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宇宙飛行士特有のストレス要因とは?

今回は「宇宙飛行士特有のストレス要因」を紹介します。

ストレスとは、外部からの刺激などによって体の内部に生じる反応のこと。その原因となる外的刺激(ストレッサー)とそれに対する私たちの
心身の反応(ストレス反応)とを合わせてストレスと呼ばれることもある。

e-ヘルスネット, 厚生労働省

みなさんはストレスと聞くと何を思い浮かべるでしょうか?
なんとなく嫌な感情を伴う出来事や、モヤモヤした心のわだかまりのような
ものを想像する人も多いかもしれません。

しかし心理学では、そういった「嫌だなぁ」と感じることに限らず、
嬉しい出来事も含めて日常の様々なイベントがストレスになる
といわれています(Holmes et al,. 1967)。

そのため今回は広い意味で、宇宙飛行士にどんなストレスがあるのか
紹介したいと思います。

本記事の内容は、宇宙心理学を学ぶにあたり必読の書であるこちらを
参考にしています↓


1.物理的なストレス(環境ストレス) (Physical stressors)

 宇宙空間の微小重力、宇宙放射線、隕石の衝突、昼夜のサイクル など
 
 微小重力環境では例えばムーンフェイスやバードレッグなどの循環器系や
 骨や筋力の低下などの身体面の変化がよく知られています。
 また近くに関しては「空間識失調」も報告されており、
 微小重力環境で長期にわたって滞在することで増大する可能性が
 示されています(Small, Oman, & Jones, 2012)。


2.居住性 (Habitability stressors)

 振動、周囲の騒音、温度、照明、空気の質 など

 現在宇宙飛行士がメインで活動しているISS(国際宇宙ステーション)に
 おけるストレス要因としては、上記のように考えられています。
 たとえば騒音についてはJAXAのHPで次のように述べられていました。 

国際宇宙ステーションはたくさんの機械があるので、常に空調ファンの音や機械音がしています。それらの音がうるさくて眠れない宇宙飛行士のために、睡眠用のアイマスクや耳せんなども用意されています。

JAXA HP「ISSでの日常生活」より
NASA HPより

3.心理的ストレス (Psychological stressors)

 社会からの隔離、閉鎖された環境、危険と隣り合わせであること、
 モノトーンな環境・生活、ワークロード(作業負荷)
 など

 ISSの壁の外側は空気がなく、常に危険と隣り合わせです。
 また、限られた環境の中で単調な仕事をする日々が続きます。
 反対に花形の仕事であるEVA(船外活動)は、準備から終了まで
 何時間もかける大変な仕事です。(JAXA HP 参考)
 ただ宇宙で仕事をする、といってもたくさんの心理的ストレスがある
 ことが想像できます。

 宇宙飛行士の快適な暮らしには地上側のサポートが必須です。
 たとえば宇宙飛行士のスケジュールやタスクを管理・調整していたり、
 補給船にプレゼントをのせたり、イベントを楽しむ時間を設けています。
 また、宇宙飛行士の健康状態のサポートはフライトサージャン(FS)
 呼ばれる専属の医師が行っています。
 精神心理面のサポートとしては、2週間に1度の面談である
 Private Psychological Conferences(PPC)が行われています。


4.対人ストレス (Interpersonal stressors)

 ジェンダーに関する問題、文化的な影響、対人関係上の衝突、
 クルーの人数、リーダーシップに関する問題
 など

 人間関係もストレス要因の一つです。
 上記の問題を最小限にするためには選抜や訓練がとても重要になります。
 宇宙飛行士は座学としてリーダーシップ・フォロワーシップを学びます。
 また、ミッションにアサインされてから1~2年ほど一緒に訓練をし、
 訓練の中でお互いのことをよく知り、関係性を築いていきます。

 閉鎖された環境では、たとえばクルー同士で衝突があった際に
 「場を離れて頭を冷やす」「距離をとる」といった地上で行える対処は
 難しいです。そのため地上訓練時からお互いの事をよく知っておくことや
 クルー同士のピアサポート(同じ立場の人同士がサポートし合うこと)が
 重要です。

 クルー同士だけでなく、地上管制官の関係性も挙げられています。 
 ミール時代には、クルーと地上管制官の間で口論があり、
 クルー側が交信装置のスイッチを切る、といったトラブルがあったことが
 報告されています(ドラゴンフライ より)。

 今後の月や火星に向けた有人ミッションでは、通信に遅延が起こることが
 知られています。そのため、クルーのみで判断する場面が増えたり、
 あらゆる情報の中から必要な情報のみを伝える必要があったり、
 これまでとは異なるストレス要因が増える可能性が考えられています。 


いかがでしたか?
過酷な選抜試験を突破した宇宙飛行士であっても、
私たちと同じようにストレスを感じるんですね。

今後ますます長期化し、複雑になっていくミッションの中で、
宇宙飛行士に対して宇宙心理学が貢献できることはたくさんありそうです。


最後まで読んでくださりありがとうございました!


主な参考文献
・Holmes, T. H., & Rahe, R. H. (1967). The social readjustment rating scale. Journal of psychosomatic research.
・Kanas, N., & Manzey, D. (2008). Space psychology and psychiatry (Vol. 16). Dordrecht: Springer.
・Small, R. L., Oman, C. M., & Jones, T. D. (2012). Space shuttle flight crew spatial orientation survey results. Aviation, Space, and Environmental Medicine, 83, 383–387.
・北村, 道雄, & 小林等. ドラゴンフライ: ミール宇宙ステーション・悪夢の真実.
ほか

※本記事のサムネイルは「宇宙飛行士 ストレス」でAIに画像を生成してもらいました。😂


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