スペクテイター vol.52「文化戦争」特集 【まえがき】公開
昨年末に発売した『スペクテイター』最新号「文化戦争」特集の【まえがき】を公開します。
「文化戦争」聞きなれない言葉。
だけど、身近で起こっている、放っておけない問題でもあります。
無益な争いをなくすには?
ともに考えてみませんか。
INTRODUCTION いま、なぜ、文化戦争か?
分断、二極化、対立、内戦…。
アメリカの社会を語るコトバのなかに物騒な単語が混じりはじめたのは、いつ頃からのことでしょうか。
「アメリカを偉大に!(Make America Great Again!)」と書かれた赤いキャップをかぶったドナルド・トランプが大統領候補に躍り出た2015年頃から、その兆候が見られるようになった気もするけれど、もしかしたらもっとずっと前からアメリカ国内では見えないところで怨嗟や怒りが渦巻いていたのかもしれません。
人種差別、人工妊娠中絶、ジェンダー平等など、ひと筋縄ではいかない課題をめぐる意見の対立は、SNSやインターネットの中だけにとどまらず、ときには激しい誹謗中傷や破壊行為にまで発展していることが、最近出版された本にも書かれています。
そうして伝えられるアメリカ社会の揉めごとを、遠い海の向こうの出来事として捉えておけばよいかというと、どうやら、そういうわけにもいかなそうです。
個人の自由、権利、平等といった大きな概念をめぐる〝文化的な〟論争が、ここ日本でも、キャンセル・カルチャー、ポリティカル・コレクトネス、WOKE、アイデンティティ政治などの新語と共に繰り広げられていることに、おそらく皆さんも気づいていることでしょう。
国家や民族どうしの紛争ではなく、個人や集団が自らとは異なる考えをもつ相手と反発しあう状況。
絶対的な価値観をめぐって賛否が分かれ、互いを攻撃し合うこと。
これがCulture War、〝文化戦争〟と訳される言葉の定義です。
この〝あたらしい戦争〟は、いつ、どのようにして始まったのか?
私たちは、なぜ、誰と、なにをめぐって戦っているのか?
そんな疑問を解き明かし、毎日の暮らしのなかで何となく感じるモヤモヤを解消するために、この特集はつくられました。
複雑多岐にわたる社会の諸々の揉めごとを解決するためのひとつの答えは示せないけれど、出来事の歴史を紐解き、その根底に流れるものの正体を知ることができれば、無闇な諍いも少しは減らせるのではないか。そんな思いを抱きながら編集作業にあたりました。
バランスを失い左右に激しく揺れている社会が再び均衡を取り戻す、そのきっかけに本特集がなれたら幸いです。
スペクテイター編集長・青野利光
スペクテイター 52号 文化戦争
自分とは異なる立場や価値観をもつ相手を攻撃しあう〝文化戦争〟と呼ばれる状況は、いつ、どのように始まったのか? アメリカの事例と歴史を振り返りながら、社会の二極化がすすむ理由や、保守・リベラルといった政治思想の対立軸のしくみを探ります。
主なコンテンツ
●“文化戦争用語”の基礎知識
●まんが「Riots IN USA アメリカの大学に台頭する息苦しい現実」
作画/芳川ミコ 原作/赤田祐一(編集部)
●論考「PC論争と文化戦争」
文/高階悟
●リベラルと保守のちがいがわかる政治思想入門
構成・文/桜井通開
●図説 ひとめでわかるリベラルと保守のちがい
本テキスト提供/河野博子 画/藤本和也
●サミー前田氏に聞く 三多摩に流れついた日本のロック
取材・構成/編集部
●まんが「リベラルと保守──アメリカ政治の50年」
作画/関根美有 原作/赤田祐一(編集部)
●アメリカ政治思想の現在を理解するための読書案内
選書・文/桜井通開
●漫画評論「WAKE UP! ふくしま劇画にウォークネスを発見せよ」
文/宇多川岳夫 図版協力/ふくしま政美
●アメリカ政治思想史研究者・井上弘貴さんに聞く「日本人が知らないアメリカ保守」
取材・構成/鴇田義晴
●ジャーナリスト・河野博子さんに聞く「“文化戦争”の起源と根底にあるもの」
取材・構成/赤田祐一(編集部)
スペクテイター 52号
発売日 2023年12月20日
定価 本体1,000円+税
発行 有限会社エディトリアル・デパートメント
発売 株式会社 幻冬舎
ISBN 978-4-344-95459-5
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