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「プロレスと音楽」#3 男子プロレスラーVS女性アーティスト

さぁ、どこに向かって語っているのか自分でもわからなくなってきた「プロレスと音楽」、そのなかでもさらにニッチな「プロレスラー出演MV」の世界をまだまだ掘り下げていきたいと思います。
尺の短いMVの世界では、パっと見ただけでもヒキのあるビジュアルインパクトが重要になってきます。
とはいえ、撮影に関しては予算や時間の関係もあり、さまざまな制限が…。そうした環境で、デカくて異形で立ってるだけで映えまくる「プロレスラー」という素材は、手軽なワンポイントリリーフとして重宝されているのです。
さらに女性アーティストに、屈強な男性プロレスラーを対峙させれば、見た目の面白さだけでなく、ある種のメッセージ性も込めることも出来るのです……ということで今回は男子プロレスラーVS女性アーティストというテーマのMVをセレクトしてみました。

まず一本目は、ここにきてさらに注目度が上がっている実力派ガールズバンド「Gacharic Spin」! 超絶テクニックと突き抜けたポップさに加え、近年でが得も言われぬ焦燥感と込み上げるようなエモさも加わってかなりヤバい感じなんですが、今回紹介するのは2015年2月25日リリースされたメジャーデビューシングル、『赤裸ライアー』のMVです。

 いきなり余談ですが、このタイトルは「赤裸々」+「ライアー」の造語なんだと思いますが、個人的には「赤裸」の字面が、かつての香港映画によくあった女性アクション三級片をイメージさせて最高!

 Gacharic Spinは09年に結成され、インディーズで活動開始。メンバーチェンジを経ながらこの『赤裸ライアー』で、ようやくメジャデビューを果たすわけですが、そのMVに登場するのが“東洋の神秘”ことザ・グレート・カブキ! これは予想外のマッチアップです!
ザ・グレート・カブキこと高千穂明久は、1964年に力道山が設立した日本プロレスに入門した、現役最古参レスラーのひとり。81年にアメリカ・ダラスの遠征でペイントを施したギミックレスラー「ザ・グレート・カブキ」に変身すると、その斬新なパフォーマンスと確かな実力で、ヒールながらも絶大な人気を博しました。
カブキさんといえば『カランバ』、血吹きパフォーマンス、それに「かぶき・うぃず・ふぁみりぃ」など、語りたいことはたくさんありますが、とにかく現在でもリングにあがり続け、試合はしなくとも華麗なヌンチャクパフォーマンスを披露してくれるという文字通りのリビングレジェンドなのであります。
対するGacharic Spin、当時のメンバーはF チョッパー KOGA、はな、TOMO-ZO、オレオレオナの4人に、パフォーマーとしてガチャガチャダンサーズの1号まいと2号ありさが加わるという布陣。
 MVは何かの作業場として使われていそうな倉庫が舞台となります。寒い時期に撮影されたのか、メンバーの吐く息が白いです。カブキさんは、いきなり大ボスのような妖気を漂わせて登場。おなじみの鎖帷子タイプのフルコスチュームです。曲の冒頭、FチョッパーKOGAさんのスラップベースがカッコ良すぎてヤラれそうになりますが、カブキさんはダブルヌンチャクパフォーマンスで対抗。さらに画面に向かってパンチを連発! これはカブキさんの名人芸ともいえるアッパーカットのモーションでしょうか。ちなみに相手をグーで殴るのことはプロレスルールでも反則です!
 さらにカブキさんがヒールフェイスでカメラを睨み、よほどの空手・憲法の達人しか出来ないという指の第一関節だけを曲げる「指折りパフォーマンス」っぽい動きを見せてくれます。これにははなさんが迫力ボーカルで対抗。
ならばとカブキさんは、赤髪の連獅子コスチュームにお色直しして登場。そして真っ赤な毒霧を発射! さらに首をグルングルン回す、連獅子パフォーマンスで畳み掛けます。カブキさんもまだまだ動くなと感心していたら、連獅子が2人に増殖。首を回していたのはカブキさんではなく、若いダンサーでした。
 そして怒涛の間奏のクライマックスでは、カブキさんが吹いた毒霧をオレオレナさまが浴びるという衝撃シーン! 
 ちなみに、カブキさんの毒霧は、最近ではバラエティ番組の罰ゲームとして採用されることも多いですが、その際、芸人さんたちのリアクションは「クサッ!」というが代表的。それまでプロレスのリングでは毒霧の効果は主に目潰しという認識だったのですが、ニオイでもダメージを与えていたということは、バラエティ経由でプロレスファンに伝わったことだと思います。
 MVのラストがキーボードを弾くオレオさまの吐息が毒霧のようにも見える、という粋な演出で幕を閉じます。通して観ると、なによりもGacharic Spinのメンバーがキュートでカッコ良く、さらにカブキさんのプロモーションビデオとしても秀逸という傑作MVに仕上がっています。


