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2010年代の漫画とジェンダー(メモ)

「漫画とジェンダー」、2000年代で言えば、おかざき真里『サプリ』、安野モヨコ『働きマン』、小川彌生『きみはペット』、槇村さとる『Real Clothes』、小山田容子『ワーキングピュア』、よしながふみ『愛すべき娘たち』、中村明日美子『Jの総て』等々の重要な作品がありました。では2010年代はそこからどのように変化・進化したか、そういった部分もきちんと考えて文章として書くべきであるとも思いつつ、まずはメモ的な羅列で。ちょうど『サプリ』10巻が2010年1月なので、そこで年代の区切りと考えて、それ以降にどういう作品があったかだけでもわかれば。

メモとして単純に作品名の羅列と、☆1~5での評価だけしておきます。評価は漫画としての面白さとジェンダーの描き方とそこに言及する頻度を勘案して……要するに主観です。気になる作品があれば是非。☆5のやつは強くオススメします。

【2010年以前】

船戸明里『Under the Rose』☆5

よしながふみ『大奥』☆5

中村珍『羣青』☆5

よしながふみ『きのう何食べた?』☆4

三島衛里子『高校球児ザワさん』☆4

吉田秋生『海街diary』☆4

麻生みこと『そこをなんとか』☆4

【2010年】

坂井恵理『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』☆5

益田ミリ『結婚しなくていいですか。』☆5

益田ミリ『ほしいものはなんですか?』☆5

辻田りり子『恋だの愛だの』☆5

ヤマシタトモコ『HER』☆4

ヤマシタトモコ『BUTTER!!!』☆4

鳥野しの『オハナホロホロ』☆4

渡辺ペコ『にこたま』☆4

白井弓子『WOMBS』☆3

相原実貴『5時から9時まで』☆2

【2011年】

乃木坂太郎『幽麗塔』☆5

はるな檸檬『ZUCCA×ZUCA』☆4

水城せとな『脳内ポイズンベリー』☆4

雁須磨子『つなぐと星座になるように』☆4

峰浪りょう『ヒメゴト~19歳の制服~』☆3

いくえみ綾『あなたのことはそれほど』☆3

西炯子『姉の結婚』☆1

【2012年】

天野しゅにんた『私の世界を構成する塵のような何か。』☆5

大瑛ユキオ『ケンガイ』☆5

ヤマシタトモコ『ひばりの朝』☆4

小山田容子『ちっちゃな頃からおばちゃんで』☆4

アルコ、河原和音『俺物語!!』☆4

いけだたかし『34歳無職さん』☆4

村上かつら『Hatch』☆4

ふみふみこ『ぼくらのへんたい』☆4

大北紘子『裸足のキメラ』☆4

マキヒロチ『いつかティファニーで朝食を』☆3

月子『彼女とカメラと彼女の季節』☆3

押見修造『ぼくは麻理のなか』☆3

田房永子『母がしんどい』☆3

【2013年】

坂井恵理『ヒヤマケンタロウの妊娠』☆4

鳥飼茜『おんなのいえ』☆4

海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』☆4

渡辺ペコ『ボーダー』☆3

【2014年】

丹羽庭『トクサツガガガ』☆5

小池みき、牧村朝子『同居人の美少女がレズビアンだった件。』☆5

鳥飼茜『先生の白い嘘』☆5

佐久間結衣『コンプレックス・エイジ』☆4

菅野文『薔薇王の葬列』☆4

坂井恵理『妊娠17ヵ月 40代で母になる!』☆4

天堂きりん『きみが心に棲みついたS』☆4

七尾ゆず『おひとりさま出産』☆4

坂井恵理『サード』☆3

逢坂みえこ『おかあさんとごいっしょ』☆3

東村アキコ『東京タラレバ娘』☆3

大久保ヒロミ『人は見た目が100パーセント』☆3

【2015年】

鳥飼茜『地獄のガールフレンド』☆5

鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』☆5

おかざき真里、雨宮まみ『ずっと独身でいるつもり?』☆5

田亀源五郎『弟の夫』☆5

安藤ゆき『町田くんの世界』☆5

仲谷鳰『やがて君になる』☆4

池辺葵『プリンセスメゾン』☆4

大月悠祐子『ど根性ガエルの娘』☆4

高野雀『さよならガールフレンド』☆4

ひぐちさとこ『童貞女子会へようこそ!』☆4

沙嶋カタナ『咲くは江戸にもその素質』☆4

西尾雄太『アフターアワーズ』☆4

ペトス『亜人ちゃんは語りたい』☆4

雁須磨子『名前をつけて保存しますか?』☆4

ヤマシタトモコ『WHITE NOTE PAD』☆3

津田雅美『十年後、街のどこかで偶然に』☆3

ヤマシタトモコ『花井沢町公民館便り』☆3

冬川智子『結婚してはみたものの。』☆3

尾崎衣良『深夜のダメ恋図鑑』☆2

近由子『女なのでしょうがない』☆1

【2016年】

小野ハルカ『桐生先生は恋愛がわからない。』☆5

坂井恵理『鏡の前で会いましょう』☆4

星崎真紀『魔法のリノベ』☆4

信濃川日出雄『山と食欲と私』☆4

蛇龍どくろ『ミホとユーコ』☆4

平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』☆4

本田『ガイコツ書店員 本田さん』☆4

