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第3話 高橋潮 武勇伝編

駒沢公園通り沿いのモスバーガーにたむろして聞く潮の武勇伝はネタが尽きることがなかった。いつも7~8人でテーブルを囲み、バーガーやフレンチフライを食べ、コーラをストローですすりながら潮の話に聞き入った。

公園内にあるビルの4階ほどの高さの給水塔にBMXを担いでよじ登り、フェンスのない屋上のふちギリギリの場所でジャック・ナイフ状態でポゴをしているところを塔の全景が写るように写真に撮ってもらい、「MOVIN'ON」の「STREET SCENE」のコーナー宛に送ったが、「トリック写真は掲載出来ません」ということわり書きと一緒に送り返されたという話に始まり、暴走族時代の面白い話を聞かせてくれた。
 
決して大きな組織に属していたわけではなかったのだが、数人で皇居付近を爆音をたてて流していてペイント・ボールを投げられ、全身蛍光オレンジ色にされたあげく、捕まって交番で事情聴取をされた。氏名を聞かれた潮は「高橋 魔太郎です」とふざけた偽名を騙って警官から「ふざけるんじゃないよ」といわれて定規でなんどもしばかれた。しかたなく「高橋潮・ジョセフ・Jrです」と本名を名乗ると、「牛男・ジョセフぅ?どこにそんなおかしな名前のヤツがいるんだァ!」といって再度定規でしばかれるハメになり、結局、親父さんが身柄を引き取りに来るまで信じてもらえなかったそうだ。一同大爆笑だったが本人は「今思い出しても腹が立つ」といった様子だ。

また、潮には張 (チャン)という超強力な相棒がいて、チャンは暴走行為中に警官から妨害を受けて転倒し、右手の親指以外をほとんど失くしてしまったという。以来警官に対して強い復讐心を抱いたチャンは、単車に乗ることをやめるどころか、右手にゴム手袋をはめて巧みにアクセルを操作し、いつも単車にビニール傘を仕込んでおいて、パトカーが横に並ぶと本気で警官を突き刺そうとしていたらしい。

ある日、チャンは渋谷のハチ公前の交番に走らせた単車を突っ込ませて、そのまま半蔵門線に駆け込み、駒沢公園まで逃走して帰って来て「オマワリがせまい交番の中で 逃げまどってておかしかったぜ」と不敵に笑ったという。

潮は単車、四輪をあわせて20台近くをかっぱらっていた為、駒沢の自宅裏には部品取り車と化した単車がゴロゴロしていた。車はガソリンがなくなると適当に乗り捨てていたらしい。潮と一緒に車で出かけ、コンビニに入ると潮はすぐに防犯カメラの位置を確認する。どの店に入っても既にそれがクセになっているようだった。そして先にコンビニを出た潮が、しっかりカギをかけたはずの車の助手席にちゃっかり戻っているといったことも何度かあったが、こっちも面倒なのでいちいち追求しなかった。

さらに潮の話はつづく。かっぱらった車を某家電メーカーの倉庫に横付けにして侵入、ビデオ カメラやステレオ・カセット・プレイヤーなど役立ちそうな商品をしこたま満載して持ち去った。駒沢公園の連中は皆、ステレオ・カセット・プレイヤーを聴きながらBMXで激しいトリックをするので始終落として壊していた為、潮は当時 3万円もしたステレオ・カセット・プレイヤーを90%オフ の3千円で売り、皆から「ウシオ・デンキ」(笑) と呼ばれて重宝されたが、結局この事件がきっかけとなって手が後ろへまわり、鑑別所送りとなったという。

チャーリーと俺が駒沢 公園で潮と出会ったのは、ちょうどその鑑別所から戻ってきた頃だったので、潮はよく公園で保護監察官に提出する為の日記を書いていた。「朝、お父さんに車で学校に送ってもらい、云々」などと毎回同じようなウソを書いているので「お前の学校はこの公園かよ?」と言ってからかうと「ウルセ、見んなよ!」と言って日記を隠した。  
しつこく「朝ァ、お父さんとォ~」と言ってウザると「マジ殺すゾ!」と言ってスゴみな がらも顔を赤らめていた。
数日後、公園入り口にトヨタのソアラを横付けにした潮は窓を開けて「ヨオスケェ、今からコレ捨てに行くんだけど付き合ってくんない?」学習能力ゼロの男であった。


つづく


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