short story series『と、私も前々から考えていた』コインランドリー case02

作・木庭美生

家の近くにはコインランドリーがある。

わたしの家の近くにはコインランドリーがある。
コインランドリーはすごくいい匂いがする。わたしの好きな匂い。
わたしはまだ大きいわけじゃないけど、今よりもっと小さい時からこの匂いがすごく好きだった。おひさまみたいな匂いがする。おひさまの匂いはしあわせな気持ちになれる。
でも、ちょっと前にわたしのしあわせは壊された。
近所のお姉ちゃんによって。
お姉ちゃんはたばこを吸う。
たばこは変な匂いがするからあんまり好きじゃない。煙の匂い。
おひさまの匂いに煙の匂いが混ざる。
わたしのしあわせな世界が壊れる。
ぐるぐるなって壊れる。
お姉ちゃんはよくコインランドリーに来てる。
いつもたばこを吸ってる。
だからいつもわたしのしあわせを壊しちゃう。
でも、お姉ちゃんのことは嫌いじゃない。
わたしはお家が近いからお姉ちゃんよりもよくコインランドリーのある場所に行く。
だからお姉ちゃんによく会う。
お姉ちゃんはかっこいい、黒い服ばっかり着てるけどそれもかっこいい。
いつもたばこ吸ってて、たばこの匂いはあんまり好きじゃなくても遊んでくれるお姉ちゃんは好き。たばこの煙でイルカみたいに輪っかを作ってくれる。
お姉ちゃんになんでたばこ吸うの?って聞いたら、かっこつけてるのって教えてくれた。
お姉ちゃんはかっこいい、たばこの唇ではさむところに付きっぱなしの赤い口紅もかっこいい。
世界を壊したいのってお姉ちゃんは言ってた。大きくなって思い出したらきっとダサくて死にたくなるよって言ってたけどよくわからない。
たばこやめないの?って言ったら大人になればやめるって言ってた。お姉ちゃんは大人じゃないらしい。
お姉ちゃんは世界を壊す。わたしの。
しあわせな世界を壊す。たばこで。
匂いがぐるぐるになって壊れていく。
コインランドリーの匂いはおひさまの匂いがするから好き。
お姉ちゃんのたばこの匂いはあんまり好きじゃない。
ぐるぐるになってしあわせは壊れちゃうけど、お姉ちゃんとおひさまの匂いは好きだ。

2018年11月27日

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