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【spi】ミュージカル『オリバー!』 SPインタビュー

チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』を原作に、救貧院で暮らす孤児の少年・オリバーが愛を求めて懸命に生きる姿を描くミュージカル『オリバー!』の日本公演が開幕。
原 慎一郎とWキャストでビル・サイクスを演じるのはspi。コソ泥とスリの集団を取りまとめる本作の主人公・フェイギンという老人の仲間で、とても冷酷な男の役だ。普段のspiとはかけ離れた役だからこその難しさや、演じる楽しさについて伺った。

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今作への出演が決まった時のお気持ちは?

spi:「オーディション受けてみないか?」というお話を頂いて、二つ返事でやりますと答えました。相手役も知らずにオーディション会場に行ってみたら錚々たる俳優やスタッフさんを目にして、初めて作品の規模の大きさを実感しました。日本でやる中でもかなり大きい作品に携われてとてもラッキーだし嬉しいし、すごく恵まれてるなと思いました。

実際にビル・サイクスを演じてみて、この役をどう解釈しましたか?

spi:みんなが憧れる〝クソ野郎〟だなと。みんな理性や社会性とか色んなものを保って生きてるんだと思うんだけど、それを全部無視できるっていうのはある意味とても魅力的なんじゃないかなと思って。「全部俺のものだ」みたいなね。同じ男から見て、そういう生き方を出来るタイミングがいつかあったらなぁとか考えますよ。今世じゃもう無理だけど、次生まれ変わったらこういう生き方するのもありなのかなって思う。他の人から見てもそう思えるような魅力的な人物であってほしい。同時に、女の人から見たら絶対好きになっちゃいけないダメ男なのに好きになっちゃう……みたいな感じで(笑)。

『オリバー!』公式YouTubeチャンネルでは、役作りするに当たってお父様にいろいろ聞いてみようかな、という発言もありましたが、実際にお父様とビル・サイクスについてお話はされたのですか?

spi:うちのお父さん、名前がビルっていうんですけど。自分の中で納得できないことを解消するために話を聞いた部分がありますね。例えば「My Name」という曲があって、その曲には「俺の名前を売っていくぜ!」というニュアンスがあるんだけど、俺にはその感覚が分からなくて。「正直、『名を轟かせたい』という感覚が分かんないんだよね」という話をしました。「俺でいうところのどんな部分に当たる?」みたいな聞き方で、「役者をやっていく上でのプライドとかと少し似てるのかもね」とか答えてもらって。
うちの親父が言うには、「他人を虫けらのように扱うビルの性格はよく分かるんだけど、でもお前は絶対に人を虫けらのようには扱わないじゃん。お前はすごく優しいから、それをひっくり返してみたらいいんじゃないか」って言われて、しっくりきたんですよね。俺の中にある、みんなのことを気に掛ける、大事にする、周りの人を愛す部分を真逆の方向に持っていけばいいのかもな、と。

なるほど。普段のspiさんをひっくり返した裏側にあるような人物という。

spi:(ビルは)本当に自分が世界一で、自己愛性パーソナリティ障害の要素とかもあって。でもそれは彼のせいじゃなくて。彼を囲むもの……酒だったり、フェイギンだったりが彼をそうしている部分はあると思うんです。自分さえ良けりゃっていう人の中で生きてきたというか、日本みたいに人と人との繋がりを大事にしているわけでもなく、〝自分がどう生き抜くか〟というのを大事にする中で育ったからしょうがないのかなと思うんですけど。

Wキャストの原さんとはどんなやり取りがありましたか?

spi:Wキャスト同士って、お客さんの想像上ではすごくギスギスした関係だと思われてると思うんですけど、お互いめちゃくちゃ認め合っているし、お互いをしっかり認識しているのでぶつかることがまず無いんです。「あ、spiくんのビル・サイクス、そういう作りね」「原さんのビル・サイクスってそういうことね」というような。
やっぱりお互いが役に共感する部分って違うわけじゃないですか。今まで原さんが生きてきた人生と俺の生きてきた人生は種類が違くて、当然互いに用意するビルも変わってくるから、そこの差をお互いに楽しんでる感じがする。共通するところがあれば、「原さんのあれ良かったんで、俺貰いますね」って言ったり、どうしていいか分からない時はアドバイスを貰ったりして。
原さんはアクションもやっているから〝見せる動き〟を表現するのが上手いんです。原さんを真似して動いてみたりしている部分もたくさんあります。でもほんと、どちらも観たら一発で全然違うって思ってもらえると思いますよ。

spiさんから見た原さんの演じるビルの印象は?

spi:分かんない。俺、自分のビルを客観的に見れてないのでなんとも言えないんですけど、ただ言えるのは、かっこよくて強いおじさんってことかな(笑)。かっこよくて強い……ちょっと神経質なおじさん。全然違うのに、ちゃんと両方ともビルなんですよ。これ多分、両方観ていただけたらマジで面白いと思いますね。

Wキャストの魅力はそういうところにもありますよね。もちろんシングルキャストも素晴らしいですが、二通りあることで比較も出来るしお互いに刺激されていく部分もあるでしょうし。

spi:ありますね。お互いに違いを認めている分、「俺はこっちでいくわ」「それ貰うわ」というのがはっきりしてるし、二人いるからこそやっていて辛くならないですし。

演出家から、「ビル・サイクスをこういう風に演じてほしい」というリクエストはありましたか?

