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優駿DVD(付録)の軌跡(はじめに)

『優駿』(ゆうしゅん)とは日本中央競馬会 (JRA) の機関広報誌として発行されている競馬情報の専門雑誌(月刊誌)である。書店扱いを販売の中心とする機関紙としては日本最大級の売り上げ部数を誇ると言われている。発行元は中央競馬ピーアール・センター。1941年5月創刊。

ウィキペディア『優駿』の項目より

1941年は大日本帝国時代の競馬にあたり、同年12月には真珠湾攻撃が行われている。

したがって、戦前における雑誌『優駿』は大変軍事的な側面を強く持つ媒体であった。

大東亜共栄圏、東条英機、軍馬(活馬、兵器)、内地(おおよそ現在の日本領土)以外の戦局情報(例えば、満州、朝鮮半島ほか)など紙面を飾る内容は盛り沢山であった。

そのような中でも、海外の競馬情報は詳細に伝えられていた。

競馬やサラブレッドの歴史・血統について、軍国日本を(支持する)文化人の執筆(随筆家、詩人など)、帝室御賞典や日本ダービーの結果、葦毛馬の競馬および軍事上の優位性、馬匹改良増殖と馬事思想の普及が宿命づけられた競馬法の中で血統議論は活発化した。

しかしながら、「競馬ファン」という言葉は早くも1920年代に登場している。

『競馬ファン』や『競馬クラブ』等の雑誌では軍事色の弱い競馬文化も着実に育まれていた。

調べてみると、当時「勝馬予想進呈券」という今のスポーツ新聞に見られるような企画も行われていたのだから驚きである。

この点についても別の記事(コラム)で触れることにしよう!

(ちなみに、筆者は戦前の競馬ファンのことを一括して「帝国の賭博者」と定義づけている。詳細は高橋(2021)を参照されたい。)

では、本題に入ろう。

雑誌『優駿』にDVDの付録が付いたのは2005年3月のこと。

(初回には「名馬の蹄跡シリーズ」はなかった。)

これを毎月視聴し続けて私は思った(当時)。

「競馬には歴史の縦軸以外に、名馬による(複層的な)横軸=物語がある」、と。

(横軸を縦軸と呼ぶかは微妙なところである。しかし、競馬史は絶え間ないが、名馬史は一定期間で必ず終わってしまうゆえに敢えて横軸と呼ぶことにした。ゲーム『ウマ娘』の場合は縦と横の概念を緩めたところに特徴がある。)

往年の競馬ファンはこのことを十分に理解し、例えば寺山修司のエッセイを読めばこの物語の意味を知ることが出来よう。

(なお、筆者のおススメは『勇者の故郷』になります。)

2005年を例にする。

この年の牡馬クラシック戦線ではディープインパクト、インティライミ、シックスセンス、アドマイヤジャパン、マイネルレコルト、ローゼンクロイツ、コンゴウリキシオーなどが活躍した。

結果、「無敗の三冠馬」(ディープインパクト)が誕生した。

これは決して覆らない歴史の縦軸(事実)を意味する。

一方で、1998年を例にして、

スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイロー、エルコンドルパサー、グラスワンダーそれぞれの名馬のDVDを観ることにしよう。

そうすると断片的に切り取られた各名馬の物語が発生する。

流れゆく歴史の縦軸は覆らないが、名馬の生き様の解釈は人それぞれである。

しかも、産駒の動向により後の評価も変わりうるし、世の中の解釈次第で見方が変わることもある。

私の場合は、「ウマ娘」の登場により以前よりスペシャルウィークの評価は上がった。

(と言っても、今後顕彰馬選考で票が伸びるということはないであろう。)

これから語る優駿のDVDでは重賞プレイバックが歴史の縦軸に該当する。

翻って、名馬の蹄跡シリーズはそれを観た人に何らかのバイアスをかけることになるはずだ。

私はエルコンドルパサーが顕彰馬に選ばれた日。

(98年世代の中で)エルコンドルパサーが頭一つ抜きん出ると思われたが、それは誤差の範囲内であった。

再び

エルコンドルパサーのDVDを観れば、エルコンドルパサーを好きになる(推す)。

スペシャルウィークのDVDを観れば、スペシャルウィークを好きになる(推す)。

グラスワンダーのDVDを観れば、グラスワンダーを好きになる(推す)。

それほど推しとは曖昧なものだ。

優駿DVD(付録)の完成度は高い。

しかし、今や古き良き時代の遺産となった(2015年2月号をもって廃止)。

往年の競馬ファンでも知らない、知らなかった人もいるのではないか。

そんなことを思いながら優駿DVD(付録)の軌跡を辿ることにした。

(なお、競馬関係の映像作品は雑誌『優駿』の他に「競馬の殿堂」、「3分でわかった気になる名馬」、ユーチューバーさんの自主制作、「20世紀の名馬」シリーズ、「名馬コレクション」シリーズ、「中央競馬DVD年鑑」、グリーンチャンネルなどがあります。)


【参考資料】

雑誌『優駿』(戦前は日本競馬会、DVDは2015年3月号より)

戦前の雑誌については《蓑虫屋》さんを参考にした。

「帝国の賭博者」(戦前の競馬ファン)概念は、

「競馬の殿堂」は、

「3分でわかった気になる名馬」は、

ユーチューバーさんの自主制作、「20世紀の名馬」シリーズ、「名馬コレクション」シリーズ、「中央競馬DVD年鑑」、グリーンチャンネルはそれぞれ検索(ご購入、ご視聴)して頂ければ幸いです。

追記)

寺山修司(2000)『勇者の故郷:長篇競馬バラード』ハルキ文庫

戦前の『優駿』(日本競馬会)については当時のものを参考にしました。

(2022年3月16日)

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