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韓流沼でおぼれていた私が「チェリまほ」に引きずり出されて日本ドラマに戻ってきた話

「日本、最近おもしろいドラマが少ないよね……」

これは昨年の初め、コロナが流行する前に友達との会話の中で私が発した言葉だ。

刑事、医者、弁護士をテーマとした似たようなドラマが増えているし、恋愛ドラマは共感できないものが多いし、俳優のキャスティングを見て芸能事務所の政治力を勘ぐってしまうこともある。

そんな理由で私は1度日本のドラマから離れた。そして、1年間、韓国ドラマと中国ドラマばかり好んで視聴していた。

話題ドラマを立て続けに視聴して「韓国ドラマの俳優は本当に演技がうまい」「脚本力とスケールが素晴らしい」「華流俳優は目の癒し」などと1人で絶賛しながらドップリと沼につかっていた。

ネットフリックスの視聴中ドラマが韓国ドラマで埋まり、中国ドラマのアプリで推しの俳優たちの新作をチェックする日々がエンドレスに続いていた。

「チェリまほ」にハマり、アジアドラマ沼を脱出

ところが、昨年末、そんな生活はあっけなく終わった。

テレビ東京で放送されていた『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称:チェリまほ)を見たことがきっかけで。

主要キャストたちの繊細で滋味のある演技に魅了され、ドラマの登場人物の心の動きにのめりこんで一喜一憂し、時には涙を流した。

視聴者の中には「BLドラマ」と称する人もいるが、『チェリまほ』は損得勘定や嘘が渦巻く現代社会に温かい灯りをともすようなドラマだった。見るたびに新たな発見があり、繰り返し5回視聴した。こんなことは生まれて初めての経験だ。

あれ?好きだった韓流ドラマにハマれない…

ようやく自分の中の『チェリまほ』熱が落ち着いてきた年明け、人気の韓国ドラマを見た。

どうもハマらない。

続いて中国のクチコミサイトで人気の大陸ドラマを見た。

あれ? おかしいな……。

韓国ドラマは「ありえない設定」に感情移入させるような素晴らしい脚本力と、俳優陣の高い演技力が魅力。最初はさほど好みでない俳優にいつの間にかほれ込んでいるケースは1度や2度ではない。

一方で、貧しく苦労している女性が美しく描かれていたり、わがままなリッチな男性が利他的な性格に豹変したり、後半に登場人物の人生や生命を揺るがす大事件が立て続けに起こったり、都合よく記憶障害や病気が直ったり、大切な内緒話を偶然主人公が聞いていたり……と、いくつかの「定型パターン」がある。数えきれないほどドラマを見ていたら、かつて日本ドラマに抱いていたような「ああ、このパターンね」と感じる機会が増えた。

そして、中国ドラマは、何も考えずにサクっとみられるライトさと、キャストの見目麗しい装い、「ありえない」と突っ込みたくなるおもしろ展開が魅力的だ。

古装物、現代物に限らず、恋愛ドラマには“壁ドン”、ハプニング的なキス、記憶喪失、嫉妬深い悪役、男装女性などの設定は、かなりの頻度で登場する。日本発の「花より男子」や「花ざかりの君たちへ」などのドラマが人気を博してリメイクされる理由がわかる気がする。

そんなこんなで、1年間アジアドラマを楽しめていたのに、『チェリまほ』のロスを埋めようと人気ドラマを見ても、以前のように心が動かない。

どうしたんだ、自分!

今期の日本ドラマで何度も泣かされて…

そこで、今期のTBS系列のドラマ『俺の家の話』1話を見た。
大笑いして、気づくと泣いていた。

東海テレビ発の深夜ドラマ『その女、ジルバ』を視聴した。
主人公が泣くと、自分もおいおい泣いた。


日本のドラマって素晴らしい! ジャパン・イズ・グレート! 日本に生まれてよかった! 1年前に伏せた手のひらを壮大にひっくり返し、まるで先鋭化した愛国者のようなことを言い出した自分。

今期のドラマには、絶望的な現実で見つけるささやかな光、人と人とのつながりが断たれても恋しくなる誰かの手のぬくもり、悲しい現実を笑い飛ばす優しい笑いがいたるところに散りばめられている。

少々アクロバティックな展開でも視聴者にのめりこませてしまう制作力を持つアジアドラマも魅力的だけど、現実と地続きだと思わせるようなリアルな演出は、今期の和製ドラマに軍配があがる。

そのときのメンタルの状態によって「性格が悪い恋敵に勝って御曹司とハッピーエンド」「辛酸をなめた少年が金持ちになって社会的に“勝つ”」「命をかけた不時着的大恋愛」「姑(おんま)世代との結婚観の衝突からのゴタゴタ」を楽しめる時期だってもちろんある。

一方、「今そこにある悲しみや絶望との向き合い方」「日常にあるささやかな幸せの見つけ方」は世界が災厄に見舞われている今、自分にとって必要なキーワードであり、その点では今期の日本のドラマは一歩先を行っていると思う。

というわけで、再び日本のドラマに向き合うきっかけをくれた『チェリまほ』には心から感謝している。


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