見出し画像

わが青春、自販機エロ本の世界③

 アリス出版といえば、自販機エロ本の代名詞的存在として知られている。同社は、元檸檬社の小向一実と同社で彼の後輩だった亀和田武を創立メンバーとしてスタートした。檸檬社は『漫画大快楽』などで知られるエロ本出版社の老舗である。
アリス出版という社名は亀和田によるネーミングだそうで、むろん、ルイス・キャロルの童話『不思議の国のアリス』からの着想だろうが、なかなかのセンスだと思う。亀和田は、のちに深夜放送の司会やワイドショーのコメンテーターとしても活躍しており、その名と顔を覚えているという人も多いだろう。社長の小向は、アリス出版解散後、備前焼の陶芸家に転身、現在では世界中にファンを持つ名工だ。
自販機本には、大別して、写真集仕立てのグラフ誌、記事モノ主体の実話誌、それに劇画誌の3種がある。僕が業界に入ったころには、既にグラフ誌はその任をより過激なビニール本に譲っており、実話誌と劇画誌が残るだけだった。亀和田が編集長を務める『劇画アリス』は、全共闘世代らしいアジテーションたっぷりの編集後記が語り草になっていた。
対する、業界第2位のエルシー企画は『女子便所』シリーズなどスカトロ路線で名を馳せながら、一方「もう書店では文化は買えない」という秀逸なキャッチコピーを旗印に、オカルトやドラッグなどサブカル色の強い誌面づくりが特徴的だった。ちなみに、「もう書店では」のコピーを書いたのは、明石賢生社長の盟友にして懐刀である佐山哲郎。佐山は実に多才な人で、実家は江戸から続く寺院で自らも僧籍にあり、SM作家、編集者、歌人、などの肩書をもっていた。近年、当人すら忘れていた若いころの仕事――原作を担当した少女マンガがジブリでアニメ化され、これには本人をよく知る僕も大いに驚いたものである。『コクリコ坂から』がそれだ。
自販機本編集者、その後の半生もいろいろである。


よろしければご支援お願いいたします!今後の創作活動の励みになります。どうかよろしくお願い申し上げます。