すこしさみしい短歌展2 全首評
6月29日~7月15日にかけて開催した「すこしさみしい短歌展2」の全首評です。今年は合計311首あつまりました。選者は鳥さんの瞼さん(@withoutSSRI)。大賞1首、佳作5首も選んでいただきました。
あらためて、ご応募ありがとうございました。
掲載は応募順になっています。PCで「Ctrl+F」を押し、ペンネームを入力するとすぐにご自分の作品を見つけられると思います。お手数おかけしてすみません。よろしくお願いいたします。
※下記全首をまとめたZINEを制作中です。完成後、改めてお知らせします。
<大賞>
⇒一読して痺れました。イメージひとつひとつの重なりが綺麗です。「海」「死」「夜」というモチーフたちを「ザ・ノース・フェイス」がばっちりまとめていて、綺麗だけれど少しざらついてかっこいい、独自の読み味のある歌になっていると思いました。抽象的な景から、最後で少しだけ主体の姿らしきものが見えそうになって、冬の夜なんだ……とわかるのもいいなと思いました。上の句で海での心中や入水自殺ような雰囲気を感じて個人的に好きでした。やっぱり「ザ・ノース・フェイス」が良くて、最後にスピードのギアがさらに一段上がる心地です。アウトドア/登山メーカーのあたたかなダウンを、冬空の真っ黒な海の元着ている……といった情景がぶわっと浮かびました(実際にそうでも、イメージとしてでもいいなと思います)。夜で海でしかも「死にに行く」が重なっている状況ながら防寒着がここに来ることにも、生きていることのアンビバレントさがあるようで好きです。「フェイス」でばしっと終わることで、主体の、あるいは(居れば)同行者の、あるいはもっと魂の顔が画面に重なって映し出されるようで、本当にかっこいい歌だと思いました。
<佳作>
⇒リズムと温度感に惹かれました。短歌の短さに詩情がうつくしく満ちていて好きです。ロバに乗った経験と履歴書は関係がなさそうなのに、「すこしさみしい」がそこへ入ると関係がありそうな不思議さ。ふんわりした空気の中に履歴書、という取り合わせが引き締まっていて素敵です。でも「すこしさみしい履歴書」だからあんまり書くとこないのかな、なんて考えてしまいます。また、シャープな感じのする馬ではなくロバ、というゆっくりした家畜が選ばれているのも雰囲気に合っていて納得感がありました。全部の言葉が必然として並んでいるようで端正な歌だ……と感じました。
⇒読むほど好きになる歌でした。「朝」という設定が「偽善者」と響きあって不思議な清潔感がでており惹かれました。「偽善者と呼」ぶのが誰かわからないところや、また「さびしがる」のは「卵」というのも面白く、しかしあの白さや冷やされているところを思うとそれも納得できる投影でいいなと思います。「ふたつ」というのも自分だけでなく誰かもう一人いるのか、それとも家族など誰かのためなのか……等広がりがあって素敵です。そう思うと、「さびしがる卵」をもしかしたら誰かの為へも含め「丁寧に焼く」主体ははじめの「偽善者」に繋がってきて、傷つくことを言われてもそうしてしまう/そうせざるを得ない主体の心を思ってしまう歌で好きでした。
⇒詩の中で「あなた」が特別とされることの共感からの鮮やかな歌いぶりが素敵です。それだけでなく「はめ殺し窓」の使い方がビビッドで好きでした。主体の孤独さが連れてくる閉塞感のような。破調→定型の流れも珍しく、ぐぐっと迫ってくるような速度が出ていていいなとおもいました。また、ぴったり定型に終わるかと思いきや「見る夜明け」の後に2音余るのも新鮮で、主体の気持ちの不安定な感じや孤独な感じを受けました。また、「一人」で見るのが「夜明け」という前向きな景ながら、翻って夜をも一人で過ごした、とわかる情報量が巧みだ……!と感じました。
