見出し画像

やすきよもドラえもんもムックもレポーターだった! 『テレビ三面記事ウィークエンダー』の時代

泉ピン子の原点がここに

♪チャッチャラチャチャッチャ~。新聞によりますと……。
 クインシー・ジョーンズの『鬼警部アイアンサイド』のテーマをキャッチに、お決まりのナレーション。なつかしの『テレビ三面記事ウィークエンダー』(日テレ系)である。
 タランティーノの『キル・ビル』でも同曲は効果的に使われていたが、このメロディーを聴いてレイモンド・バー演ずるアイアンサイドのしかめっ面よりも、まず『ウィークエンダー』を思い出したという人も多いのではないか。
 番組のコンセプトはいたってシンプルで、性犯罪や猟奇犯罪、あるいは、通常のニュース番組では取り上げないようなローカルな事件を、「レポーター」と称するタレントたちがフリップボードや再現フィルムを使って解説していくというもの。後述するように、レポーター役のタレントたちは、今見れば、かなりの豪華メンバーだ。

 この番組で泉ピン子が大ブレイクしたのはよく知られている。今でこそ石井ふく子ファミリーの中心人物として大女優の貫禄たっぷりのピン子だが、『ウィークエンダー』以前は、単なる売れない漫談家で、彼女の師匠である牧伸二が司会をする『大正テレビ寄席』でたまに見かけるぐらいの存在だったと思う。というより、『テレビ寄席』以外の番組で彼女を見た記憶がない。肝心の彼女のギター漫談というのが、これまたクソつまらなかった。ふてくされような顔で、「…だよね、おじさん」と客イジってさびしく笑いを取る典型的な三流芸人だったのである。
 その彼女が、『ウィークエンダー』では、身振り手振りをまじえた放送コードスレスレの下ネタ連発で、ついには番組の「顔」にまでなってしまうのだから、運というのはどこに転っているのかはわからない。『ウィークエンダー』なしには、その後の『おしん』も『渡鬼』もなかったのである。

この当時、誰が大女優ピン子を想像しただろうか。
これは『ウィークエンダー』でなく、東映映画『戦後猟奇犯罪史』(76)に、まんまレポーター役で出演したときのもの。番組&ピン子の人気のほどがうかがえる。フリップの写真は、大久保清に扮した端役時代の川谷拓三。

 司会は加藤芳郎。NHK『連想ゲーム』男性組キャプテンで、そのしゃべくりと回転の速さは実証済みで、むしろ彼が漫画家であると知っている人も当時は少なかったかもしれない。まあ、この人もピン子同様、本職の漫画の方は絶望的に面白くなかった。

加藤芳郎。話が落ち過ぎないように、ストップをかけるタイミングは絶妙だった。漫画は『まっぴらくん』『オレはオバケだぞ』など。

宮尾すすむを輩出した『テレビ三面記事』

『ウィークエンダー』の基本コンセプト自体は、同じ日テレの朝のワイドショー番組『あなたのワイドショー』(のちの『ルックルックこんにちは』)の金曜日のコーナー企画『テレビ三面記事』で既に出来上がっており、同コーナーが好評だったために、土曜夜10時というプライムタイムに格上げスピンオフさせたのが『ウィークエンダー』なのである。同番組スタート後も『テレビ三面記事』は継続されており、レポーター役のタレントも多く重複している関係上、両者は、姉妹番組と呼ぶのがより正確だろう。
 というわけで、ここでは朝の『テレビ三面記事』も併せて語っておきたい。
 こちらの司会はE・H・エリック、のちに田中浩。田中は俳優としては地味な存在だったが、「わんぱくでもいい」の丸大ハムのCMで広くお茶の間に顔が知られていた。
 事件紹介前のキャッチ音楽は、ブラス・ロックの雄ブラッド・スエット&ティアーズの代表曲『スプニング・ホイール』のイントロがそのまま使われていた。『アイアンサイド』と甲乙つけがたい選曲だと思う。
 事件紹介のナレーションは、『ウィークエンダー』は前述の「新聞によりますと」で始まり、『テレ三』は「~のよーうですッ」で締めるなど、ともに特徴のあるものだった。

 朝版『テレビ三面記事』の泉ピン子的存在が、「ハイッ」のポーズでおなじみの宮尾すすむである。彼もこの番組でブレイクしている。
パンティ泥棒やロリコン教師などのB級犯罪を、切れ間のないマシンガントークで、時に額に汗をにじませながら紹介する彼のレポートは最高に面白かった。正直、個人的には、泉ピン子よりも下ネタレポーターとしては宮尾を買っていた。当時、中学生だった僕は、遅刻覚悟で宮尾のレポートを見てから登校したものである。

