映画『ソロモンの偽証』の柏木卓也について


『ソロモンの偽証』は、宮部みゆきの小説が原作であり、2015年に成島出監督のもと前編・後編に分けて映画化された。

私は原作を読んでおらず、映画に関しても2015年公開をつい先日初めて観たほどだ。公開当時、私は高校生だった。連日朝のニュースに取り上げられていたが、同世代で、しかも若干歳下の俳優さん方が中心ということに何故か抵抗があり、観るには至らなかった。

しかし、この映画に出会ったのが今でよかった。

好きな映画との出会いはタイミングも重要だと思っていて、その時に観たからこそ、その映画の良さを感じられたという経験がよくある。


ふと見始めた映画だったが、中学生陣の演技力に惹かれ前編後編と立て続けに観てしまった。

そして、この度一番印象に残ったのが、望月歩くん演じる柏木卓也という登場人物だ。

以下、ネタバレを含むが、



物語は柏木卓也の遺体発見から始まる。

雪に埋もれた遺体が掘り出されていく様は少しセンセーショナルでもあり、一気にこれからの展開が楽しみになった。

しかし、柏木卓也の性格や普段の様子については謎に包まれたまま進んでいく。

主人公の女の子がいじめの現場を見て見ぬフリして立ち去るシーンになり、やっと「もしや?」と思われる少年の後頭部が映し出される。

カメラが移動していき、顔が現れた瞬間、この子が柏木卓也だと直感でわかった。ぴっちり分けた七三分けの髪型に、繊細で聡明そうな顔立ち。年相応の幼さが残る可愛らしい子だ。

そんな子の口から、声変わりしつつも高めの幼い声で「偽善者」だの「お前」だの「悪質」だの飛び出てくるのだから、それはそれは衝撃だった。主人公の女の子に対して相当キツい言葉を浴びせた後、嘲笑するかのように口を歪ませ立ち去るのだ。

なんて子役だと思った。

最初から最後までインパクトのある登場だった。

望月歩くんの声とひとつひとつの言葉の噛み砕き方に少し幼さが残る分、純真な瞳をしている分、セリフの残忍さにギャップがあって強烈な存在感だった。



その他にも、唯一の友達といえる神原という少年に、酷い言葉を浴びせかける。

神原は、私立の(おそらく)名門校に通っており頭もいい。そんな彼には父親が母親を殺した悲惨な過去があり、現在は血の繋がらない両親の元で育てられている。

神原と柏木は中学が別々に離れたのをきっかけに疎遠になっていたようで、クリスマスの前日、久しぶりに柏木に呼び出される。そこで、「自殺しようと思ってる」と打ち明けられるのだ。


自殺をほのめかしたのは、やっぱりどこかで神原に止めて欲しかったからなのだと思う。

神原に無理やり要求を押し付け、それを断られれば「自殺する」と脅す。神原からすれば、面倒で迷惑な話だ。柏木は、俗に言うメンヘラや厨二病といった言葉で片付けられやすいキャラクターかもしれない。

原作には描かれているだろうが、映画内で柏木卓也の背景についてはあまり触れられていない。どうしてこんな風にこじらせしまったのか、何が彼を自殺したいとまで思わせたのか。


しかし、映画内で柏木卓也は、「生まれ変わるならウサギか人間どちらがいいか」とクラスメートの1人に問い、「自分はウサギがいい」と答えている。「人間と違って無垢で純粋なんだ」と。

このシーンから推測できる部分がある。おそらく彼は、人間の汚い部分に誰よりも敏感で、潔癖で、若くして辟易していたのではないだろうか。そして、孤独を抱えていた。


最終的に柏木は、クリスマスイブの23時30分に学校の屋上へ来いと神原に言う。そして訪れた神原が、柏木自身の期待を裏切り「両親の凄惨な過去から立ち直ろうと前を向いている」ことにショックを受けたのだろう。おそらく柏木は、自分の孤独、絶望を、神原に感じてほしかった。理解して欲しかったのだと思う。それなのに、前を向いて生きている。強く、生きようとしている。かたや自分は…。


そこで柏木は酷い言葉で罵倒し、神原を傷つけにかかる。最後の悪あがきのように。

そして、当然の報いではあるが、神原に「ぼくたち友達じゃなかったんだね」と言われてしまう。

その時の柏木の表情が、なんともいえなくて。瞳が揺らいでいて、動揺しているような、傷ついているような、そんな表情。柏木くんからしたら、神原くんは唯一の友達だったんだよね。そんな子から最後には「そんなに死にたいなら勝手に死ね!」と吐き捨てられ、そして走り去られてしまう。

柏木卓也が最期に聞いた言葉がこれかと思うと、無性に切なく、悲しくなる。

死ぬのを止めて欲しかったって思いがあったはすなんだよね。中学2年生にして自殺を決意するなんて、そして実行してしまうなんて、それほど生きることに疲れてしまったのだろうか。


神原に走り去られてしまったあと、視線を彷徨わせながらも夜空から降り注ぐ雪を見つめる。

ここのカメラワークがすごく好きだ。

そしてなんといっても、望月歩くんの演技が光っている。あくまで孤独に溺れた中学2年生の表情なのだ。瞳が綺麗で悲しい。

最期はフッと諦めたような表情をする。柵から手を離して飛び降りる際、躊躇はなかったように感じる。




出演時間こそ多くはなかったが、望月くんが登場するたびに、彼自身の放つ儚い空気感、迫力ある存在感に魅了された。




あまりにも柏木くん視点で観ると悲しくて、複雑な感情でごちゃまぜになって、整理するためにもなにかに記しておこうと思った。



いち映画の、いち人物でしかないが、

どうか柏木くんには来世で幸せに生きていてほしい。