⇒言葉の一つ一つに必然性があって光っているような、すごくいい短歌だと思いました。手にした古本が、謹呈のものなのに(しかも、もしかしたら開かれずに)売り場に出ている……。という、共感性の高い寂しさからいきなり繋がる「梅」に痺れました。梅もピンクのほうではなく白、というのもふさわしく、紙の白さとも響き合って、寂しさを美しく増幅させていて好きです。実際にお庭や公園の梅ともとれるのですが、主体の心の中の風景としてある梅、と思ってもいいなあと思いました。また、「読むとき」なので、この主体は謹呈の紙も見ながら何度もこの本を読んでいて、自分はこの本を大切にしよう、と考えているのかなとも想像しました。
⇒前向きながらぐらつくような寂しさがあって好きです。「光らせるぶんだけ重たく」なったのは自転車のペダルと読みました。並走あるいは二人乗りの顔を合わせない状態で(あるいは一人でかも)誓ったのだと思います。結構重たいことを誓っていると思うのですが場面としては何気ないようなところが好きです。しかし、暗いなかそれなりのスピードで進んでいるわけで、間違えば外れてしまいそうな危うさがさみしさの要素として鮮やかに感じられました。また、「夜道」は「光らせ」たぶん明るくなったのではなく「重たく」なったのであって、進むこと、ひいては生きることの重力を感じました。説明に必要な部分をいい短さで切り取っていて、スピード感と、心の揺らぎをかっこよくすくいとった巧みな歌で好きでした。
<応募作>
1~50首目
⇒ネットの中でも孤独を感じることってありますよね。「タイムライン」の字余りが流れていってしまうページに呼応しているようで、「だけ」の良いさしへ綺麗に繋がるようで良いなと思いました。
⇒いとおしい歌です。「素敵な結婚」「学ラン」と王道で可愛い単語のなかで切なさが光ります。定型で読む時「一生で」「今だけ」の間にすこし隙間が生まれるのが好きでした。
⇒胸→ダム湖の廃墟、とダイナミックになってから句またがりを通り、最後にバシッと風できめてくるところが好きです。落ち込んでもいずれ立ち上がれそうな希望も感じました。
⇒五月雨とおふとんの対比が好きです。「まだあたたかい」は主体のものだけではなく、もしかしたら見送った相手の体温も混ざっているかもしれないと解釈しました。のどかな朝にもさみしさはあるのかという気づきを与えてくれる歌だと感じます。
⇒「世帯主」が殺されやすい特殊な世界は確かに奇妙に寂しいかも。「殺した」ではなく「殺してみた」の呆気なさに「渡してくれた」がユーモラスさに輪をかけていていいなと思いました。
⇒ユニークさに惹かれます。誘われたんだけど→断ったのダイナミクスが楽しいです。「飼ってるイヌ」という言い方も少し距離があり、主体は普段からあまり元気ではない生活をしていて、すこしやるせない気持ちもあるのかなとも勝手に想像しました。
⇒大胆な字余り字足らずとてもいいですね。「は」がポイントで、寂しく思っているような主体と、食べ物は美味しく食べる(ラーメンとかじゃなくチャーハンなのがさらに可愛らしい)素朴な性格の良さみたいな部分がツボでした。
⇒郵便ポストを擬人化してしまうほど待ち侘びている主体がいじらしいです。デジタルでいつでもメッセージできる昨今、文句も言わずにひたむきに待つ姿が可愛らしく感じました。
⇒主体は完全に振り切っているとも、逆にまだ好きかもしれないとも明示しない点がいいなと感じました。「本番」の強い言い回しが歌全体を引き締めていて好きです。後日談も聞きたい歌だと思いました。
⇒1字あけがせつない。アンパンマンの主題歌を足がかりに作られたと解釈しました。主題歌では「そんなのはいやだ」に続きますが、この短歌では「人生」でぽつりと終わっており、こういう定型の使い方もあったか!と気付かされました。
