宇宙医学実習インタビュー②東京理科大学スペースシステム創造研究センター

2023年文部科学省・宇宙航空科学技術推進委託費「将来の有人宇宙活動を支える宇宙医学人材育成プログラムの創出」の一環として、宇宙医学実習が開催されました。今回宇宙医学実習に参加できなかった方や、来年参加したいという方向けに、参加者の方に感想を聞くインタビューです。今回は東京理科大学です。

山口隆太朗(以下山口):本日インタビューに協力していただくのは、関西医科大学医学部医学科の佐藤輝英さんです。どうぞよろしくお願いします。

佐藤輝英(以下佐藤):佐藤輝英です。よろしくお願いします。

山口:今回、佐藤さんが訪問されたのは、東京理科大学スペースシステム創造研究センター、理工学部電気電子情報工学科の木村研究室とのことでしたが、いったいどういう場所だったのでしょうか。

佐藤:木村研究室は宇宙システムとロボットを主な対象にして、システム技術・自律制御技術などに取り組んでいる研究室となります。研究体制としては四つありまして、それぞれ教育ユニット、光触媒国際ユニット、スペースコロニーユニット、スペースクレーンユニットです。そのうち、今回見学させていただいたのはスペースコロニーユニットとなります。

山口:多岐にわたる研究をされているのですね。スペースコロニーユニットではどういった研究をされているのでしょうか。

佐藤:スペースコロニーユニットでは拡張可能な居住区画モジュールということで、見た目は普通のテントなのですが、素材などにこだわった居住スペースの開発を行っております。

東京理科大学 ホームページより

山口:宇宙空間で使用可能な居住企画モジュールですと、どういった点に注意して開発されているのでしょうか。

佐藤:そうですね。宇宙空間では、放射線が飛び交っていて人体にとって危険であり、素材も放射線の影響で劣化してしまいます。そのため、月面基地や宇宙空間において、放射線の影響を考慮した素材選びでなければいけません。木村先生は特殊なファイバーを組み合わせることでより強固な素材の研究を行っていました。なんと自動修復も可能であり、搭載されているAIが損傷を自動検出し、その周りを膨張させることで穴をふさぐことができるんです! 

山口:それはすごいですね!ただ、このサイズのモジュールを地上から運ぶとなると、結構大変そうなイメージですが、、。

佐藤:実はこちらのテント、空気で膨らませて設置するインフレータブル構造を採用しており、輸送時は折りたたむことで持ち運びが容易かつコストを削減できるようにしてあるそうです。

山口:それは便利ですね!それだと持ち運びが簡単そうです!ところで、テントの居心地はどうなんですか?

佐藤:もちろん、居心地の良さにもこだわっています。やはり居住者は同じ居住スペースで長期間暮らすことになるので、居住者がいかに快適に暮らせるかといった工夫が重要になってきます。放射線のことを考慮しなければいけませんが、地球から材料を運ぶということも考慮すると大きい窓をつけることはできなくて、このような閉鎖空間ですと、当然人はストレスを感じやすくなると思います。そこで、居住スペースの外に取り付けたカメラの情報をもとに、写真のように外の様子を再現するといった試みであったり、壁に地球の映像などを映し、居住者がリラックスできる環境を提供するということについても研究なさっていました。

山口:確かにストレスへの対処は大事ですよね。他にこの研究室ではどういった開発を行っているんですか。

佐藤:はい。今あげた居住モジュールに加えて、モジュールから遠隔操作をして探査を行う遠隔操作ローバーの研究も行っており、これですと人が居住スペース外に出ることなく探査ができるので、リスクの軽減にもつながります。他にもスペースデブリの回収装置の開発も今行っており、デブリの微小重力環境での挙動を解析するために, 空気圧で物体を浮遊させることができる実験台を用いたシミュレーションなどを行っているそうです。

山口:なるほど。スペースデブリは年々増え続けており、問題になっていますからね。その解決にも動かれているのは素晴らしいですね。木村先生といえばはやぶさ2に使われたカメラの製造をなさったとのことで有名ですが、今回はカメラ開発の見学はされたんですか?

