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東京オリンピック閉会式 アオイヤマダの追悼ダンスへの考察

そこで披露された追悼の舞は、得体の知れない不可解で抗いようもない何か、それに心と身体を奪われてこの世での生を奪われた大勢の亡き魂と、その死を眼前にして言い尽くせない悲しみに直面し涙枯れ心を失くし、亡骸を埋める穴をひたすら掘るしかなかった遺された人々へ 時を超えて慰め悲しみに寄り添う鎮魂のための表現そのものだった

オリンピックの閉会式、スポーツのもつ清らかでダイナミックな正のパワーに高揚した私たちはいきなりそれとは全く異質なものをつきつけられて混乱した
閉会式 日本が世界に誇れるような胸のすくようなものを、と切望されるなか彼女の追悼の舞は披露された
彼女の表現は我々が追悼というものへ抱く陳腐な期待に応える予定調和なものではなかった
その表現にめんくらった人が多かったのは当たり前だ 少なからず私もその一人だった
なんだったんだろう 今のは と固まった
しかしそれがこのパフォーマンスの真の狙いなのかも知れない と即座に思った

その直後から案の定ネットでは色々な意見が飛び交う
それから私は彼女の表現は何だったのかあらためて少し考えた 
何故なら彼女のパフォーマンスから受けた印象は他の演目から受けた衝撃とはまた全く異なるものだったからだ

アートとは見る側が何を感じるかは自由なものであり、作り手の意図はそこに確かにあるが、他者の目に触れた瞬間その縛りから放たれる
その上で私は彼女のパフォーマンスにこめられたものを、このように勝手に解釈した


現代の人間は、この地球における主役然と振る舞い繁栄し万能と思い込んでいるが、大いなる自然の前ではあまりに無力で、未知のウイルスの脅威に震え慄き無念のうちに命を奪われる、そんな儚い地球上の一生物という存在であるということ 
それを近年全世界がコロナで同時に体験しているということ
差別や戦争が沢山の命を奪ってきたこと
得体の知れないグロテスクなものが欲や優越感を満たすために清らかな存在を平気で食い物にすること
オリンピックが終わった瞬間からまた世界各地の紛争が再開されるであろうこと

大地に根を張る木の懐に抱かれて生きていく生物であった私たちが、今までに築いた高度文明社会の生活の常識は、実は簡単に霧散する 
例えば自然災害で電気ひとつ失っただけで、今ある都心のシステムは稼働できない 
だからといってほとんどの人がそれを恒常的に自力で生み出し手に入れるための術を持たない

すったもんだの挙句、開催されればアスリートの懸命な姿に否応なく感動するばかりだった東京2020の最後に、彼女は私たちにそれらの現実を迷いなくリマインドした

怯えからくるリアクションと言論の自由
清らかなものだけを見ていたかったのだから
得体の知れない不可解な死の香りが強く放たれるそれを見た人が拒絶反応を覚えたり、怯えて否定的になるのは織り込み済みだろう 
そのリアクションですら彼女が表現した現実そのものであったのではないだろうか

現実と向き合うということは、清濁の濁も見つめること キレイでわかり易く心地のいいものしか視界に入れないのであれば、これから歩むべき道を見出すことは困難だ

不可解なもののもたらす不安という存在に真っ向から向き合おうとせず、ただ過剰なほどそれらを忌み嫌う人々のヒステリックなリアクションは、ネット上で言論の自由を振りかざして人の心を攻撃するような表現を吐き出し続ける人のおどろおどろしい姿そのものだ 
自分の理解を超えたものは、考えうる限りの強い言葉で徹底的に攻撃し叩くことで安心したいという防衛本能が発動する 
そしてそのボタンはあまりにも直情的に躊躇なく即座に押される

一歩深く考えをめぐらすことへの拒否
最近特に理解することや考えることを放棄して、あらかじめの過剰とも思える説明を相手に求めて納得したふりをすることが多くなったと思う

例えば様々なテレビ番組にもとからテロップがつくのをよく見る 
勿論恩恵を受ける人が沢山いるのだろうが、必要のない人にも半ば強制的に与えられ、無駄に甘やかされる
いわゆるゴールデンタイムと呼ばれる時間帯の人気番組の内容も、格付けやクイズなどがよく見られるが、そこではひとつの正解が与えられ、その他の感性や解釈の入り込む余地がない 
示された答えになんとなく腑に落ちない場合もそんなものかと受け流す
またSDGsといいつつもほんとは必要のない割り箸やプラスチックのスプーンやフォークが添えられるデリバリーの食事やコンビニ弁当 
すぐに捨ててしまう沢山のプラスチック容器 
使わないからもらわないという選択すら出来ていない気がして自分にイライラしてしまう 
ステイホームが叫ばれているから外食せずに利用したデリバリーなのに、自然破壊には加担してる
週に二回の燃えるゴミの日、家中のゴミ箱をひっくり返して一つにまとめる際、毎回プラスチック素材のものの多さに愕然とすると同時に、購入時にはそれらに包装されていないものに違和感を感じてしまう

