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『鬼滅の刃』の好きなところ、もったいなかったところ

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』は超人気の有名作で、僕も好きな漫画です。

『鬼滅の刃』の好きなところ

・なんだかおかしい台詞回し
「アァアアア年号がァ!! 年号が変わっている!!」とか有名だし、「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」という台詞も家父長制そのものかよというツッコミは可能なんだけどそれを超越して印象に残る名台詞だったと思ってます。個人的にはこれは許す(ちなみに僕は次男である)。
ただ、上記のような特殊な台詞が注目されがちではあるけど、中盤以降は全体的に驚くほど真っ直ぐな台詞も多くて、むしろそのわかりやすさもまた本作の味だなと思う。

・アニメの出来が良かった
これはまぁそのままの話で、人気が出た理由でもある。素直に出来がいいアニメは羨ましいね…。個人的に大好きな某漫画はアニメの出来が良くないという悲しみがあったりしてですね…。

・煉獄さん
本作の人気の秘訣は質の良いアニメ化、というのもあるけど、ジャンプ本誌で連載を追っていた側としては、煉獄さんの存在が最高に良かったと思っています。煉獄さんはすごいんだ、強いんだ。特徴的な外見、真っ直ぐな目、「うまい! うまい! うまい!」のインパクト、話の早さと迅速にして的確な指示能力等々、最高のキャラだったんですよ。いや、本当は煉獄さん自身もそうだけど、炭治郎の真っ直ぐ過ぎるほどの叫びによって煉獄さんの価値が更に上がったとも言える。『鬼滅の刃』で一番好きなシーンは8巻の炭治郎による煉獄さん褒めです。あれは、良かった。
正直言って、6巻で柱が一気に登場したときは「現時点でそこそこ人気ある漫画とはいえこんなに一気にキャラを増やして大丈夫かよ…」と心配していたのだけど、その心配は杞憂だった。柱も全員が本当に魅力的なキャラ揃い。そのことを担保したのは、やはり煉獄さんの描き方なのだと思っています。煉獄さんが良かったからこそ、他のキャラも実は決して悪くないという期待が持てた(そして実際そうなった)。煉獄さんは凄いんだ、強いんだ。
はっきり言ってしまえば煉獄さんの活躍はたった一巻分でしかない、しかも本来的には負けとさえ言える結果だった、けれども、抜群に良い印象を残してくれたところから、本作の人気は高まったと思ってます。
幾人かの回想でも炎柱の人は良さげな人として描かれていたり、炭治郎の回想にもちゃんと重要な人として出てきたり、ネタバレになるけど最終話まで登場して、番外編まで描かれたので、作者としても特別な思い入れがあるキャラなんじゃないかとも思う。
煉獄さんの訃報を聞いた伊黒さんの、普段はネチネチした言い回しである「俺は信じない」の意味が反転するあたりも上手かったな…。

・柱のキャラと終盤の敵が良かった
上述の通りだけど、煉獄さん以外の柱も本当に良かったです。個性的であり、強く、情もあり、無意味なキャラがいなかった。どのキャラも好きですよ。煉獄さんを除けば、胡蝶しのぶと甘露寺蜜璃が好きです。いや、やっぱり全員好きだな。
そして敵キャラも良かった。玉壺だけ小物っぽさあったけど、それ以外の上弦はみんな物語があって好きです。半天狗も嫌いじゃないどころかむしろあの稚拙な責任逃れと逆ギレの集合体は炭治郎との対比になって良かった。猗窩座・童磨・黒死牟の連戦もバトル漫画の盛り上がりとしては充分に良い。終盤ずっと弾幕ゲーでしたが、それはそれでいい。上弦は特にキャラのデザインも良くて、ここは『約束のネバーランド』の鬼のデザインの悪さと対比できる。鬼ではあるけど人間味もあるので思い入れができるんですよね。

・そもそも炭治郎のキャラが良かった
真っ直ぐな主人公を貫き通した竈門炭治郎が結果的に本当に良かったんだなと最後になって改めて思わされる。真っ直ぐであることが既に捻りになっているという描き方の可能なんだなと。

・ちゃんと完結した
最終巻はまだだけど、ジャンプ本誌で読んでいてちゃんと完結したのはやはり一つの作品として完成したということでもあり、そこは重要な評価要素だと思っています。これだけの人気漫画にしてはあっさりとしているとも言えるけれど(同時期に極めて贅沢なエピローグを描き続けてから完結した『ハイキュー!!』と比べると特に)、それでもちゃんと完結させるのは大事なことです。作者の事情もあるのかもしれないけど、その辺はゴシップの範疇なので特に言及しません。