佐藤:はい、そちらもさせていただきました。木村先生といえば衛星に搭載するカメラの製造で有名ですから、その開発現場も見させていただきました。宇宙空間という極限状態でカメラが正常に作動するためには精密さが求められるので、カメラの製造するにあたり、たくさんのプロセスがあるそうです。
まず半導体の基板は同じ条件にするためまとめてオーダーし、100個の中から3個ほど放射線(X線と重粒子線)をあて耐性を確認し、その後湿度0%で保存します。そして、ほこりが舞いにくい専用の部屋でカメラを組み立てを行い、真空中と大気中で屈折率が違うということもあるため真空の部屋でピントの調節を行います。また、宇宙空間では機械が高温から低温までなるため、どんな温度変化でも耐えられるように、機械を-80度から180度に変化しても問題ないか確認を行っていました。

山口:宇宙空間で耐えられるカメラとなると、非常に緻密な製造と調整が必要だということですね。ところで、当日はどのようなスケジュールで見学したのですか?

佐藤:そうですね。当日は、はじめにモジュールやモジュールでの取り組み、遠隔操作ローバーやデブリ回収の実験装置の見学をさせていただきました。その後に、はやぶさ2のカメラの研究開発を行っているところや宇宙用カメラの製造現場を見学させていただきました。

山口:なるほど。また先ほどの実験の話に戻させていただきますが、宇宙での実験は地上での実験とはだいぶ違うと思うのですが、どのような点に注意して研究されているのでしょうか。

佐藤:そうですね、まず一つ目に宇宙線や放射線への対策はしっかりなさっていました。例えば、宇宙線が精密機器の半導体に照射されると、電離作用をおこし誤作動や故障の原因となることが多いです。そのため、事前に放射線試験を行い、機器の耐用性を検証することを行っていました。他にも、宇宙空間で日陰から日照に切り替わった後に急激な温度上昇をきたすことから、基盤では素材ごとに熱膨張率が異なり, 急激な温度上昇により素材同士が剥がれてしまう可能性があるそうです。これも事前に十分な熱耐性試験を行い、所定の機能・性能を発揮できるか確認することをおこなっていました。

山口:宇宙空間で作動できるのか何度も検証をなさるんですね。今回の実習を通して、何か意識面で佐藤さんの中で変わったことはありますか。

佐藤:木村先生はもともと薬学の博士号を取得されている方で、現在は工学の研究をされているということで、宇宙医学という面では医学だけに集中してしまうと思いますが、工学とか幅広い視点があることで出来ることが広がると思います。そのため、医学に縛られすぎずに、色々な視点を学ぶという姿勢が大事だと感じました。

山口:確かに様々な視点を知っていれば、異なる方法で問題にアプローチできそうですね。今回学んだことを、今後にどう活かしていきたいとかありますか。

佐藤:そうですね。今回は、宇宙医学に関して工学的な面も含め、閉鎖空間や放射線への対策など居住スペースについて様々なことを見学しました。宇宙医学について、人体の変化のみに注目するのではなく、居住スペースや医療設備など衣食住も含めて様々な視点から考えていかなければならないと思いました。

山口:そうですね、異なる視点の大切さをとても感じられたということですね。それでは最後に、今後の宇宙医療業界について、何か一言お願いします。

佐藤:宇宙医学は臨床医療でも基礎研究でも、まだまだこれからだと思うので、少しでも貢献できるようにいろいろな視点を取り入れながら頑張っていきたいと思います。

山口:ぜひ、今後のご活躍を期待しております。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

佐藤:こちらこそありがとうございました。

山口隆太朗:横浜市立大学医学部医学科1年
佐藤輝英:関西医科大学医学部医学科2年


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