まさに全身レポーター。『テレ三』は宮尾の原点なのに、ウィキに一言も記述がないのはファンとしては大いに不満である。

宮尾VSピン子、一度だけの対決

 先にも少し触れたが、『ウィークエンダー』と『テレ三』は、レポーターの重複も見られるものの、『テレ三』の看板である宮尾の『ウィークエンダー』への出張出演はなく、宮尾&ピン子の夢の競演はなかなか実現しなかった。これは、プロデューサーの賢明な判断だと思う。結果、『テレ三』の寿命を延ばすことになったのではないか。   
 また、レポーターや紹介する事件が被る場合でも、『テレ三』で紹介した事件を『ウィークエンダー』では同じレポーターに担当させないなどの配慮もされていた。実際にレポーター役のタレントが現場で取材するというのが両番組のコンセプトだから、同一事件を別々に二人のレポーターが取材しているということになる。
 さて、宮尾&ピン子の共演はなかなか実現しなかったと書いたが、『‘75イヤーエンダー』と題した大晦日特番企画で一度だけそれが実現している。
既に下ネタの女王としてお茶の間に認知されていたピン子は安定の下品トーク。対する宮尾は得意の下着ドロネタをぶつけて来た。宮尾は白熱のレポートの終盤、信じられない行動に出たのである。突然、スーツとズボンを脱ぎ出したのだ。その下から出てきたのは、股引にガードル、ブラジャーをつけた宮尾の姿だった。なんでも事件の犯人が捕まったときのスタイルを再現したのだそうで、これにはスタジオ内は爆笑に包まれていた。
 とはいえ、僕自身はこの宮尾の奇襲攻撃的ギャグにあまり感心はしなかった。宮尾にはやはりトークでピン子を圧倒してほしかったのである。もっとも、後年のテレ朝『モーニングショー』の人気コーナー「宮尾すすむの、ああ日本の社長」で見せた体当たりレポートの片鱗がここにあったともいえるかもしれない。個人的には『スターどっきり㊙報告』の、女子プロレスの人気者ビューティ・ペアの寝起きを襲撃するというレポートで、ホテルの部屋に干してあったジャッキー佐藤のパンティをジャスチャーだけとはいえ、クンクンしてみせたあたりに、宮尾のレポーター魂を見た思いがした。

やすきよとざこば

 では、『ウィークエンダー』その他のレポーター陣の顔ぶれを見てみよう。この番組がいかに贅沢な番組であったかがよくわかろう。
 まず、大物中の大物といえば、横山やすし、西川きよしのコンビ。やすきよは当時、『プロポーズ大作戦』(朝日放送系)の司会でもおなじみだったが、彼らを一レポーターとして使うなんてずいぶん大胆なことだったと今でも思う。番組のプロデューサー側と深い信頼関係があったのかもしれない。そもそも、やっさんにいたってはレポーターというよりも、三面記事沙汰起こして取材される側の方ではないのか、そんなジョークさえあった。
コンビで一本のネタではなく、それぞれ一本ずつ別個のネタをレポートしていたと記憶する。

桂朝丸。『テレ三』とのかけもち組。現在、上方落語会の重鎮として知られる桂ざこば師匠その人である。女を食い物にするヤクザ者などの事件を得意としていた。興奮すると犯人の写真ボードを指で叩きながら、「ホンマ、悪いヤッちゃで」とののしるのが特徴。時には怒りにまかせてボードを放り投げたこともあった。

桂朝丸。「~だ。ほなら~だ。んでもうて~だ」と、語尾の”だ”が特徴的。

 朝丸レポートでよく憶えているのは、「コンニャク売春」事件である。子持ちの年増売春婦のポーチからコンニャクが出てきたことから番組の中でこう呼ばれていた。行為の前、コンニャクを膣に入れると避妊の効果があると女は信じていたようだ。不覚にも警官とは知らず客を引き、その場で御用となったという。どこかわびしさの残る事件だった。
 やすきよや朝丸のような在関西のタレントのレポーター起用は、主に関西方面の事件に即対応するためもあったとも思われる。

アイスキャンデーべろん

青空はるお。 彼も『テレ三』かけもち組。かつて青空あきおで漫才コンビを組んでおり、コンビで出演していた子供番組『怪盗ラレロ』が筆者の世代にはなつかしい。
 男女の痴情のもつれによる殺傷事件といった生々しいものから、通学路の露出狂のような軽犯罪まで、あつかう事件は幅が広かった。番組後半では、のぞき部屋などのいわゆる新風俗の取材も担当した。大阪にあった「エミルマ・カナノトーカス」(ひっくり返すと「スカートの中まる見え)という床鏡張りのノーパン喫茶をテレビで最初に紹介したのは、青空はるおレポーターである。
 露出狂の事件の紹介では、「アイスキャンデーべろん」というフレーズを好んで使った。アイスキャンデー(キャンディでなく)=おちんちん、べろん=露出という意味である。人気レポーターは、このように得意のフレーズをもっている人も多く、たとえば宮尾すすむは「モミモミサワサワ」(揉む・触る・の宮尾流擬態表現)というフレーズを多用していた。朝丸の「悪いやっちゃ」もこれにあたるかもしれない。
 同門では青空うれしもレポーターとして登場している。