⇒鮮やかな歌で好きです。愛される=怪獣(恐ろしいもの)ではなくなるという示唆にも感じますし、しかし怪獣のままでいる、という主体には力強さ、チャーミングさを感じました。ぶった切るような「が」が良く、「怪獣」を現実にひきよせるような力があると思いました。個人の感情だけでなく、人を愛する際に型に思わずはめてしまったり、はめられてしまったり……といった人間の仕方なさ、寂しさというものについても思いをはせてしまう歌でした。
⇒納得感のある一種でした。「同じ」からの二回の句跨りが片手のみの手袋のちぐはぐさを表しているようでした。また、「死ぬ」より「もう会えない」のほうが寂しいことのように感じて、余韻がとても好きでした。
⇒発想がすごく面白いです。「生きているということ」の対が「滅び」なのも掴み方がユニークで、まるで主体は生き物の一個体でありながら星単位の目線を持っている存在にも見えました。力の抜けたような空気感もすごく魅力的でした。
⇒ぺとりぺとりのオノマトペがすごくいいですね。鴉の足取りのようだし、「ぬばたま」のちょっと湿り気のありそうな音にマッチしていると感じます。希死念慮というシリアスな言葉を使いながらも可愛らしさのバランスがある歌だと思いました。
⇒「姉ちゃん」は進学などで家から離れてしまったのかもしれないし、もっと他の理由かもしれないところがいいと思いました。「私だけ」などではなく「一人だけの私」という言い回しにすることで、より孤独感がぽつんと浮かんできて好きです。
⇒何回も読みたくなる歌だと思います。「右目」「蚯蚓」のみの繰り返しからの「右へ右へと」に良いゾワゾワ感があります。視覚から思考に侵食してしまう感じなど、「うつ」の時の制御できなさを緻密に描いていてすごいなと思いました。
⇒夜通し組み立ていたのでしょうか。主体はなんだか一人な気がします。おそらくパーツも多くて心細かったと思いますし、目的が「遠くを見るためのもの」であるのも広がりがあり、「涙目」と大きなレンズが響き合っているようで好きでした。
⇒含みがあって素敵です。「アイス」の背景が色々ありそうですし、きっぱりした「春は〜」がかっこよく、可愛いだけでないまとまり方が良いなと感じます。アイスに対して現在が春なのか夏なのかそれ以外なのか解釈が色々できそうで楽しいです。
⇒強い日差しの中で孤独を感じる感性が好きです。強い光って怖いですよね。「日傘差す気になれなくて」のリアルな気怠さと、それが遊びではなく通勤というところに現実感があり、そのコントラストも、色と共にいいなと思いました。
⇒実際にそのような星があるかが調べきれなかったのですが、実際にあってもなくても嬉しい幻感が歌全体にあると感じます。最後の「よ」によって語りかけになっているのですが、夜中、星、という広いアイテムにより相手はいないような孤独感があり好きです。
⇒儚い命の蛍と共に主体のひたむきさがじんわり伝わってくるようで魅力的です。暗闇〜の句またがりがよろけるようなリズムで、想いの行方のわからない不安定さのようで好きです。願いがひかえめなのもぐっときました。
⇒「陽気な犬」の形容が面白く、主体とのテンションの差が可愛いです。「振り向」いた先に犬という場面も面白く、また「会釈した」も、実は犬も少し空気を読んだのか?と楽しく想像しました。
⇒綺麗な単語がほそいテグスで結んであるような儚さがいい歌だと思いました。
教えてほしいのが「傷」といややネガティブなものなのも、主体が「あなた」に近づきたい気持ちがにじんでくるようで好きです。優しい緊張感がありました。
⇒可愛い短歌で好きです。自室に呼ぶような人がいない、ということだと読みました。「こんな私」とちょっと下げながらも擬人化してカーテンを少し心配するような視点がとても魅力的で、好きな主体でした。
