ飾っておくためだけに収集するのは、職人にもモノにも失礼な気がするのだ。

海外からも注文があり、納品まで数か月かかることもあるという貴重なガラスペン。私にその価値を発揮させてあげることができるかしら。

その心境はまさに
君のことは大好きだけど、君のことを幸せにする自信がないんだ
とウジウジしている結婚前夜ののび太くん。

嗚呼、それでも――

繊細なひねりが生み出す軸の波模様
造形を引き立てる上品なスモーキーカラー
精巧に刻まれた溝いっぱいにインクを湛えた魔法のようなペン先

この圧倒的な魅力の前では
私のつまらない悩みなど、いとも簡単に霧消してしまう。

使い道あってこそのモノだけれど、
モノが使い道を示してくれることもあるだろう。

自信がなかろうが
不相応だろうが
恋する気持ちは止められない。

きっと、私の片想いが成就する日はそう遠くない、はず。

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