松永天馬038

【第5回】松永天馬の歌詞深読みゼミ「未来とは?/SKE48」

アーバンギャルド松永天馬の歌詞深読みゼミでは、J-POPの歌詞を題材にしながら、歌詞の深読みを行なっていきます。
スペシャカレッジ通信 串田

【第4回】松永天馬の歌詞深読みゼミ#2「RHYTHM OF THE SUN/ケツメイシ」

【第3回】松永天馬の歌詞深読みゼミ#1「ラブラドール・レトリバー/AKB48」

【第2回】松永天馬が歌詞に対して思うこと#2

【第1回】松永天馬が歌詞に対して思うこと#1

課題曲「未来とは?/SKE48」
作詞:秋元康

「未来とは?/SKE48」の歌詞はこちら

松永

「未来とは?」って1行目に言って、
次の行で「1秒後」って答えを言っちゃうのが直球すぎてすごかったんですけど、他にやってる人いますかね?

串田

やっぱりすごかったですか?

松永

これが本当に秋元さんの上手いギミックだと思うんですよね。
「未来とは?」ってタイトルで言われると、
「未来とは何なんだろう?」ってみんな答えを知りたくなる。
そしたら、本当に電通のプレゼンじゃないですけど、パワポをめくったら、
「1秒後」って出るんですよね。

串田

(笑)

松永

明快明快!
 
串田

確かに、明快です。
 
松永

要するにこれは、
自己啓発ソングなんですね。
時間っていうものは自分が意識してもしなくても
進んで行ってしまう。
1秒ごとに未来は更新されていっちゃう。
それに対して、
受動的ではなく能動的に、
朝陽を待つのではなく、自ら朝陽に向かって行こうぜっていうのを
歌ってる歌だと思うんですよね。

 
串田

はいはい。
 
松永

でもちょっと、
時間という概念を歌詞の中に取り入れることによって、
禅問答のような、哲学的なものが上手く入ってきてるなと思って。
「未来とは?一秒後 砂時計 次の一粒が落ちたとか落ちてないとか そんな隙間が現在」
砂が宙に浮いちゃってる状態ですよね。
これから落ちるか落ちないかっていうのが現在で、
すぐ落ちてしまう、未来はすぐ始まってしまうんですよね。

 
串田

結構、でも、始めの3行でガツンと言う。
 
松永

それ以降は、その3行に対する脚注ですね。
あとは※印つけて欲しい的な(笑)
「なんとなく、クリスタル」じゃないですが、脚注のほうが本文より遥かに長い(笑)
一番最初にクライマックスを持ってくるというか。
でも小学生が出すクイズみたいですよね?
「未来とは何ですかー?」「一秒後でーす!」みたいな。
その問いかけが全てですね。

串田

確かに。
 
松永

でもこの「何かをやろうと想い浮かべた瞬間 誰もが微笑んだように 一回 瞬(まばた)きをするんだ」
ってとこが詩人ですよね。
フィジカルな感覚に訴えかけるというか。

串田

でも見てると、やる気を出させたい感じですね、
全体的に。

 
松永

今のライブアイドルってのは、
アッパー系の麻薬みたいな歌ばっかじゃないですか、
とにかくアップアップでやる気を出させる。
ももクロ以降だと思うんですけど、
すごくわかりやすい根性論で、
歌詞が「のし上がって行きましょうよ」っていう世界観のもとにあって、
アイドルがのし上がって行く下克上のストーリーっていうのは、事前に用意されているんですよね。
路上から始まって、リキッドルーム、BRITZ、ZEPP、日比谷野音、武道館、アリーナってどんどん箱を大きくしていく。
または、オリコンのランキングを上げて行く、
っていう「この下克上の物語に着いてこい!」って宣言して、
オタ達が「おーー!」っていうストーリーがものすごくあるんですよね。
だから、この曲もアッパーに啓発して言ってくわけですよね。

 
串田

なんかその、
「頑張る」っていう美しさって、
例えばヒップホップは解りやすくメイクマネーがあると思うんですが、
アイドルはなんで頑張ってるんでしょうか?

