short story series『と、私も前々から考えていた』横断歩道 case 02

作・木庭美生

真田くんはかっこつけたがりだ。すごくかっこつけたがる。つけたがるというかつけている。

でもいつも全然かっこよくない。

真田くんはたぶんナルシストだ。よく鏡を見て鏡に映る自分に微笑みかけている。

でも彼は特にイケメンではない。

真田くんは私と友達だ。ただの友達。

真田くんと私はわりとご近所さんで、真田くんと私はわりと仲がいい。だから一緒に帰る。カラスの鳴き声を聞いて、素敵な音色だなんてわけのわからないことを言う。

うるさいだけだと私が言うと、真田くんはあの鳴き方は自分がここにいるということを家族だったりに伝えている鳴き方だとテレビで見たと言った。

私は、へぇ、と、特に興味ないことが真田くんに伝わる返事をした。

横断歩道の押ボタンを押して信号が変わるのを待っているとまた真田くんがかっこつけた。

横断歩道はまるで鍵盤のようだね。ピアノの鍵盤。ね。なんて言ってくる。

全然かっこよくないよって言うと真田くんは少ししょんぼりした。

真田くん。横断歩道がピアノの鍵盤なら私の音色も聞いて。ピアノの鍵盤の黒いところ、なんて言うのかわからないから私は白いところだけを歩くよ。ドレミファソラシドはわかるから順番に音がなるはず。しょっちゅう鏡見るのやめなよ。女子たちに笑われてるよ。かっこつけたこと言うのやめなよ。全然かっこよくないから。ただの友達をベストフレンドって呼ぶのやめなよ。意味わかんないから。そんな頑張るのやめなよ。そんなことしなくても特別だよ。鏡に微笑む君をばれないように見てる女子がいることにいい加減気づきなよ。かっこつける君をかっこいいとは思わないけど、がんばって特別になりたがる君は私の中で特別な気がするよ。恥ずかしいね。

信号が青に変わったから次にどんなかっこいいセリフを言うか悩んでる真田くんを無視して、私は横断歩道の白いところ踏む。

2018年11月13日


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