ask【62】軟禁

「窓から見えるのは…」に続けて文を作ってみて。

大手スーパーマーケットで買い物をする人々の姿だった。スーパーの入る建物は3階建てで、1階は惣菜や野菜や肉や魚が売られていて、2階は菓子や酒や薬や日用消耗品、3階にはメガネ屋や散髪屋やクリーニング店や家電や衣料品や布団売り場などと小さなゲームセンターが入っている。私はあの手の小さなゲームセンターを見ると胸が締め付けられる。私も大人になる前には、お母さんや弟と一緒によくああいう場所に行ったものだ。でも今の私は畜生のようにベッドに手錠と繋がれている状態で、窓から見えるスーパーマーケットの中の人々の営みが不思議でならない。私はハンバーガーショップ店員の男に夜道を歩いているところを襲われてから、半月ほど、こうして軟禁されている。子供の頃の話だ。私はまだ小学4年生で、お母さんにお使いを頼まれたのだった。その日、幼稚園児だった弟が駄々をこねて、どうしてもオムライスが食べたい、といった。そうだ。私が余計な話を弟にしたのだ。給食にオムライスがでたのを子供部屋で自慢して弟が癇癪を起こして、困った母が、鶏卵を近所のコンビニエンスストアまで買いに行って、と私にお使いを頼んで、そのまま、私は悪いおじさんに攫われたのだ。悪いおじさんは、私を2年間軟禁し、私は、悪いおじさんの家で初潮を迎えた。悪いおじさんは元々学校の先生をしていたから、私は読み書きも遜色なくできるし、常識も知っている。問題は、私には学校に行くことも友達と遊ぶこともできずに、悪いおじさんと悪いおじさんのお母さんとしか交流がなかったことだ。悪いおじさんの家から逃げ出した日、私の運気は本当に悪かった。星を読む能力が自分には足りないのだということは、悪いおじさんの次に私を攫うことになるX氏の口癖だった。X氏は異星人で、今は仮初めの姿で生活していると思い込んでいる本物のサイコパスだった。なんたることでしょう。私は裸足で悪いおじさんの家から飛び出して、そこに偶然通りがかったX氏に新たに連れ去られてしまったのだ。私はX氏の持ち物である山の奥の豪邸に軟禁された。立派な洋館で、老人の執事がひとりきりで、X氏の世話をしているらしく、私の世話もほとんど彼がみてくれて、私は20歳になるまでずっとそこで、X氏の仮初めの妻をやらされたのだった。その後も私はずっと攫われ続けた。執事のおじいさんの手引きで、山の奥の豪邸から逃げおおせた途端、今度は本物のUFOにキャッチされた。それからは逃げても逃げても色々な男たちに攫われ続けた。メキシコの麻薬王。FBI捜査官。一流シェフ。空手家。修験者(天狗)。郵便配達員。キャビンアテンダント。それから、ハンバーガーショップの店員だ。あいつはそれにしてもバカだし、チョロい。天狗のような千里眼がないので、いつでも逃げることができる。私はメキシコの麻薬王の愛人だったのだ。手錠の鍵など幾らでも解錠できる。郵便配達員のおかげで時間調整も得意だ。私の人生は、と私は思う。決して無駄なことなどはなかったのだ。星の巡り合わせが悪かっただけで、私は全てうまくやった。私は窓の外で、買い物をする軟禁されていない側の人たちを眺めながら、あなたたちにはとても無理ね、と思う。だってデリカテッセンのコーナーで売られている方が似合っているような人たちだもの。私は意を決し、せいっという気合いの声を出してから、針金を使って手錠を無力化することに成功すると、クローゼットから男物のコートを取り出して羽織る。ハンバーガーショップ店員の男の虎の子の箪笥貯金20万円をネコババして、軟禁されていた部屋の重い扉を開ける。長い階段を下りながらこれからのことを考える。まずは窓から見えたスーパーマーケットに行って、服や靴と一緒に、鶏卵を買おう。簡単に攫われないように、細心の注意を払って、お母さんや弟の待つ家に戻ろう。お母さんに鶏卵を届ける。長いお使いになったけれど、やり遂げたという満足感を私は得るだろう。それからどうするかって?もちろん、オムライスを作る。そしてケチャップ文字でその時思いついたポエムを書くだろう。悪くはない。万事が順調だ。身体が軽い。まるで雲に乗っているような足取りだ。私は…ゴツッ(ここで背後から何者かが彼女の後頭部へバットの一撃を食らわせ、彼女は気を喪った)おしまい

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