⇒色→音に変化するとともに、顔(メイクに関するものと解釈しました)→膝に移動するのもユニークで、絵のような楽しさがあります。感情が描かれないことで主体の虚しさや寂しさが読者の中で膨らんでいくのも良いなと感じました。
⇒母音のa.oのリズムの並びが心地よくひらりと読めて好きでした。読点の後から反転しているのも面白いです。読点の前後で主体が同じなのか、もしかしたら違ったりしている線もあるかなと想像しました。
⇒「覚えている」側の主体の言う十年、は本当に十年経っているんだろうなと思いました。捲し立てる口調ながら内容が可愛い。でも主体にとっては大切なセリフだと思うと心がきゅっとします。相手はなんと答えたのだろう。
⇒月はどこまでも着いてきてくれる心地がありますが、最果てまで来てしまったのでしょうか。「大きな」月がいなくなって辺りは暗いのかもしれません。「来たようで」にまだ状況を信じきっていない揺れがあるのが好きでした。
⇒別の誰かの〜という言い回しが一つの気づきとして好きです。タコパなので、1対1ではなく複数の関係性で、その中で何かに気がついてしまったのかもしれません。切ないながらたこ焼きパーティーの軽快さの取り合わせも素敵でした。
⇒惹かれる一首でした。突き刺せないであいまいな跡がつくあの感じと気持ち。相手は来なかったのかもしれないし、主体や相手がどんな人物なのか気になりました。「ぎゅっと」や「日暮れ」が気持ちに自然と重なりますし、重すぎないながらさみしさ切なさが心に刺さってきました。
⇒自分のための花を自分で用意できる、ということは自立している一方、自分のためだけに花を犠牲にしているという後ろめたさと読みました。「しあわせ」と平仮名なので主体個人のための幸せの定義を探しているようで、奥行きのある素敵な歌でした。
⇒大胆な破調がいいなと思いました。夜の心の不安定さのようで、捨て鉢な願望をリズムでも表しているのだと感じました。「飛び込んでみたい」も魅力的。「チョコ味」の口内の温度と、「道路の冷たさ」の対比が好きです。
⇒結婚による改姓と読みました。「君だ」と終わることで主体から「ヤマちゃん」への思いが滲むようです。セリフにも臨場感があり、何より「ヤマちゃん」という親しみやすく中性的な名前なのも好きでした。良い体温のある歌だと感じました。
⇒やわらかい上の句からの「酒瓶」に驚きました。さらに、大人だけが飲めるお酒に対して「抱き嗚咽」という少し子供にかえったようなことをするコントラストにも驚きました。しかも「ほどではないが」という冷静さ。主体のアンビバレントさが全体に配置してあるのが可愛らしく、面白い一首でした。
⇒砂の城をはさんで風が吹き合っている景が面白いです。波と同じく風も絶え間なく繰り返すものだと気づきがありました。「砂上の城」の言い回しが、たんに子供の砂遊びから大きくはみ出して、なにか人間の虚栄をも表しているような迫力がありました。
⇒展開が面白く、ついすぐに何度も読みました。主体の脳内に引き込まれていくような心地がり好きでした。しっかり音数が定型の中で促音や長音がアクセントになっていて読んでいて気持ちがよく、「メトロノームも」のいいさしの終わり方も繰り返すメトロノームの動きのようで楽しく読めました。振り返ると寂しさに足を取られてしまいそうな危うさが好きです。
⇒はじめのk音とリフレインが気持ちよく、童歌のような空気感があります。子どもにしか見えない猫バスをずっと見たことがない主体は、子供のころから大人びた(そうせざるをえない)子供だった、とも解釈できると思いました。ノスタルジックとともに寂しさがよみがえってくるような心地です。
⇒幻想的でふんわりせつなさ淋しさが薫ってくるようで好きな歌でした。「去年より」の謎めきが細やかで、もしかしたら主体と君は離れ離れになってしまった関係なのかも……と読みました。「夕間暮れ」も「まぐれ」の感触を連れて来て好きです。「向日葵畑」のノスタルジックさや花の甘すぎない感じがよく、「立ち止まりたり」の抑え方とマッチしていると思いました。時期的に蝉もいそうなのですが、なんとなく静寂を感じる歌でもありました。