青空はるお「アイスキャンデーべろん」の”べろん”の手振りに熱がこもっていた。

大山のぶ代。 そう、ドラえもんである。声優歴は長く、のび太役の小原乃梨子とは『ハリスの旋風』(66)が初共演だった。女優業の他にエッセイや料理の本を出すなど多才なタレントとして知られている。
『ウィークエンダー』では、家出少女がまきこまれる犯罪といった類のものを多く扱った。取材風景を実写で見せることもあった。
 なお、大山の夫・砂川啓介も単発的に何度か『ウィークエンダー』や『テレ三』でレポーターをつとめたことがあり、大山が『ウィークエンダー』、砂川が『テレ三』で、同じ事件を取材中、現場でバッティングなんてこともあったらしい。お互いの取材情報については家庭でも話さないようにして、番組でのレポートの鮮度を優先したという。

実は『太陽にほえろ』などの脚本もこなす才女でもあった。シャツとエプロンの組み合わせがドラえもんカラー。

石山かつみ。 かけもち組。ご存じ、『ひらけポンキッキ』の人気キャラクター、ムックの声優さんだ。筆者の見立てでは、ムックのスーツアクターも彼ではなかったと思っている。というのも、レポートをしながら見せる彼の指先の動きが、ムックそのものだったからだ。おそらく、ムックを演じるためにパントマイムを修行、あるいは独自研究していたとみられ、それがあの動きになったのではないか。ご本人も身長180センチの、着ぐるみ負けしない堂々たる体躯の持ち主である。
 石山レポーターのあつかった事件で強く記憶に残っているのは、ろうあ者の少女をろうあ者仲間が恐喝していたという、なんともやりきれない事件。恐喝は白昼人目もはばからず、喫茶店や電車の中、手話で行われていたという(健常者には話している内容がわからない)。

ガチャピンは男性器の、ムックは女性器の暗喩ともいわれた?

レポーターから大臣へ

 高見恭子。 作家・高見順の娘で、元プロレスラー現衆議院議員(元文科大臣)馳浩氏の現夫人。遠縁にはあの永井荷風もいるという(ただし、荷風自身は生前、高見順を嫌っていたらしい)。
もともと少女モデルだったが、彼女もまた『ウィークエンダー』のレポーターをステップボードとして全国区のタレントとなっていく。
 並みいるレポーターの中では若手で、フレッシュさを期待しての起用だと思うが、どのような事件をレポートしていたかは記憶にない。ただ、後年の毒舌なキャラクターを思えば、のぞき見趣味的な番組の雰囲気には合っていたのではないか。

山谷えり子。 かけもち組。いうまでもなく、元防災担当大臣、自民党女性議員の中堅要(かなめ)的存在である。なんと、『ウィークエンダー』は大臣まで輩出していたのだ。おそるべし。もともと『朝のワイドショー』~『ルックルック』枠で広くレポーター&コーナー司会(「ドキュメントおんなののど自慢」)の"泣かせ"ナレーションは必聴)を担当、そのいきおいで『テレ三』『ウィークエンダー』に起用されたものと思われる。

すどうかづみ。 ヒット曲こそないが、歌手歴は長く女優としても活躍していた。アニメ『海のトリトン』のEDテーマを無名時代の南こうせつ&かぐや姫と歌唱している(須藤リカ名義)。
 色白、セミショートカットのキュートなルックスに似合わぬ、ハスキーボイスとあけすけなしゃべりで、泉ピン子に次ぐ、女性下ネタ担当ナンバー2のポジションを確保していた。
 彼女のレポートで記憶に残っているのは、女性用のロングブーツを盗んで集めているフェチ野郎の事件。盗んだブーツの匂いを嗅いでいるうちに、靴墨で顔が真っ黒になるというマヌケな変態を身振り手振り交えて面白おかしく演じていた。なぜか、あの加山雄三と噂になったこともアリ。

