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第5話 駒沢パーティー・アニマルズ

駒沢公園にほど近い潮の家では不思議な事に両親の姿を見かけたことがなく、POSSEの格好の溜まり場となっていて、けしてせまくない玄関先はいつも VANS やエア・ジョ ーダン、ニューバランスといったスニーカーやスケートボードで埋め尽くされていた。

2階にある潮の部屋のドアは時に硬く閉ざされ、HOMEGIRL達に催淫作用があるといわれる「RUSH」を嗅がせては、いかがわしい行為が行われていることもあった。 若く、体力と運動能力 に自信のあるアニマル野郎共の集団だった為、普段は仲間同士の結束は固くても、女のコがらみのトラブルで険悪になることもしばしばあった。

夜になっても両親不在のこの家はパーティー会場としても申し分がなく、 15~16人が1階の部屋と2階へ通じる階段、踊り場、潮の部屋と、潮にはミッシェルという可愛い妹がいたが、そのミッシェルの部屋以外のどこかで呑んだくれていた。

そんなある日の晩酔っ払ったチャーリーと潮がケンカをおっぱじめた。 なにが原因だったのかは定かではないが、チャーリーが近くにあったゴルフのパターを、ベッドの枕元に腰掛けた潮の背後の壁に思い切り突き刺すと、潮は「テメ、おもしれえ、オモテ出ろオラァ!」と叫んでチャーリーの胸ぐらを掴むと、チャーリーも「おお、上等だよ、コノヤロウ!」といって揉みあいながら階下へと降りて行き、玄関を出ることを待たずして激しい殴り合いになったので、俺は5~6発被弾することを覚悟して必死で間に割って入り、やっとの思いで2人を引き離して「やめろっつの、オメエらはあ、仲間だろうがあ」といってなだめ、なんとかその場はおさまったがまだお互い納得いかないようだったし、パーティーも思いっきりシラケたのでこの晩はもうチャーリ 一と俺はサニトラで帰ることにした。

そんなことがあっても、85年に年の瀬がせまる頃には性懲りもなくクリスマスパーティーが催され、いつにも増して多くのPOSSE達がクリスマス気分にウカレて潮の家につめかけた。それぞれが手に手に酒やつまみを持ち寄り、家中に爆音で皆のお気に入りの曲が鳴り響いた。酒がまわってくると、だれかがだれかの肩にパンチを入れたりといったお決まりのウザりあいに始まり、人に向けてクラッカーを発射する不届き者が現れたことがきっかけとなって部屋中で壮絶なフード・ファイトが始まった。

ベビースターラーメンを 投げあったりしているうちはまだいいものの、人の顔面に口に含んだ酒を吹きかけたりするので、そろそろ潮がカリカリき始めていたが、自分のアフロのようなちぢれ毛の間に入ったベビースターラーメンがなかなか取れなくなって難儀している。この地獄のような飲み会に「カミナリおこし」を持参 するという気の利いたバカがいた為に戦場は更なる凄惨な様相を呈してきた。「カミナリおこし」はぶつけられて痛いだけでなく、床に散らばった破片を裸足で踏むとせっかくの酔いも醒めてしまうほど痛いのだ。 皆この「カミナリおこしの「地雷原」の犠牲となり、あまりの痛さに目を白黒させながら「痛ってー! 誰だよ、カミナリおこしなんか持ってきたのはよー! プーさんだべえ?」などと口々に罵りあっていたが、この状況で「スイマセン、俺です」などと自白しようものなら全員から標的にされることは目に見えているので当然真犯 人は現れなかった。

夜中の3時をまわるとそろそろ酔いつぶれて、寝に入る奴も出てくるのだが、ターちゃんが寝ゲロしているのを発見した潮は「マジかよこいつ、最悪だよお!」といって、いまいましげに足のつま先でターちゃんの尻をこづいた。 先にご就寝を決め込んだ勇気ある後輩POSSE達には、その栄誉を称え、勇者の証として両の頬にチューブ入りわさびを使ってあの蚊取り線香型の「バカボンの頬っぺた」マークがもれなく与えられたのだが、これは朝起きると見事にみみず腫れとなってくっきりと皮膚に浮き上がり、「痛えよー、すげーヒリヒリするよー」といって泣くハメになったことはもちろん、お天道様の下を素顔で歩くこともままならなくなってしまった。


つづく


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