飯田『給食の時間です。』☆4

おざわゆき『傘寿まり子』☆3

永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』☆3

つづ井『腐女子のつづ井さん』☆3

高野雀『13月のゆうれい』☆3

平沢ゆうな『僕が私になるために』☆3

ばったん『にじいろコンプレックス』☆3

【2017年】

坂井恵理『ひだまり保育園 おとな組』☆5

渡辺ペコ『1122』☆4

ユペチカ『サトコとナダ』☆4

ヤマシタトモコ『違国日記』☆4

おくら、橋井こま『そらいろフラッター』☆4

トミムラコタ『ぼくたちLGBT』☆4

町田粥『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのヲタ仲間だった話~』☆4

たちばなかおる『そもそもウチには芝生がない』☆4

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』☆4

コナリミサト『凪のお暇』☆3

KAITO『青のフラッグ』☆3

高野雀『あたらしいひふ』☆3

小野ハルカ『四代目の花婿』☆2

もんでんあきこ『エロスの種子』☆2

【2018年】

丸木戸マキ『オメガ・メガエラ』☆4

鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』☆4

沙嶋カタナ『君がどこでも恋は恋』☆4

萩本創八、森田蓮次『アスペル・カノジョ』☆4

竹内佐千子『赤ちゃん本部長』☆4

芦原妃名子『セクシー田中さん』☆4

吉村旋『性別「モナリザ」の君へ。』☆3

田村由美『ミステリと言う勿れ』☆2

こだま、ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない』☆2

柴門ふみ『恋する母たち』☆2

ざっとこんな感じです。概ね100作品。まだ読めていないものもあるので、上記の他にオススメがあれば是非ご教示ください。例えば志村貴子も読めてませんし…。

特にBLの分野がかなり弱い(僕が読めていないという意味で)。ちゃんと周囲の状況を扱うBLとか、セーファーセックスを意識的に徹底する描写のあるBLとか、あると思いますし。少女漫画の主人公の意志の示し方も『君に届け』や『となりの怪物くん』あたりを考えれば変わってきていると言えると思いますが、ここも上手く読めていません。

改めて見ると、坂井恵理と鳥飼茜の強さを感じる。「漫画とジェンダー」というテーマに於いて非常に重要な存在と言える。

2000年代の女性と労働を描いた漫画は、『きみはペット』は読売新聞社、『働きマン』は講談社、『サプリ』は博報堂が事実上職場のモデルなわけで、生々しい話ではあるけれどかなり給料の高い職種ではあった(そのことは直接的には語られないけれど、金銭的な不安が描かれることはその漫画に於いては少なかった)。それに対して2010年代は『結婚しなくていいですか』『Hatch』『おんなのいえ』『逃げるは恥だが役に立つ』『コンプレックス・エイジ』『地獄のガールフレンド』『プリンセスメゾン』など、キャリア的・金銭的な意味で将来に不安を抱える状況の漫画が増えた、という印象はあります。飽くまで印象で仮説の域を出ないのだけれど。

女性と趣味という括りで言えば、『ZUCCA×ZUCA』『トクサツガガガ』『コンプレックス・エイジ』『童貞女子会へようこそ!』『咲くは江戸にもその素質』『山と食欲と私』『腐女子のつづ井さん』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『マキとマミ』『映像研には手を出すな!』『君がどこでも恋は恋』等々がそうであるように、三次元下の男性との恋愛以外の趣味活動をメインとする女性主人公の漫画が増えたのも一つの傾向。恋愛至上主義を採らないという意味では、『恋だの愛だの』『ケンガイ』『桐生先生は恋愛がわからない。』は非常に重要な作品でした。

あとは所謂LGBTsの立場をきちんと描こうとする漫画の増加。『きのう何食べた?』『同居人の美少女がレズビアンだった件。』『弟の夫』『しまなみ誰そ彼』『そらいろフラッター』『ぼくたちLGBT』『青のフラッグ』『桐生先生は恋愛がわからない。』等々、ただそういう人たちが「いる」というだけでなく、それがおかしいことではない、あるいは日常の中で辛い・鬱陶しいことがあるということ、いわばLGBTsの二歩目を描けるようになってきていると感じています。

毒親や呪いという概念の登場も2010年代。『Hatch』『母がしんどい』『ど根性ガエルの娘』など。家族がジェンダーに関わることも多いのでこれも入れました。

「漫画とジェンダー」とはそもそも何か、フェミニズム、セクシャリティ、シスターフッド、あるいは人権やポリティカル・コレクトネスといった名称・枠組みで考えることもできるのではないか…など色々と思うことはありますが、ひとまず今回は作品名の羅列としたいと思います。

2010年代もまだ終わっていないので、今後も更新の可能性は充分あります。ひとまずメモとしてご活用いただければ。

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