この奇跡から約3ヶ月後、2015年に6月3日にGacharic Spinのメジャー第2弾『Don't Let Me Down」がリリースされます。テレビアニメ「ドラゴンボール改』のEDテーマに採用されており、爽やかでビートの効いた勝負曲ともいえる楽曲。そのMVに登場するのは、“風雲昇り龍”、天龍源一郎! 
なぜGacharic Spinはメジャーデビューの大事な時期に2曲続けてプロレスラーをMVに起用したのでしょうか…。
天龍源一郎は、「ミスタープロレス」と呼ばれるほどの一時代を築いた名レスラー。全日本プロレスでは天龍革命を巻き起こし、SWS、WARと母屋を変えつつ、ジャイアント馬場、アントニオ猪木のふたりからピンフォールを取った唯一の日本人プロレスラーとして名を刻みました。
 MVでは、そんな天龍が手首をこねくりまわしながら、ガウン姿で登場! そしてGacharic Spinのメンバーは、なんとリング上にフルバンドでセッティング。絢爛豪華なドラム、オレオさまの乗れるキーボードなどの楽器と巨大なアンプ、そしてメンバー6人が並んでおり、さながらアイテム持ち込みハードコア6人タッグマッチの様相です。
このリングの奥には花道も設置されており、ロケ地はどうやら新木場ファーストリング。前作に続き、舞台は倉庫ということにもなります。
 今回のMVはリングに仁王立ちする天龍に、カラー柔道着姿のメンバーたちが闘いを挑んでいくという流れになります。
先陣を切ったのはガチャガチャダンサーズの2人。可愛く吠えますが、天龍は水平チョップとみせかけたデコピンを一閃。ふたりがダメージを受けたところにオレオさまが登場。セクシー担当として投げキッスなどの誘惑攻撃を繰り出しますが、天龍はアクビしながら払い除け、まったく通用しません! そしてオレオさまに代わって現れたのはTOMO-ZO。気合い充分、カチューシャからビームを放ちますが、天龍はノーダメージ。TOMO-ZOさんは、なぜかリングサイドにあったカレーに釣られて試合放棄してしまいます。そこに黒柔道着のはなサンが登場! 腰のあたりに忍ばせたドラムスティックを両手に掲げて打ちかかりますが、天龍はスティックをキャッチ&リリース。このピンチにKOGAが駆けつける! 友情タッグのツープラトン攻撃かと思いきや、天龍は二人をそれぞれロープに振り、はなサンとKOGAさんはバタバタと往復してぶつかってダウンという古典的スラップスティック・ムーブを披露してくれます。
 曲調にあわせて、コミカルな仕上がりのMVでしたが、演奏終了後にはエピローグが。
メンバー全員が集まって天龍に対峙し、「ガチャリックスピン負けないぞ!」とファイティングポーズ。そこに天龍が「やかましい! お前らみてぇなガチャリックスピンが、俺に闘いを臨もう(挑もう?)なんて、10万年早いんだよ! もっかい修行し直して、出直してこいコノヤロー!」と、テロップが出ているのに聞き取れないナチュラル・デスボイスで吠えると、メンバはうわ~とやられてゴングというオチ。
 ちなみにですが、天龍源一郎は2015年2月に引退を表明。ファイナルツアーと題した引退ロードを行い、様々な団体に参戦して試合を重ね、11月15日の両国国技館大会におけるオカダカズチカとの対戦で「腹いっぱいのプロレス人生」を終えました。
撮影時期を考えると、このMVの撮影はまさにその引退ロードの真っ最中。カウントダウンマッチは全部で21試合行われていますが、この「対Gacharic Spin」戦を入れて全22試合にしてもいいかもしれません。

