short story series『と、私も前々から考えていた』「たばこ」case03

作・草場あい子

換気扇の音。たばこの匂い。

君はいつもキッチンに行き、換気扇を回して、たばこに火をつける。
朝起きてすぐ。ご飯を食べた後。スマホを見ながら。
気づくと君はたばこを吸っていた。

たばこってそんなに美味しいの。

君は答えた。
「美味しくないよ」

じゃーなんでそんなに吸うの。

「んー、癖かな」

変なの。

「確かに」
君ははにかみながらたばこの灰を皿に落とす。
君にはこだわりがある。

たばこの箱はボックスじゃなくてソフト。

ポケットに入れたとき角が当たるのが嫌らしい。
だから絶対ソフトを買う。

変なこだわり。

一度だけ言ったことがある。

たばこ吸ってみたい。

でも。

「んー、大人になったらね。」

止められちゃった。

20歳になった。
一人暮らしを始めた。
換気扇の音もたばこの匂いもしない部屋。

なんだか物足りない。

コンビニに行った。

君と同じソフトのたばこ。

家に帰って換気扇を回し火をつける。

ほんとだ美味しくない。

でも、大人だからいいよね。

2018年10月31日

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