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臍に溜まったザアメンを女はティッシュペーパーで拭き取っていた。僕はティッシュペーパーを渡す係をやった。女も僕ももう二度とこういう行為に及ぶことがないことをお互いに勘付いていて、最低でもあともう一回は肌を合わせたいと願っているのがビリビリ伝わってくる。女は上機嫌以外何物でもないくらいに上機嫌で用意されていたシャンパンを呑む。次は口に出してもいいですよ、と笑いながら女は言う。喋る内容は別にすると、予想と違って低く素敵じゃない声が素敵だった。確かに女は、あ!口に!と言って舌を出していた。あははは、と女はけたたましく笑う。笑いの発作だろうか。孕石さん、このことも書くんだろうなあ、やだなあと女は言って何が面白いのかずっと笑っている。なんだか不公平じゃありませんかね、そちらばかりが一方的にアウトプットできて。僕は口ではなく臍に出したことを後悔してはいないが、確かに女の言うことも一理あると思う。女は笑いながら、私のことは「女」とか書くのだろうな、と言ってまた笑う。一本一本の歯が笑う度に壁のように出現する。あの美しい歯にザアメンを絡みつかせることになっても君は後悔しないのだろうか。僕は笑い上戸は好きだけど、女はどう考えても笑いすぎだった。味は記憶(インプット)できますからね、僕はそれだけ言う。女はティッシュを開けてこちらに見せる、凄い量!黄色味かかってる!それからまた笑う。ちょっと舐めてみていいですか。女は僕の許しも得ずに指先にザアメンを掬うとひょいと口に入れる。うわ、ひどい味です、しょっぱ苦い。匂いも栗の花だし若い味だと言って女は笑う。これは飲むのに苦労するタイプのやつです。何がおかしいのか、ヒーヒー笑う。僕は無表情で、女はずっと笑ってザアメンの代わりに酒を呷る。コントロールできなかったんですか、口に出してって言ったのに。そういうのは最初から段取ってくれないといけませんよ。僕は言った。ダイレクトメールにそれも書いておいてくれれば良かったのに。女は笑うのをやめて、ソファから立ち上がってこちらにゆっくりとやってくる。孕石さん。今夜のこと書かないでもらえませんか。女は真顔だった。裸で僕の前に立つ彼女は手足が長くて、剃毛していて、なんだかUFOに攫われて宇宙人の女の相手をさせられる実験体になったような情けない気分にさせられる。僕は言う。美しいものを完璧だと言い切るほど僕は欧米化していないつもりです。あなたの儚くないところが好きです。女は何も言わずにこちらを見つめる。しばしの沈黙の後で右腕をこちらに差し出して、踊りましょうと言った。ムードのある音楽を女はかける。やり手だ。僕は彼女の身体に触れることに慣れそうにない。何度でも電気が走るようだった。何もかもが、女は言いかける。何もかもが、の次の台詞は要らなかった。UFOは再び上昇する。空はどこから宇宙になるのだろう。暗闇に女の白い歯が浮かぶ。それがいつかベッドのシーツになり我々は絡み合っている。素敵です!女は叫ぶ。もう何度達したかわからない!孕石さん!来て!女は口を開けて犬のように真っ赤な舌を出す。僕は宇宙の果てから陰茎を抜き、女の臍に向けてザアメンをほとばしらせるに至った。

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