松永

ヒップホップが日本に浸透してきた90年代で言えば、
女の子は成り上がる方法として、ダークな例ですが、
援助交際っていうのがあって、
援助交際っていうのは、自分の価値っていうのを金に変換することによって、
20万30万稼げる体を持っててっていう、
金が自分の価値の指標だったんですよね。
でも、今の子は、言ってしまうと「認めてもらいたい」っていうのか、
かわいいって言ってもらいとか、
憧れられたいって欲が強くて、
言ってしまえば、アイドルって給料あんまりもらえないらしいじゃないですか。

串田

っらしいですよね。
 
松永

お金をもらえないのに、
あの子達はなんで、ブラック企業すれすれの過重労働をしながら、
笑顔でいられるのかっていうと、
「自分を認めてあげたい」「自分で自分を褒めてあげたい」
つまり、有森裕子ですよ!
自分を褒めてあげたいからやってると思うんですよ。
アイドルの子達の「自己実現したい」っていう気持ちに対して、
ヲタの人達は「自己実現させてあげたい」だし、
言うなれば、「君が自己実現することによって、俺も自己実現するぜ!」
っていう共依存の関係にある。
だからこういうアッパーソングによって
「僕らは待ってるだけでは駄目なんだ!たった今から始めようぜ!おー!」
みたいになるっていう。

串田

おー!!(笑)

松永

本当に僕が10代の時の90年代の時の歌詞とかを見ると、
世の中を斜に構えてたっていうか、
「は?頑張って何があんの?」「は?努力?無駄じゃん」
みたいな歌が多かったと思うんですよ。
小室ファミリーの歌もそうだったし、初期の宇多田さんとか椎名林檎さんを見ても、
世の中拗ねたところから立ってる孤独な私、みたいな。
浜崎あゆみとかもそうだと思いますよ。
努力で報われるとは、思ってないですよね。
勿論頑張りたいとは思ってるんだけど、
努力した分報われるとは思ってなかってですよ。

串田

「頑張る」っていうことを表現する時代じゃなかった。
最近、「頑張ろう」っていうのを肯定的に見てる感じが面白いですよね。

松永

多分、あの時代って、
今も不景気なんですけど、
バブルが崩壊したとか言って、不景気で元気が無いとか言ってたんだけど、
今の20歳の子達は不況ネイティブ世代って言いますけど、
不景気なのが当たり前で、逆に別に言うと、
今の日常がそれなりに楽ければ万事オッケー、
それなりに楽しいじゃんっていう。

 
串田

古市さんとかも書いてますね。
 
松永

そう!
古市さんの本は象徴的だと思うんですよ。
絶望の国の幸福な若者たち」っていう本にまさに書かれてますが、
そういった中でアイドルのわかりやすい根性論とか解りやすい自己肯定っていうは、
うまく機能してるなって思います。

串田

この先に何があるんでしょうか(笑)
頑張った先に(笑)

松永

この先に何があるんでしょうね。
深い絶望がくるのか、僕もわからないですけど(笑)

 
串田

いい時代が来るといいですね。

松永

余談ですけど、
労働讃歌っていうももクロさんの曲を、
アーバンギャルドとコラボさせていただいたんですけど、
オーケン(大槻ケンヂ)さんが歌詞を書いてるんですけど、
この機会によくよく読んでたら、
福島第一原発の作業員のことを歌ってるんじゃないかって気がしてきたんですよ。
あれ出たのが、2011年の夏にリリースされたんですけど、
「上の連中はさっさと逃げちまった」みたいなことを書いてて、
「でも俺らは、宇宙弾丸列車を作るような大仕事をせっせこやるしかないぜ」みたいなことを書いてて、
俺は労働していくしかないから労働を肯定して行くぜ。
ある種、ちょっと福島第一原発で働く名もなき作業員たちが俺らは俺らの仕事をやるぜ!っていう歌なんじゃないかなって思って。
是非ともそれを意識して聴いてみてください。

串田

そっちに気が行かなかったですね。
曲もTHE GO! TEAM の人だし。

 
松永

そう。
実は、意外にシリアスな曲なのかなっていう。
ソフトな書き方だから一応メジャーで出せてるけども、実はハードな内容なのではと。

 
串田

可能性はありますね。
じゃあそこのリサーチよろしくお願いします!

次回に続きます。


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