ask【80】桂馬

全てが不安で食べ吐きをしてしまいます。いつか彼氏にバレて嫌われてしまうのではと日々恐れています。仕事も思うように出来ません。友達もいません。

私は精神科医ではないし、先輩風を吹かして、人生はこれこれこういうものだからここでこうしていっぺん回ってワンと言えなんていうことは書くつもりはありません。私は将棋やチェスが嫌いです。なぜならば、ああいうものは相手のミスを待つゲームだからです。不安が王将。食べが金将。吐きが銀将。彼氏が飛車。友達が角行。仕事は桂馬で、あなた自身は香車だね。前に突き進むだけしかないと考えるのは思慮に欠けるとは思われませんか。日々こそは歩。歩のない将棋は負け将棋。くそ、おれも混乱してきたぞ。いったん、ひとまず、忘れよう。ジャー(盤上の駒を手で落とす音)。いやいや、なんでしょうね。友達は角行ですからね。要りませんね。飛車と違って扱いが難しい駒だ。ああクソ。駒のことは忘れようといったばかりなのに。なんだっけ。きみは桂馬だったっけ。桂馬は、意味がわからない。飛び越えるからね、桂馬。食べるのも吐くのもぜんぶ飛び越えていって欲しい。玉将はきみのミスを待ちながら嗤っている。許されざる者だよ。きみには敵などいない。きみは何も恐れるな。飛車とは何だ、牛の背中に火をつけて平家を一網打尽にした倶利伽羅峠の戦いで使われた火炎牛のことだろうか。さきほど飛車は扱い易いと言った手前心苦しいことだが、飛車を捨ててこそという局面も多い。いいか、人生の先輩として忠告する。きみは仕事をやめて彼氏も捨ててメキシコに逃げろ。洞窟に潜んで仙女として第二の人生を歩むんだ。きみを追い詰めるのはきみ自身の玉将なのだ。守りきれるものではないのならば、万力で締め上げて破壊してみろ。メキシコの空はどこまでも青い。タコスが歩。テキーラが香車。ハラペーニョが飛車。きみよ、コンキスタドールの星になれ。いざ冒険の旅へ!

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