short story series『と、私も前々から考えていた』「マジックペン」case 02

作・木庭美生

5時間目。お昼を食べた後の5時間目の授業。
1番後ろの席は嬉しいけれどこの時間は日当たりのいいこの席が憎いとも思う。
眠い目をこすりながら、滑舌の悪い山本先生の世界史の授業を必死に聞く。
そんな時に見つけてしまった。
岡田くん。隣の席の岡田くん。岡田くんはいつも通り寝ている。彼の場合居眠りはいつものことなので先生ももはや諦めている。岡田くんは少しやんちゃだ。不良じゃなくて、やんちゃ。私はそう思う。不良は悪いイメージがあるし、すぐケンカしたり、教室の窓をわったり?机に足を乗せてたり捨て猫を助けたり。でも岡田くんはそんなことはしなくて、授業中に居眠りしたり宿題を提出しなかったり。それくらい。だからやんちゃ。でもそれは前から知ってること、今見つけたのは彼の右の手の甲の落書き。

・ボディーソープ(ローズ)
・化粧水(いつもの!)
・たまご

おつかい、かな。自分で書いたわけではないと思うけど。あれは、爪のあと?かな。やっぱり誰かに書かれたのか。そういえば前に凶暴な姉ちゃんがいるんだって聞いた気がする。ローズのボディーソープや化粧水、お姉さんが犯人か、たまごだけ少し字が丸い気がする。たまごはお母さん?全然わからないけどきっとそう、たぶんそう、な気がする。
朝書かれたのかな、学校に行く前にマジックペンを持ったお姉さんに捕まって、右手を爪が食い込むくらいにしっかり掴まれて買ってきて欲しいものを書かれる。流れでお母さんも同じように買って欲しいものを書く。想像してしまうとおかしくて笑ってしまいそうになる。やんちゃな彼の意外な一面。かわいいと言ったらきっと怒られてしまう。家での彼を知れた気がして少し嬉しい私がいて、書かれた文字にはきっとみんな気づけるだろうけど、爪のあとには気づく人は少ないんじゃないかと思うとそれもまた少し嬉しくて。 居眠りしている彼が起きないからもっと探してみたくなる。
けれど、山本先生の大きなくしゃみで現実に急に引き戻されてしまった。
慌てて黒板の文字をノートに写す。そんな眠たいはずの5時間目。

2018年11月6日

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