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第4話 チャーリーのケガ

チャーリーと俺はこの日も仲間達と共に公園に集っていた。
スケーター連中がジャンプ・ランプを飛ぶのをながめていた「ターちゃん」こと粕谷守唯が突然、ランプに向かってBMXを漕ぎだしたかと思うと、360度エアリアルでランプを飛び抜けて皆のド肝をぬいた。
それというのもBMXのエアリアルはランページやボウル、クオーターパイプを利用した、いずれもR面に戻るものしか見た事がなかったからだ。それを見たスミオ (堀沢寿美男) とおサル (田村健)もすぐにチャレンジしてメイクしてしまった。 まったくもって、たのもしいズバ抜けたセンスを感じさせるライダー達だ。
皆が歓声をあげて盛り上がってくると、潮も近々に来日が噂されている「バイシクル・フィギア」の連中には負けていられないといってフリースタイルの練習に熱を入れ始める。そんな雰囲気の中、ジャンプ・ランプを飛んでいたチャーリーがワンフット・エアーの着地に失敗して両膝をケガしてしまった。 ボードから後ろ足がはずれた状態で着地してしまった為、前足はボードに乗ったまま前方に引っぱられ、後ろ足は地面を引きずられる格好になってしまったのだ。
俺は体が柔軟なチャーリーが、幾度もヤバイ事故を無傷でかいくぐってきたのを目撃してきたのだが、そんなチャーリーが珍しく痛がるので仕方なくこの日はサニトラで送って帰ることにした。

翌日、痛みのおさまらなかったチャーリーは地元生田の病院へ行くと、両膝の靭帯損傷と診断されて車椅子をあてがわれ、即日入院となってしまった。 医者が両膝を一度に損傷する患者は診たことがないと言って驚いていたことからも、スケートがいかにリスキーなスポーツであるかが判る。

チャーリーの入院中、俺は二日に一度漫画本を持って見舞いに行った。生来アクティヴなこの男は、ベッドでじっとしている事が我慢できなかったとみえて、車椅子でウイリーが出来るようになっていた。聞けば2度ほど失敗して後ろにひっくり返ったという。馬鹿な俺はそんなチャーリーを3度ばかり病院の外に呑みに連れ出していたのだが、その3度目が年貢の納め時となった。 その日はチャーリーの弟の真二君と3人で病院の近くの居酒屋でひとしきり呑んでから病院へ戻ったのだが、俺はいつものように一人で先に病室へ医者や看護婦がいないか様子を見に行くと、そこにはなんと鬼のような形相のチャーリーの両親の姿があった。

親父さんから「一也はど こですか?」と詰めよられた俺はしどろもどろに 「イヤ、あの、もう玄関の近くまで戻って来てます」と言い、一足先に走っ てチャーリー達の所に戻り「やべえ、林夫妻がお見えだぞと言うと「ウソっ?」と聞き返すチャーリーの顔からみるみると血の気が引いていった。 怒り心頭の親父さんは3人に歩み寄るといきなり真二君の横面を思い切り平手で打った。それを見ていた俺も「コレは俺もヤラれるな」 と覚悟したが、親父さんは次にチャーリーを睨み据えると「おまえは今はけが人だから堪えとくが・・・」とそのけが人のけがの治りが遅 くなるような脅し文句でチャーリーを追い込んだ。俺はスゴスゴと原チャリにまたがり家路に着いたが、結局チャーリー はこの夜病院を強制退院となった。

退院後チャーリーはBMXに転向したのだが、何年も後に俺に語ったところによると、俺はチャーリーの入院中に町田の東急ハンズで行われた AJSA 主催の大会に初めてエントリーしていた。 初めての大会に舞い上がってことごとくトリックを失敗し、 惨憺たる結果に終わったのだが、自分が入院している間に俺が一人で先に大会に出場してしまったことで、なにか水をあけられたような気持ちになってしまったからだという。思えば漠然とではあるが二人揃って大会に挑戦 する日のイメージはお互いに持っていたかも知れない。その頃の俺にそんなチャーリーの気持ちを思い計ることが出来れば、焦って大会に出る事もなかったのだと思う。

林[チャーリー]一也  写真はBMX転向後のもの

つづく


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