しゃべらなければ、そこそこ可愛い? すどうかずみ。

しまざき由里。 『Gメン75』のEDテーマ『面影』の歌唱者であることは当時から知っていたが、タツノコプロのアニメ『ハクション大魔王』『みなしごハッチ』のこぶしとパンチの利いた、あの歌声が彼女だと聞いたときはびっくりした。しかも、『ハクション』を歌っていたときは13歳だというから二度びっくり。ちなみに、アニソンの女王・堀江美都子は、やはり13歳でタツノコアニメの『紅三四郎』テーマ曲でデビューしている。
 しまざきは、レポーターというよりも、再現フィルムの紹介役といった役どころで、動画の前後に事件の概要を説明するのが主な役回りだったと思う。同様のポジションだったのは高山ナツキか。ここいらへん、あくまで筆者の記憶にたよって書いているので、100パーセントの自信はない。読者のご教授を乞う。

「ハードボイルドGメン75」というわりには、お話も主題歌も湿っぽかった。


 他に、天地聡子、野沢那智、春やすこ(朝丸降板後の枠)、エド山口、うつみ宮土里、それにターキーこと御大・水の江瀧子らが、レポーターとして登場しているらしいが(ウィキ情報)、残念ながら記憶にない。しかし、それにしても、名前だけみてもすごいメンツである。

番組が生んだ“事件”
 
『ウィークエンダー』は常時視聴率20パーセント超えの怪物番組だった。「低予算で視聴率を稼ぐ」ということで、他局も注目しており後発するレポート番組の雛形ともなった。NET(テレ朝)の『独占!女の60分』など、明らかに『ウィークエンダー』の影響下にあった。
 一方、俗悪番組という評価も根強く、毎週放送終了後には内容のお下劣さに抗議電話が殺到したが、局側は「これも番組が広く観られている証拠」とむしろ歓迎していたという。
 とはいえ、実際に“やらかし”もあった。主婦が飼い犬とセックス中(つまり獣姦)、「抜けなくなく」、病院に運ばれるという事件(?)を泉ピン子がレポート。「その事件があったのは、このお宅です」と出したフリップが、同じ町内のまったく無関係の別の家の写真だったのである。全国ネットで「獣姦の家」と紹介された当の家の主婦は大激怒、これは週刊誌ネタにもなった。現在だったら、間違いなくBPO案件だろう。番組自体が吹っ飛んだ可能性もある。それはともかく、僕は「膣痙攣」(ちつけいれん)という言葉と意味をこのとき初めて知った。
“やらかし”ではないが、こんなこともあった。『ウィークエンダー』でなく本家『テレ三』でのことである。夏ということで、怪談ネタとして、青森県某寺に伝わる生首掛け軸を三遊亭夢丸(現・夢八)レポーターが紹介。スタジオで披露された実物の掛け軸の生首の目が開いた、という視聴者からの電話が多数入り、確認したところ、確かに場面によって目が開いて見える箇所があったという。翌週の『テレ三』で、これを検証。さらに同局の『あなたの知らない世界』でも紹介された。
 

再現フィルムから飛び出た怪優

 さて、『ウィークエンダー』といえば、やはり再現フィルムについて語ないわけにはいかないだろう。
要するに、事件をもとに5分程度のドラマに仕立てたもので、いきおい男女の濡れ場が出てくるので、これを目当てに番組を観る視聴者も多く、キラーコンテンツのひとつだった。特に、中坊にしてみれば、親と一緒に見ることのできる数少ない「裸」だから、月曜日の休み時間、『ウィークエンダー』の話題となれば、まずこれだった。修学旅行の旅館のテレビで、みんなで集まって観たなんて記憶のある読者も多いに違いない。
 実は、日テレはこの手の再現フォルムを得意としていて、『ルックルック』や『お昼のワイドショー』内でたびたび流しており、いわばお家芸でもあった。いずれも、低予算の暗い画面、無名の男女優が演じるベッド・シーンは、そのチープさゆえにリアルなエロさが漂っていた思う。正直、火サスのシャワー・シーンより、そちらの方の需要はあったのではないか。
なんと下積み時代の大地康夫が、『ウィークエンダー』再現フィルムの常連出演者だったという情報も得ている。さすが、ノンフィクションドラマ『深川通り魔殺人事件』(83年)で、犯人・川俣軍治(ドラマでは仮名)をリアル過ぎるほどリアルに演じ視聴者を震え上がらせた大地だけあって、リアルを信条とする再現フィルムの世界はピッタンコではなかったか。他に山口良一や柳沢慎吾も再現フィルム出身者(笑)だという。
こうみると、やはり『ウィークエンダー』は、昭和芸能人にとって隠れた出世の門だったのかもしれない。

あの落ち着きのない独特のしゃべりはむしろレポーター向きか。

・・・・
(初出)「昭和39年の俺たち」2021年5月号(一水社)

よろしければご支援お願いいたします!今後の創作活動の励みになります。どうかよろしくお願い申し上げます。