short story series『と、私も前々から考えていた』マッチ棒 case03

作・草場あい子

僕のポケットに古いマッチ箱が入っている。
おじいちゃんから貰った大事な物。
僕は昔、泣き虫でよくおじいちゃんの所に行っては泣いていた。
おじいちゃんはいつも
「いっぱい泣きなさい。涙は必ず止まるから。」
って言って頭を撫でてくれた。
その手は大きくて、優しかった。
今でも覚えているあの大きい手。
でも、もう居ない。もうあの大きな手も優しい声も。
止まらなかった。おじいちゃんが言っていたことは嘘だと思った。泣いても泣いても涙は止まらなかったから。けど、いつの間にか流れる涙はもう無くなっていた。おじいちゃんが言っていたことは本当だった。
マッチ箱はおじいちゃんがいつも持ち歩いていた物。肌身離さず。けど、おじいちゃんは居なくなる前にそのマッチ箱を僕にくれた。
僕は今そのマッチ箱をおじいちゃんと同じように肌身離さず持っている。
僕はもう泣かない。あの時涙は無くなったから。でも悲しくなった時、そのマッチ箱を握りしめる。おじいちゃんを近くに感じるから。
僕のおじいちゃんは僕の中で生きている。マッチ箱を見るとそれを強く思う。僕はもう泣かない。次は僕がおじいちゃんになって大きな手で頭を撫でる番だから。
そのマッチ箱は僕に勇気をくれるお守りになっている。

2018年12月12日

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