short story series『と、私も前々から考えていた』マッチ棒 case 01

作・橋谷一滴

好きなイラストレーターがいる。
男の人である彼は、素敵な絵とともに僕に美術部へ一人で入る勇気をくれた。
結果から言うと入った美術部には普通に男の先輩も、同期の男子もいたし何も問題はなかったのだが
あれからと言うもの僕は完全に彼の描く絵の虜である。
ここで一個挟んでおきたいのが
僕は彼自身よりも断然彼の描く絵の方が好きだと言うこと。
彼の描く女の人は
一人残らず可愛かった。
僕はその絵を生徒手帳の中に挟み、そしてこっそりと真似て描いた。
それだけでとてつもなく幸せな学生生活だった。
が、真似て描いたものの全然似ない。
困ったものだ。
本人に聞きたいぐらいだ。
と美術部同期の男子、けいくんに相談したところ
「そうやね。それが一番早いわ。じゃあこの絵持ってって本人に聞いてみようか」
と素直な答えが帰ってきた。
ちょっとけいくんはばかなのかもしれない。だが僕はけいくんに手を引かれるがまま来てしまった。
彼の個展へ。
僕もばかなのかもしれなかった。
しれなかったけどそこには僕の生徒手帳に忍ばせた夢の世界が広がっている。
僕にはディズニーランドよりも夢のようだ。
そして当の彼は最後の物販席にてとうとう姿を表した。
足がすくむ
あ、
マッチ箱
僕の生徒手帳に住んでいる女の子が
マッチ箱にプリントされている。
僕は固まってしまっていた。
そのうちにけいくんは何か彼に話していたみたいだ。
これは後になって聞いた。
でもそんなことはどうでもいい。
彼は僕に言った。
「君、昔の僕に似てるな」
僕はなけなしのお金で買ったマッチ箱がどんな高いグッズよりも輝いて見えてそれを抱きしめながら帰った。
結局彼に描き方のコツは聞けていない。

2018年12月10日

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