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目からビーム!141 IF(イフ)のワンダーランド、その名は満洲国

 歴史にイフは禁物だという。しかし、イフを語るのもまた歴史学の楽しさである。
 かつて満州国という国があった。今では、負のイメージでしか語られない満洲国だが、そもそも建国のスローガンは五族協和、つまり多文化共生であり、おまけに皇帝は同性愛者、今でいうところのLGBTというわけで、今日的な意味でいえば、リベラル派にとって、ある種の理想を具現化したような国家ではなかったか。彼らによる再評価が待たれる。
 五族とは、すなわち、日・満・支・蒙・朝の5つの民族を意味するが、実際は、白系ロシア人も多く住んでいたから六族といってよく、他に少数ながらトルコ系もいた。それらが、上手に棲み分け、あるいは融合し、独特の文化を育んでいたのである。

五族協和をアピールする満州国の郵便切手

 そればかりか、日本は当時ヨーロッパで迫害を受け流浪の民となっていたユダヤ人を満洲の地に受け入れ自治区をつくらせる計画(河豚計画)さえ立てていた。もし、ユダヤ人が満洲の地に、第二のカナンを見つけたとしたら、ひょっとしてパレスチナ問題も起らなかったかもしれない。河豚計画自体は、有耶無耶のまま頓挫したが、のちにホロコーストの恐怖から逃れ、ソ満国境オトポールで立ち往生していたユダヤ系ドイツ人難民に満洲通過を許可し、結果、多くの命を救っている。責任者は満州国ハルビン特務機関長だった樋口季一郎陸軍中将である。同盟国であるドイツの干渉を突っぱねての人道第一の措置であった。
 そんな満州国を、中国共産党は偽満洲国といい、傀儡国だ、日本の侵略だという。満洲国建国を侵略だというのなら、現在、東北三省と呼び中華人民共和国の領土に組み込んでいるのは、はたして侵略ではないのか。もともと、あの土地は満州族の故郷である。漢民族は万里の長城から南に退くがよい。
 満洲国とよく似た人工国家、移民国家がアメリカ合衆国である。満洲の赤土だらけの大地を耕し都市を築いたのは日本の開拓団だ。まさに東洋のフロンティア精神である。イギリスの植民地として始まったアメリカは紆余曲折を経て、今も多くの問題を抱えながらも世界有数の大国として存在している。アメリカ独立宣言から250年弱、満州国にそれだけの時間をくれたら、今では立派な独立国、産業立国となっていたはずだ。
 もし満州国が存続していたら、今話題の難民問題も起らなかっただろう。クルド人もロヒンギャンも王道楽土で仲良く暮らしている可能性も捨てきれない。いや、満洲があれば、中国が赤化することもなかったかもしれないのである。
 歴史のイフは、現代を見つめる装置でもあるのだ。

(初出)「八重山日報」

一般にチャイナドレスと呼ばれる旗袍(チーパオ)ももともとは満州族の装束だった。

おまけ ジャイアント馬場が歌う『満州里小唄』。迫害を逃れた約2万人のユダヤ人は、満鉄終着駅の満洲里からシベリア鉄道に乗った。彼らを救ったのは、樋口季一郎陸軍中将、そして満鉄総裁だった松岡洋右である。

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