⇒「消えたい」の落書きが、主体の口の中にも口内炎としてあるような流れがきれいです。「すべり台」というひとりでに下降してしまうところと、口内炎の防ぎにくさ(気づいたらできている)感じが「消えたい」の発露と連関していると感じます。
⇒口ぶりが小さな子供のようで可愛らしいながら煙のように寂しさを感じました。「羊かん」の半分ひらがな表記もいじらしく、泣かずに我慢していた健気さが引き立ちます。備蓄食にもなりフォーマルでもあり真っ暗なビジュアルももつ羊羹というアイテムが絶妙です。
⇒「言う」でなく「呟く」にリアリティがあって好きです。「仕事果たした」でも不思議と達成感がある感じがしないのが可愛く、良い誇張だなと思います。スーパーなどではなくコンビニなのも孤独感があり共感しました。
⇒読み進めるとともに風景が明かされていく流れがまさに「幻のよう」でいいなと思います。少し経てば夜になってしまう夕日や数日内には終わるお祭りのように「場所」もいずれなくなってしまう色濃い予感が好きです。
⇒リズムが楽しく読めるところが好きです。でもぽっかりしたさみしさ。UNOも日記帳も明確な終わりはあるけれど、人生ゲームは「つづき」がある。楽しいリズムとモチーフの中になんとも言えない切なさがあって良いなあと思いました。途中の空白も孤独感、交わらなさが視覚的にあっていいなと思いました。
⇒「かなあ」で大きくはみ出すところが好きです。さみしさが分かるからこそ他人のさみしさにも気が回る……というところを、否定も肯定もせずに見守る視線のような歌になっていて好きです。また主体が「子」でないのもよく、「子」に言わせてしまった……、という主体の眼差しもしんわりとしみいるようでいいなと思いました。
⇒「吾子」はまだまだ小さいのでしょうか。「いらないいらない」や「手間暇」「手料理」のリズムが手遊び歌のようであっていると感じます。また、「手」の連続から「一蹴」と足になり、「吾子」がこの一首の中で全身でだだをこねているようで、寂しいながら可愛らしさも感じました。
⇒会話のようなつくりで楽しく読みました。実家に帰った時でしょうか。統廃合、というところに以前の名前が無くなるだけでなく、過疎など、ふんわりしたさみしさが漂います。小学校もバスも主体が使っていたのかも……とゆっくり思い当たりました。
⇒特別感と凡庸さみたいなバランスが好きでした。祝日でも平日でもないバランス。買ってないのに、ではなく売ってないのに、なところにフックがあって、主体の個性が出てきて良いなと思いました(連作でも読んでみたい)。ひとつの部屋で、の言い方にも謎があり一首の独自な雰囲気がとても好きでした。
⇒ナイーブさをナイーブなまま掬い取っているような歌でいいなと思いました。「なんとなく」なので、実際に照らされているかどうかというより、気持ちの部分なのかと思います。「足」なので夜、眠れずに(肉体も精神も)さまよっているのかなと思いました。
⇒炭酸の泡の「数」に注目しているのが個性的で面白いです。儚い泡の消え方を「空気にさらせば」と表現するのも面白く、主体が人魚のような存在にも思えてきて拡がりがある歌だと思いました。
⇒比喩がとても面白く、全体として空気の粒子がふんわりしているようなところが好きです。さびしい、ではなく「さびしげな」「似ている」という断定から遠い把握が「灯った」の暖かみと合っていて、一首としての満たされ方がとても素敵だと感じました。
51~100首目
⇒懇意にしていた人の部屋と解釈しました。「すべて」というので「我」が過ごした時間は長かったのかもしれません。そんな場所に対し「今頃は」と別離から時間が経ち、また部屋の持ち主の生活に思いを馳せるような距離感も好きでした。
