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【読書感想文】藤島ジュリー景子の父親は「フランス人作家」…?図書館除籍本を読んでビビる

ある日、図書館の入り口に、除籍本のコーナーが置かれていた。いわゆる「古くなったので、自由に持ち帰って下さい」という本だ。

そこで私はポール・ボネという在日フランス人作家による『不思議の国ニッポン』シリーズを3冊持ち帰った。

『不思議の国ニッポン』は、人気シリーズだったようで、古本販売のサイトでは1970年代~90年代に21巻まで発行されていたことが確認できる。


ウィットのきいた「完ぺきな日本語」に驚く

ページを読み進めてまず最初に思ったのが「なんという完璧な日本語!」ということだ。

翻訳者の存在を確認しても見つからない。おそらく全て自分で執筆しているのだろう。日本語1語1語のニュアンスを深く理解し、ジョークにまで落とし込む完璧な語学力だ。

<私はわが家でヒマさえあればテレビを見ている。もっとも、そのテレビ狂いには理由があって、いかなる日本語習得の本よりも、テレビの会話を聞くことのほうがプラスになるからである。(『不思議の国ニッポンVol.4』より抜粋>

きっと日本の生活に溶け込み、ここまでの語学力を身に着けたのだろうなぁ……と勝手に想像した。

日本の政治批評もおもしろかったのだが…

書籍の内容は、日本の政治・経済や暮らしをフランス人の視点から”鋭く斬る”というもの。

日本人が海外に出ていく機会が激増した時代、「日本は世界からどうみられているか」という点を気にしていたであろう日本人の島国コンプレックスを絶妙に刺激している。

特に政治に関しての批評は鋭い。

<日本の国会議員は議会の中で、各委員会に属し、また党内で各部会に属しているうちに、いわゆる“族議員”になっていく。曰く“農林族”“商工族”“運輸族”……。この族議員がそれぞれに専門知識を発揮して立法にあたれば国政は円滑に進むはずなのだが、とかく我田引水となり、利権と結びつきやすいために「族議員あって国家なし」と論評される結果となる(『不思議の国ニッポンVol.20』センセイ方のお行儀の章より)>

今の日本とさほど変わらぬ構図に現代を生きる1人としてため息をつきたくなってくる。

ところが「ポール・ボネ=日本人」説を知る

さて、ある程度読み進めた後、Amazonを開き、ポール・ボネ氏の書籍のレビューを見てみた。

ん?

え?

引っかかるレビューがあり、作家の名前をGoogleで検索した。真実が得られるかわからないが、「Wikipedia」の情報に頼ってみた。

<経歴未詳。実際は作家・評論家でメリー喜多川の夫で藤島ジュリー景子の父親の藤島泰輔のペンネーム>(『Wikipedia』の「ポール・ボネ」のページより)

なんと、突如「ポール・ボネ氏=日本人説」が浮上した。

ジャニーズの家系図にも登場する「ポール・ボネ」

真実なら、某ショーン・K氏も真っ青のルーツ偽装案件。しかも、まさかのジャニーズ事務所の縁者疑惑まで生じた。

そして、「ジャニーズ 家系図」と画像検索をかけて時間を溶かしてしまった。

「在日フランス人」として日本をバッサバッサと斬りまくる本を20冊以上執筆して人気を博していた本の執筆者は、どうやら日本人だったようだ。

いずれにせよ、「コンプライアンス」という概念が確立された今では、炎上案件となりそう。

本人もここまで長い間、このシリーズを書くとは思っていなかったようだ。最初は続編を書こうとは思っていなかったものの、おびただしい数の「読者カード」が届き、その反響に空恐ろしい気持ちになったとつづっている。

最後に1982年に発行された『不思議の国ニッポンVol.4』のあとがきを紹介する。

<西太平洋に浮ぶ日本丸という船は、まるで浮沈戦艦のようだと評した友人がいる。私も彼の意見に賛成である。この戦艦の乗組員は実に良く訓練されていて、少々の嵐でも船の守りはびくともしない。しかも仔細に眺めると、この戦艦には防禦用の短距離砲しか装備されておらず、遠洋航海に出かけるだけの燃料も積載されていない。
(『不思議の国ニッポンVol.4』あとがきより>

約40年を経て2021年、”船”が劣化したうえに、燃料が切れて沈み始めていることを思えば、この国の行く末をよく見ていたのだと思う。でも、なぜ本来のペンネームではなく「在日フランス人」のふりをして20冊以上もの本を書いたのだろうか。

日本が右肩上がりに成長していた時代、「日本人が書くと角が立つから、作者は在日外国人という設定で、日本の批評をしてくださいよ」などと依頼されたのだろうか。読者は、作者のルーツを本気で信じていたのだろうか。

図書館除籍本で、思いもよらないミステリーに触れてしまった。


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