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東京都庭園美術館

先日、目黒区にある東京都庭園美術館へ行った。
昨年一度訪れているのだが、その日の目的は東京都現代美術館で開催していた「クリスチャン・ディオール  夢のクチュリエ展」で、入場整理券が
16:00の回だったため、それまでの時間つぶしで行った。
深く考えず行ったその際の企画展「邸宅の記憶」では、静かで広い前庭と、素晴らしいアール・デコ様式の宮廷建築で、探りがいのある部屋がたくさんあり、軽率な気持ちで行ったことを後悔した。
そもそも時間つぶしのための美術館で一日に2件行くのは、どう考えてもおかしく、堪能しきれず、もったいない。
再度、次の予定を入れずに伺いたいと常々思っていたので、今回の「開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z」は私にとってはちょうどよい企画展だった。

前日の夜、西早稲田でミカミなどが出演するお笑いライブを見た後、水道橋のカプセルホテル、ナインアワーズへ泊まった。
最近は運動不足が著しく、少しでも歩く時間をかせごうと、都営大江戸線春日駅で降りて水道橋駅まで歩いてみた。
ちょうど巨人戦が終わったところにぶち当たり、付近はユニフォームを着たファンでごった返していて、そこに巻き込まれたがそれもおもしろかった。

ナインアワーズは神田や新宿などのアクセス良い場所に数店舗あり、設備が整っておりきれいでコンパクトで、利用しやすい。
夜遅いチェックインで翌日AMにチェックアウトするような、滞在時間が短い時は、ホテルでなくてもここで充分だ。
最上階には、持ち込んだものを飲食できるラウンジがあり、首都高が目前に見えとてもきれいだ。別の階からは東京ドームやドームホテル、出版社の看板が見えるのも良い。
なにより、ほぼ全員が一人客のため、ラウンジも、シャワー&洗面などの共有エリアも、とても静かに過ごせる。

朝は、出勤前っぽい女性や、これから遊びに出かけるらしい女の子たちがずらっと並び、洗顔しスキンケアをしてメイクし、髪をスタイリングする。
全員が鏡の中の自分だけを見ながら、黙々と作業をするその姿を、私もそこに溶け込みながらこっそり見るのだ。
あのアイシャドウはプチプラでも発色が良いとか、中国人は歯磨き中でも話すんだなとか、あんなに大きなヘアアイロンを持ち歩くなんて大変そうだとか思いながら、私は最小限の準備を済ませて建物を出て、電車へ乗った。

目黒駅へ着くと雨脚は強まっており、小走りで美術館へ向かった。
開館と同時に入ったので、人も少なく、快適だった。

大食堂、小食堂、第一浴室、喫煙室

他にも若宮寝室、妃殿下居間、合の間(ドレスルームらしい)…
とにかく贅を尽くした邸宅だ。邸宅と言われてもピンとこないほどの広大な敷地と建物だった。
このたくさんの部屋を使い切るような暮らしってどんなものなのだろう。
1933年、皇族である朝香宮家の自邸として建てられ、1983年に美術館として開館したそうだ。この間50年は吉田茂が首相公邸として使用したり、国賓の迎賓館としても使われていたらしい。
朝香宮夫妻が2年間パリに滞在中、アール・デコ博覧会を訪問したことで、その様式美に魅了され、建てられたということだった。
アンリ・ラパンに直接設計を依頼し、日本の皇室建築を手がける宮内省内匠寮(たくみりょう)の建築家により行われたそうだ。
私には想像も出来ないような莫大な資金をもって、作られたのだろう。
宮内省内匠寮って初めて聞いたけど、名前がかっこよすぎる。

今年の1月、皇室で行われた新年祝賀の儀にご出席された天皇皇后両陛下の長女、愛子さまは、本来なら新調するものであるティアラを、叔母の黒田清子さんから借用したということだった。
物価高や自然災害などによる大変な状況を鑑みて、という理由だそうだが、その頃と対比してみると、時代そのものや人の考え方、物質の価値、道徳心などにかなり相違があるのだろうと感じた。
景気の良い時代に憧れがある。
景気よくいきたい。景気よく生きたい、ともいえる。

私にとっての見どころは、正面玄関のエントランスにある、ガラスレリーフの扉だ。この邸宅のため、ルネ・ラリックに特注された一点ものらしく、ずっと見ていたいほど美しいものだった。
型押しガラス製法で作られた女性像の後光に、繊細な彫刻が施されていて、翼を広げたように見える。
私は教会にあるモチーフが好きなので、これが天使や女神のようにも見え、それで気になったのかなと思った。
どの部屋の窓からも、外を眺めると庭園の一部の木々が見える。雨に濡れた新緑はしっとりと輝いて時々風に揺れ、疲れたら休憩用の椅子に座り、しばらくその様子を眺めたりした。
たくさんの部屋のなかで私が特に気になったのは、遮光カーテンで室内が暗い書庫だった。両壁に、重厚にしつらえた丈夫な本棚があり、天井近くの本を取り出すための、左右に移動できるはしごがあった。
解説を読むと、本棚内にはさらに小さな棚があるが、鍵がどうしても見つからないため、今も開けられないままの開かずの扉が存在する、とありゾクゾクした。
そこにはどんな書物が入っているんだろう。意外とエロ本かな?
空っぽかもしれない。


「割れてしまったガラスレリーフ」の展示。こっちは撮ったのに実際のエントランスは写真なし。

今回の展示は、部屋ごとにアイテムの紹介をしているAからZのカードが用意されており、26枚全て集めて自分だけのアルバムを作るというイベントがあった。
私はこのことを最後まで知らずにてきとうにカードを集めていたため、おそらく抜けているカードもあったが、まあいいかとパンチの穴をガチッと開け、ワイン色のリボンをキュッと結んだ。
かわいいアルバムになった。

庭園も散策したかったが雨が本降りだったため、通り抜けるだけにした。
美術館をたっぷり満喫した後は、目的のひとつだった近くのインドネシア料理店、目黒cabeに入った。ドラマ孤独のグルメで見て、美味しそうだったのと、付近に飲食店が少なかった。
日替わりの定食と、サテアヤムという焼き鳥を注文した。アイスティーか麦茶がつくよと言われ、そのてきとうな感じもいいなと思った。
ワンプレートに揚げ春巻きやピクルス、鯖のスパイス煮など5種類くらいおかずがのっていて、唐辛子のようなペーストもあったので、味変をしながら飽きずに楽しめた。
サテにはピーナツベースの甘いソースがたっぷりかかっていて、肉がとても柔らかかった。
ものすごい量になったが最後まで美味しく食べ、帰り際、外国人の女将らしき人にごちそーさま、と言ったらハイゴチソーサマネと返ってきて、長いことここでお店をやっているようだけど、返しがそれなのかと少し笑った。