spi:稽古場では、他の人や子どもたちとの交流をなるべく持たないでほしいという話がありましたね。やっぱり(プロデューサーのキャメロン・)マッキントッシュチームの子特有のものなのかもしれないんですけど、私生活の緊張感を舞台上に持っていくというか、私生活の関係性が舞台上に乗ることを大切にしていて。
だから逆にフェイギンさんとかは子どもたちとどんどん交流してくださいって言われてて、ビルは一定の緊張感を保ってほしいと。だから子どもたちとなんとなく距離を取っているんだけど、もうちょっと交流を持ちたいなって思っちゃう。全く交流を持っちゃいけないわけじゃないけど、俺としても「ビルってめちゃくちゃ怖いな」「憧れる存在だな」って思ってほしい分、千秋楽までは距離を取ろうかなと思っています。だからこのカンパニーでは原さんと〝孤高の二人〟になってます。
ただ、「この人ってこんなに怖い一面あるんだ」って思われるのはちょっと嫌だなぁ(笑)。かっこよくまとまると思うからいいんですけど、「この人って他人のことをゴミみたいに見れるんだ」って思われるのはちょっと嫌ですね……。

確かに今お話を聞いていると、普段のspiさんからは想像できないような一面ばかりが出てくるんだろうなと。目の当たりにするのが怖いと同時に、怖いもの見たさという興味もあります。

spi:通し稽古で、そのシーンに出ていない子どもたちが観ていたんですけど、肩をすくめてめちゃくちゃビビってたことがあって。子どもたちって、舞台上と舞台の外との境界線が無いから、俺に挨拶する時はなんだか緊張感があるなって(笑)。きっと怖いんだろうなぁ。

それは確かに、舞台上でも反映されそうですね。子どもたちの反応や恐怖感というか。

spi:でもやっぱり男の子って不思議なんですよ。女の子は本当に怖いから「この人マジで怖い」ってなるんだけど、男の子って「え、怖くないけど?」みたいな顔する子や、「ビビってないけど?」って顔する子が絶対いるの。もちろん怖がっている男の子もいるんだけど、「負けねえけど?」みたいな子もいてちょっと面白いなと思いましたね。こんなにたくさんの子どもが舞台に出ることもなかなか無いから、本当にすごい作品ですよ!

この状況で生の演劇を提供すること自体が難しい中、spiさんが演劇を届けながら感じていることは?

spi:客降りが素晴らしいってことですね。客席に降りることが舞台の醍醐味だったんだなって気付かされたなと。客降りのパワーというものが、舞台で最も凄いんじゃないかな。もちろん舞台上で行われていることもそうなんですけど、例えば『ライオンキング』だって(キャストが)座席の横を通るのが楽しみで行く部分もあるわけじゃないですか。歌舞伎でも、役者が横を通って風を感じたりするのが醍醐味なわけで。役者としても、早く客降りが出来るようになりたいですね。

少し話題を変えまして、『オリバー!』の主人公・フェイギンの〝スリ・こそ泥〟にちなんで、最近spiさんの心を盗んだもの、心奪われたと感じるものはありますか?

spi:コンビニのチョコチップクッキーですね。ちょっと柔らかくてしっとりしたクッキーなんですけど、よく行くコンビニで毎日買い続けてたら、ついに品切れになっちゃって。多分そんなに売れないから、仕入れのペースがそんなに早くないんだろうけど……俺が一度に2枚とか買うから無くなっちゃったんですよ。早い内に在庫が復活するといいなと(笑)。ずっと食べてるし、原さんにも食べてほしくて配っちゃうからまた補充しないと(笑)。

ありがとうございます。最後に、この作品が持つメッセージ性、舞台を通してお客様に届けたい思いをお伺いできますでしょうか。

spi:子どもから大人まで、老若男女誰しもが楽しめるミュージカルですし、ぜひ家族で観に来てほしい作品です。きっとお子さんは子どもたちがいっぱい出てて楽しいって思うだろうし、大人は、男の人だったらもしかしたらビルやフェイギンに共感するかもしれない。独身でも結婚していても生活に溢れる黒い部分のオマージュみたいなものがいっぱい散りばめられていて、本当に共感できると思います。すごく楽しかったという感覚と、今の自分の生活に感謝したくなる気持ち、その両方を一緒に持って帰ってもらえるような舞台だと思います。そしてきっと、「ビル・サイクスのスピンオフが観たい」とみんながアンケートに書きたくなるようなビルにするので、ぜひ観に来てください。

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スピ
1987年10月30日生まれ、神奈川県出身。最近の主な出演作に、ミュージカル『VIOLET』(父親役)、舞台「銀牙 -流れ星 銀」~牙城決戦編~(赤カブト役)、「テレビ演劇 サクセス荘」(虎次郎役)など。「映画演劇 サクセス荘」(虎次郎役)が2021年12月31日より公開予定。
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ミュージカル『オリバー!』

【日程】2021年9月30日(木)~10月6日(水)※プレビュー公演
【会場】東京・東急シアターオーブ
【日程】10月7日(木)~11月7日(日)
【会場】東京・東急シアターオーブ
【日程】12月4日(土)~14日(火)
【会場】大阪・梅田芸術劇場 メインホール
【原作】チャールズ・ディケンズ
【脚本・作詞・作曲】ライオネル・バート
【出演】市村正親/武田真治(Wキャスト)、濱田めぐみ/ソニン(Wキャスト)、spi/原 慎一郎(Wキャスト)、
エバンズ隼仁/越永健太郎/小林佑玖/高畑遼大(クワトロキャスト)、大矢 臣/川口 調/酒井禅功/佐野航太郎(クワトロキャスト)、
コング桑田/小浦一優(芋洗坂係長)(Wキャスト)、浦嶋りんこ/鈴木ほのか(Wキャスト)、鈴木壮麻/KENTARO(Wキャスト)、北村岳子/伊東えり(Wキャスト)、小野寺 昭/目黒祐樹(Wキャスト) 他
www.oliver-jp.com

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テキスト:田中莉奈

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