⇒「星に手が届く」ようなことがポジティブに描かれない点がユニークで引き込まれました。「掴んだら」でなく「日」なのが本当に起こってしまう(しまった)ことのようで、美しい取り返しのつかなさが好きです。
⇒繰り返し読む面白さがあります。「ほこり」が払われていない状態では椅子だと言えないのかも……放置されていた椅子を撫でるところに主体の慈しみが出ているようで滋味深い印象のある歌でした。
⇒ひとつひとつの単語の強さやおかれ方にとても魅力を感じます。朔風=北風のことで、冷たく乾いた風と湯気との対比がいいなと思います。北風、よりも音がさらさらして力強そう。「工場群」と「心臓」の対比があるのも鮮やかで、ドライな世界観のなかにかっこよさがあって素敵です。
⇒充満するあかるさ、まぶしさが最後の「だったこと」で寂しさに反転するのが巧みだなあと思いました。暮らしの内容や背景が廃されていることでかえって想像が広がる余地があり、引き算のうつくしい歌だと感じました。
⇒ピーカン=快晴ととりました。ちりばめられたカタカナが快活な景にあっていて、「ラーメン」ピーカン」まで擬音のようです。「笑う」からの「孤独」の落差、「マシマシ」の茶目っ気が好きです。主体は一人を楽しんでいそうだし快活だけれど、くっきりと孤独は意識しているんだなと思わせられ好きでした。
⇒「種」から植木鉢を連想したのですが、「立つ」が凛とした印象を持たせていて磨き抜かれた食器のようにも感じられます。「ぎんいろ」や口調も一層イメージを引き立てます。そんな「鉢」も「くれる」のを待つ受動的な存在であるというところ、「でしょう」と不確かな事象を願っているようにも見える部分にふくよかなさみしさを感じました。
⇒「何もかもが」にきて実際に音が「ひとつ少ない」のが巧みだなあと思いました。帰省が「突然」となるとやむをえない事情があったのか……と思うと、主体は心が落ち着かない中さみしさに直面し、だからこその「何もかもが」というくくりなのかなあと思います。「足りない」でなく「少ない」なのが重すぎずに好きです。
⇒「青い飴」のアイテム選びが面白く、「朝陽」の赤い太陽との取り合わせがきれいです。「なんとなく」「どうやら」と言っている通り、主体はまだぼんやり夜の気持ちなのかもしれません。夜明けながらもさみしい歌ですごいと思いました。
⇒「夕闇」「憂鬱」の二つの音が似ていていい配置だなあと思いました。夕闇なので「今日も」は毎日なんだろうと受け取りました。もともと「出ない答え」をさらに隠される、という途方もなさ、やるせなさがじっとり迫ります。
⇒がっつり字足らずで体言止めにしているのが、相手に啖呵をきっているようでかっこいいなと思いました。読点もさらにそうした迫力に寄与していると感じます。細かいことは言わず「タイプ」でまとめる豪快さも好きでした。
⇒真ん中に出てくる字余りの「黒柴ちゃん」が良いですね。「こみあげた」と「きみの目」がリンクしていて、黒柴ちゃんもその仲間という印象があります。死の中で「窓のひかり」という白っぽいものがいっそうまばゆく、大切な思い出らしさがあっていい歌だと思いました。
⇒割箸、というアイテムそのものとそれをとっておく所に一人暮らしっぽさがあり、主体の人格がぼんやり見えてきそうです。「そういや」という何気なくだが気にしているところに、ゆっくりとさみしさも一緒に「溜まる」のかなと思いをはせました。
⇒面白い視点だなと思いました。この視点に至るまでの主体の切実さ、張り詰め度合いが裏にあるということだと感じましたし、「認めてしまう」で終わっているのも不服な気持ちがはっきりでていると取りました。「映画」というチョイスのバランス感がとても好きです。