残された謎は、なぜGacharic Spinが、メジャーデビューの大事なタイミングで立て続けにプロレスラーMVを作ったのかということですが、この2本とも監督が同じで、ベテランの井上強さんという方が担当しています。
井上強さんは1962年生まれですが、プロレスファン的にカブキ、天龍さんあたりツボなのかもしれません。ちなみに井上強さんは3年後にGacharic Spinの『Redline」という曲のMVも監督していますが、こちらにはプロレスラーは出てきません。場所は相変わらず倉庫ですが。
あと、Gacharic Spinに関しては、はなサンがかつて在籍していたブラスロック・バンド「12.ヒトエ」や、KOGAさんのグラビアアイドル時代に選抜されていたユニット「プチエンジェル」についても語りたいんですが、プロレスに関係ないので止めておきます。


では続いて、ガールズグループで、紆余曲折を経たメジャーデビュー1発目、それにカブキ、天龍というテーマでむりくり繋げて、BiSの『PPCC』を紹介します

BiSといえば、いまや一大帝国を築いたWACKの渡辺淳之介さんが送り出した最初のアイドルグループ。数々過激なプロモーション、そして物議を醸した「IDOL」事件を経て、ついにエイベックスからメジャーデビューが決定し、2012年7月18日にリリースされたのが「PPCC」です。
プロレスファンが「PPCC」のような英語の並びを見るとと、つい「パン・パシフィック・クルーザー・チャンピオンシップというベルト?」などと妄想してしまいますが、これは歌のサビで連呼される「ぺろぺろっちゅっちゅー!」という部分の頭文字のことのようです。
さて肝心のMVですが、この時期のBiSですから、そりゃあもう尖ってます。設定はシンプルです。港のような場所で、BiSメンバーが大勢の不良軍団と向き合い、大立ち回りをするという展開。
BiS陣営は、最初は白いコスチュームを着ていますが、ゆっくり脱ぎ捨てると中にはスクール水着。腰から下の部分がカラービキニになっている、マニアックかつオリジナルな仕様です。
対する不良軍団は、どいつもこいつも凶悪な面構えですが、ひときわ目立っているピアスだらけの男がプロレスラー折原昌夫です。
折原は全日本プロレスに入門して天龍源一郎の付き人を努めたというキャリアの持ち主。その常軌を逸した行動から「トンパチ」と呼ばれました。天龍さんと行動を共にし、SWS、WARと渡り歩き、自らの団体「プロレスリングメビウス」を立ち上げます。
見た目の凶暴さでは、歴代レスラーのなかでも3本の指に入るレベルですが、折原本人は実は繊細な性格だそうで、その反動からタトゥーやピアスを入れまくってしまったそうです。
さて、折原昌夫の登場で、なんとか天龍さんと繋がりました、あとはカブキさんと思ってると、折原の隣にヌンチャクを首にかけたカブキメイクの男がいるじゃないですか! 実はこの人もれっきとしたプロレスラーで、リングネームは「THE KABUKI」。折原が「タイの地下格闘技場にザ・グレート・カブキの息子がいる」との情報を聞きつけて呼び寄せたという触れ込みで来日。当のカブキさんに真偽を尋ねると「アメリカ時代に前妻と息子がいたが、20年以上会ってない」とのことで、桑名正博さんの隠し子騒動のようにハッキリしないまま、天龍プロジェクトで日本デビューを果たした、底が丸見えの底なし沼のようなギミックレスラーです。
現在はリングネームを「舞牙」(ぶき)に変えて、活動を続けているようです。
MVでは、折原やKABUKIにボコボコにされたBiSメンバーたちが、流れ出た血や傷をペロペロチュッチュとお互いに舐めあうと奇跡の復活! 釘バットを掲げて振り上げると、折原とKABUKIの頭が爆発して吹っ飛ぶという強烈なエンディングで幕を閉じます。
いまとなっては、そんなに露悪的に頑張らなくても、普通に松隈ケンタのエモい楽曲と個々のキャラクターだけで勝負できたのにと思いますが、当時のBiS的にはメジャーでもここまでやったる! という意気込みを見せたかったんだと思われ、その熱は充分に感じられる仕上がりです。
この後、BiS(第一期)は、浅草・花やしきでDDTとコラボするなど、プロレス界とそれなりに関係性を深めていきますが、2014年に解散します。

こうしてみると、プロレスラーもアーティストも紆余曲折あるのが当たり前なので、MVという媒体で一瞬だけでも交錯するというのは、まさに一期一会。その経緯やバックストーリーを勝手に読み込んでドラマを組み立てて愉しむのがプロレスファンなので、今後もプロレスラーMVを掘り下げていければと思います。

出洲 待央


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