自分の問題システムのせいの他人事
過剰なサービスと今人類が抱えている問題との間の矛盾を感じることに疲れ、都度ストレスを感じないよう次第に深く考えることを辞め、諦観するようになってしまう
自分で考えても結局手の届かない深部の闇に対峙することになり、やるせなく怒りを溜め込むだけだからだ
政治に不満があっても選挙には参加しようと思えない
政治家になろうとする人はみな胡散臭くみえてしまい、誰を推していいのかもわからない
いざとなったら誰かが何とかするのだろう、その時に自分も乗っかればいい 
その時が来るまではこの矛盾をどうしようもないこととして傍観しよう
これがもう一段階進むと、過剰なサービスはタダで手に入ることが当たり前で、他人に問答無用で自分の欲しいサービスや説明、たったひとつの明確な答えを求めてしまっていたりする 
これは私自身の内でも確かに起こっている

言ってみれば自分の頭で物事の本質や解決方法を考えることを止め、思考停止しているのにも関わらず、刷り込みによって予定調和に慣れ切ったステレオタイプな個人の感性に、ぴったり寄り添ってくれるものを求めてしまう 
ぱっと見て自分の求めるものでなかった場合は、憤然と否定する 
そしてそれを直接的でより深くダメージを与える言葉をあえて選んで、ある人は本人にぶつけ、反応をみて愉しむ 
自分が正しいことを証明するため、相手を組み伏せ降参させたいと望む 
それが今、彼女にネットで匿名の中傷めいたことを粘着質に書き込む人の姿であり、剥き出しの人の本質の一部なのだろう

闇を怖がる本能
その鬱屈し膿んだ想いは捌け口を探す
それが闇だ 勿論私の中にもそれがある
人は闇を怖がる 他人の闇をみてそれを怖がる自分の闇がまた濃くなる
これを繰り返すと分断が起こる

社会の闇の発露を増長させているのは終わりの見えない閉塞感や不安、それと惰性に苛まれるメディアと政治の共演も一端を担うだろう
ひいてはそれを裏で操っている経済界
国際的な裏駆け引き 思想の対立
利権 特権 それを遺憾なく行使するため
もしくは不正を闇に留めておくため
パンドラの箱を開かせないための嘘
人類は歩めば歩むほど、それを繰り返し足元を複雑化させてきた
遂に人間は地球を人間の住めない星にしようとしている それがわかっていても便利さや今あるシステムを率先して変えることができないでいる 
知らず知らず私たちが忌み嫌う権力が構築した利益構造システムに与している

このどん詰まりをどうしたものか
明確な答えをまだ私は持たない
けれど人任せにして誰かのせいにし続けて恨み言をいい続けるのか
ひと手間を惜しんで便利な何かを手に入れることばかりを求め複雑化していくのではなく
ひと手間が増えてでも過剰に便利な何かを手放すことでシンプルな方法に回帰する時がきたのかもしれない
全ての創り上げられた価値観を、今一度見直す必要があるのかもしれない

彼女のパフォーマンスは、結果私にはとても響くものだったし、私の個人的な解釈では、批判したり誹謗中傷する人の姿すら彼女のパフォーマンスの一部であり、日本の今の現実や人というものの本質を見た気がした

なので現実と向き合いながら踊ったとする彼女のパフォーマンスは、私の解釈のなかでは確実に腑に落ちるものであり、色んな意味で追悼の目的を十二分に達成していると感じた

この解釈は彼女のパフォーマンスをアートとして受け取った私だけのたからものだ
本来の意図と違っていたり、他の人とは違っていたとしても、私が手に入れたものを取り上げることは誰にもできない
とりとめのない駄文だが忘備録として

ありがとう アオイヤマダ
ただのファッションアイコンでない
本物のパフォーマー
あの場で世界に言葉を使わず届けたメッセージは、私含めそれぞれの感性に受け止められ
息づき芽吹く
その並外れた勇気とずば抜けた唯一無二の表現力に敬意を表して

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