short story series『と、私も前々から考えていた』コインランドリー case01

作・橋谷一滴

さっきから携帯が鳴っている
鳴っているのはわかっているけど
私は携帯を開かない
誰からの連絡か分かっているからだ
たぶん。
電車に乗りたいなあ
どこか遠くに
行きたい気がする
誰も私を知らないような場所で
美味しい定食を食べて
海に足をつけたい
ぐるぐるぐるぐる
回っている
洗濯機を眺めていると
私の思いも
ぐるぐるぐるぐる
回り始めて
携帯が鳴っていることなんか
気にならなくなったりしないか
と思っている
少し前の話。
好きなお皿が割れた
少し泣いたその次の日
私の部屋にいた君は躊躇なくそれを捨てた
あーあ
と私は思った
君は
「僕、断捨離得意なんだよね」
って。
それは断捨離なんだろうか
そうなのであれば私は断捨離なんて嫌いだと思った。
私はもう疲れてしまった。
些細なことに
グラグラ振り回される私と
些細なことも
大事にできない君に
私、
割れたお皿とは自分からお別れできないけど
君とは別れた方がいいと思うんだ
君には伝わんないかもしれない
でも大好きだったよ
今も、
ずっと
大好きだけど
私は
君の鳴らす携帯電話を
ぐるぐる回る
洗濯機に入れた
この洗濯が終わる前に
電車に乗りたい
どこか遠くに
行きたい気がする。

2018年11月26日

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