ask【63】お薦めの本

最近一番お薦めの本を教えて

かつてC***で暮らしていた頃は、生活圏に海がありました。学校をサボタージュしては海へ行く。女性を自転車の後ろに乗せては海へ行く。台風が来ては壁のような高波を見に海へ行く。海へ行くために海へ行く。兎にも角にも、海へ行く。海尽くしだったわけです。釣りやマリンスポーツには興味がないので、ひたすら波のうねりとか、凪状態の水面に乱反射する太陽光線や、照る月がクラゲのように海面に映る様をじっくりじっくり鑑賞するのですね、無目的に。ああ、そうきたかと、さしたこともない囲碁を海とさしているような気分になったりして、過ごしていました。海は生命の源であり、夢を語り合える親友であり、愚痴を聞いてくれるバーのマスターでもある。クラゲの死骸を蹴りながら、馬鹿野郎!なんて大きな声をだしたり、バイクに乗って砂浜を走ったり、雑木林の中でもつれ合うカップルを静かに見守ったり。海には青春が沢山詰まっていました。ある日、友人たちと徹夜で酒を飲み、早朝の浜辺を歩いていると、まだ火の燻っている焚火の跡を見つけました。焚火から海の方まで足跡が残っています。焚火の中には古い写真の入ったアルバムと、新約聖書が投げ込まれていて、炭化していました。遺書のような明確な紙などは残っていませんでしたが、なんとなく暗い気分になり、警察に連絡すると言って携帯電話を使う友人を置いて、ひとまず私は海岸沿いを探査することにして歩き始めました。土左衛門はあがらなかったし、事件性もないからといって、みなあの焚火の跡を忘れていったのですが、どうもあの炭化した新約聖書のことを考えるといたたまれない気持ちになります。ところでオススメの本ですが、コンビニなどに置いてある「ロシアの妖精」という名のポルノ雑誌をプッシュします。なぜああいった類の猥褻本がコンビニに置いてあるのか理解に苦しむところですが、もしかしたら明け方の海岸で焚火にくべると、白くて手足の長い裸の美しいロシア女性の形をした妖精が現れて、あなたを清浄で何の心配も要らない異世界へ連れて行ってくれるのかもしれません。もしそんなことになったら彼女の手を怖れずに握ってください。

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