⇒「眠りへの儀式のように」のささやかなロマンチックさが好きです。また、「君」がくれたものがぬいぐるみや本ではなく「石」であるチョイスがすごくいいなと思いました。温まるほど握るのではなく「指さき」で触れているだけという慎ましさも合っていて一首として好きな空気感がありました。
⇒所謂貝殻繋ぎのことでしょうか。その動作をまるで折り紙のように描写するところが魅力的です。まるで「ひとつになれない」ことをずっと前から知っているようで、ほんのり温かいさみしさを感じます。「それでも」にも時間の経過があり切ない。
⇒舞台設定のユニークさに驚きました。でも物語の世界観かと思いきや「中古の」を被せることで、一気に現実感、世帯じみた感じがでてきます。さりげない単語なのに鮮やか。しかも「まんなか」と限定することでさらに孤独感が際立ちます。なんとなくディストピアのような、シュールな読み味が魅力的です。こういう寂しさの表現もあったかと思わせられました。
⇒「やはり」「なのだな」の口調がユニークです。やはり、ということなのでこの主体自身は同じ経験を何度もして、でも毎回こうしてさみしさを再発見しているのかなと思いました。後半で入り込んでくるのが夜だとわかる構成が好きです。
⇒まっすぐさが好きです。真ん中の「大丈夫」意外のすべてがひらがなにひらかれているのもとても効いていて、なんだか主体の心が真っ白になっているような印象を受けました。また、「大丈夫」だけをひたむきに信じて、あるいは裏切られてきたような主体のいじらしさをも感じて、柔らかいのにぎゅっとする歌でした。
⇒大胆な問いかけにどきっとします。「ヘッドホンへと〜」で(横になって音楽をきいている?)、目と耳がつながっていくような不思議な感覚があり、「音楽と人」との取り合わせとバランスが取れていていいなと思いました。
⇒衝撃の下の句に驚きました。「身の丈」「背負い」とあるので、主体の身体がぬるんと流れてしまうようなイメージも感じました。「幸せ」が暮らしや抽象的なことなのか実は実際食べ物なのかなども想像を掻き立てられ、主体の孤独さや思い切りの良さに惹かれました。
⇒「空想の」とはじめに明かされていても、付与アイテムのモンスター感に驚かされます。でも不思議と悪意でなくむしろ善意にも見えるのは「触った」からかもしれません。主体は幼いのかもしれないし追憶の歌なのかもしれない。非現実感から現実(実際にその兄はいない=一人っ子?)が奥に香ってくるような心地もあり、味わい深い歌で好きでした。
⇒「やさしさ」を「技術」とするのはドライにもきこえつつ忍耐強さや信念も感じます。雨という人単位でどうにもできない現象が合っていると思いました。またその匂いというわずかなものを「さとる」主体もまたやさしいのだろうと感じました。寂しさとドライさが両立していて好きです。
⇒冷たい白と、温かい白の重なりが綺麗です。「似合う」というポジティブな語と「俯いて」というややネガティブな感じのする合わせ方が鮮やかで、俯いているも重たくなく、どこか優しい色があるところが素敵に感じました。
⇒下の句の軟性の迫力が好きです。「ざあざあ」な心境の中でそんなふうに思わせられる「あなた」がどんな人なのかも、「託された」の背景も気になりますし、知らなくてもいいような不思議な説得力もある気がします。もしかしたらシャツも「あなた」のものじゃ無いのかもなんて思いました。寂しさとともになんだか気迫があってかっこいい歌でした。
⇒「ないんだ/もし」の句またがりに、滔々と語っているような加速を感じます。一度「好き」を通って「言っても」の仮定になるところや、おそらく相手と「天使」の重ね合わせ方が迂回しているところが空気感に合っていていいなと思いました。手触りが好きです。