『鬼滅の刃』のちょっともったいなかったところ

・終盤の禰豆子の登場タイミングが遅い
これは本当にもったいなかったと思うんだよな…。作中でも非常に人気が高いキャラでもあり、実力的にも申し分なく、展開的な重要性も高いにもかかわらず、禰豆子の戦闘シーンが半天狗までしかないのはあまりにも惜しい。堕姫戦の急激な成長と圧倒的な力量差の描写とか非常に好きだったんですが…。本作の瑕疵として言うならば終盤に禰豆子が目立たなくなってしまったという点が一番大きい。

・なんだかんだ強さのインフレがある
これはバトル漫画としては仕方がないところではあるけれど、序盤に比べるとパワーアップが激しすぎるところはある。中盤以降の実力差を考えると、事実上たいしたことのなかった鬼にやられたことになる錆兎の存在が少し軽くなっちゃうんだよな…。そして柱以外の鬼殺隊も村田さんとかもう少し活躍させてあげたかった。強さのバランス自体は考えられていて、上弦に対して柱級の存在が複数必要というところは決して悪くないんですが。

・あまり使われなかった伏線
はっきり言うと青い彼岸花。あと禰豆子が太陽を克服してたのもあまり納得の行く説明はなかったような。鬼殺隊の階級制度とかも設定は練られていたものの炭治郎たちの成長が早すぎてほとんど捨て設定になってる。週刊連載としてなかなか全部使い切るのは難しいんだろうけどね。引き伸ばしがなかったというのはむしろ褒めポイントではあるのかもしれない。

・ややパターン化した展開
強敵と戦う→回想、というのは終盤特にパターン化していて、あと3人くらい同じことをしてたらさすがにちょっとダルかったかな。伊黒小芭内でほぼ最終なので耐えられる範囲ではありました。同じパターン化した構成でいい加減飽きてきたというのは『弱虫ペダル』が前例にあり(良い漫画ではあったんだけど…)、『鬼滅の刃』はそこまで長くないからこそ名作のまま終わったという気はする。

・技の魅せ方がそこまで上手くはない
それぞれの型に動きはあると思うのだけど、漫画としてその魅せ方が上手かったかと言われるとそうでもない。『聖闘士星矢』と同じように、必殺技名を叫んでそれっぽいコマを見せるという程度に留まっている。動きに関してはアニメが上手いので補完してくれているとは思ってます。

・連携の描き方
終盤は柱級複数と上弦の鬼との戦いになっていて、その構成は好きなのだけれど、理論的にわかる連携というほどの描写ではなかったように思う。いや、これは正直『ワールドトリガー』が上手すぎるんだが…。本作にそこまで求めるものではないのかもしれない。ただ、『ジョジョの奇妙な冒険』の影響を指摘されることもある『鬼滅の刃』だからこそ、もう少し特殊能力のわかりやすい連携描写があっても良かったかも。黒死牟戦の不死川玄弥の血鬼術とかは良かったけどね…。

・下弦の鬼の扱い
ここはやけに話が早かったけど、鬼舞辻無惨の理不尽さの描写が良かったのでまぁいいです。もう少し話を膨らませることもできたはずなので、ちょっともったいなかったかなという程度。

・セクハラ描写
ほぼ善逸。ジャンプにありがちなところでもあり、他の作品に比べれば少なめではあるという擁護も考えないでもないけど、それならやっぱりなくして欲しかったかなという思いはある。『約束のネバーランド』は最終的にはあまり評価してない漫画ではあるんだけど、あれは本当にセクハラ描写がなくて、同じくジャンプの人気漫画でもそういう構成はできるんだということを確認させてくれたという意味はあったなと。『鬼滅の刃』もそうであって欲しかった。
甘露寺蜜璃の過去についてはむしろエンパワメントでもあるのでとても好き。無駄な恋愛描写が少なかったのも本作の良いところではあるけど、数少ない関係であるおばみつは強く応援したい。

いくつか文句も書いたけど、全体的にはもちろん好きな漫画です。全23巻になるのでまだオススメしやすい巻数なのも良い。人気漫画として共通の話題になるのもメリットでもある(飲み屋でもよく『鬼滅の刃』の話が通じるので助かる)。
『ジョジョの奇妙な冒険』の影響を指摘される本作だけど、キャラの死に方とか富野節と似て非なる台詞回しとかはガンダムシリーズの影響が強いんじゃないかなと思ってます。終盤特に『機動戦士Ζガンダム』だなと思うよ。

煉獄さんは凄いんだ、強いんだ。僕からは以上です。

ヘッダー画像は吾峠呼世晴『鬼滅の刃』8巻の引用。

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