⇒静かな情景がゆっくり浮かんでくるようで素敵です。「肩越し」なのでかなり物理的に近い所にいると解釈したのですが、しかし対面ではないというさみしさ。先に起きた孤独感を感じつつも遠慮深い主体に心を掴まれした。聞いているではなく「聞いてる」の短さも所在なさがあるようで良いなと思いました。
⇒方言に対して「使って」「埃」「眺め」と物体のように扱うのが面白いです。それにより、まるで久しぶりの実家で自室の掃除をしているみたいです。自分の中にあったものが離れてゆくさみしさを巧みに描いているなぁと思いました。
⇒切ない……非情さと文体が合っていると思いました。巣は落下したかと思うのですが、「巣跡」からカメラが下を向かずに上を向く、その「青すぎる空」がバシッと決まっていて良いなと思いました。
⇒生きているうちから骨の話をする孤独感。「馬の骨」の慣用句的意味もふまえると、死後になっていま「褒め」られているのかなと読みました。「褒め」であっても死んでから好き勝手させないという意志が「作ろう」に出ているように感じ、前向きなようながらせつない空気感があって好きでした。
⇒この「宿題」が実際に出た宿題なのか比喩なのかは判別できないところ、宿題という語により心の不安定な時期を連想させ、いっそう孤独感を高めていると思いました。一般的とされそうなことが「できませんでした」という淡々とした語り口も合っていてとても好きです。「今日まで」というのも、新鮮な寂しさを改めて主体は感じているのかもしれません。
⇒絵本などでも見てみたい歌だと思いました。泣き腫らしていたと明言されているのは幽霊だけれど、主体も泣いていたのか、それともそばで見ていたのか気になります。幽霊が敬語なのも温もりがあり、いい寂しさだと感じました。
⇒可愛いです。主体は「愛しい」気持ち満点なのに一方通行な様子が、ひとつひとつキュートな言葉選びで描かれているのが好きです。可愛いながらも、別の種族、個体である些細なすれ違いを掴んでいていいなと思いました。
⇒韻律が好きです。特に「ランドセルが」の字余りは内容と同じくいつまでも見送っているような体感があります。また、「泣かない」でばしっといきなり切れるのも、決意のようでもあり、見送り終わって泣いてしまうようなぎりぎりさがあり心にきました。
⇒「波」は時間の流れの比喩でしょうか。「規則正しい」という言い回しに非情さがあるようで、また時にはいろんなものを飲み込んでしまいそうな怖さも感じます。「これからの」にも、せっかくいまから一緒にいられるのに……といった思いの強さがあるように思いました。荒れた海ではないけれど、だからこそ、喪失の予感がよぎるような、こちらにもさみしさが迫ってくるような歌でした。
⇒結論が最後の「欠伸」まで伸ばされる語順がまさに欠伸とリンクしているようで読んでいて面白い歌です。人間の主体だと思いますが、欠伸により実際猫のイメージも重なります。痛切な感じはしないものの結局「来世」でないと望みは叶わない寂しさがいいなと思いました。
⇒着眼点が面白いです。「しまいたくなるほど」で実際揃えてはいないと考えると主体は一人暮らしなのかもしれません。食器の一つ一つまで気になってしまう精神状態のなかで、つややかに丸く欠けのなさそうな「スプーン」に意識がいく、というところに説得力を感じました。
⇒室内で暮らしている、人間と部屋が一緒の犬さんだと解釈しました。生活圏が溶け合っている中でお皿が犬の象徴になっていたのだと思います。ここで「溜まりつづける」がよくて、光も実際そうかもしれないけれど、つい見てしまう主体の視線のことを言っているようで、さみしさが沁みてきました。
⇒さみしいながらも、不思議と主体が力強く惹きつけられました。アンニュイな情景ですが、主体のスプーンが「雨垂れ石を穿つ」的なパワーを帯びていて、待ち合わせが成就してもしなくても主体は背筋を伸ばして歩いていけそうな安心感がありました。
⇒端正な歌だと思いました。「金属の軋み」はベッドの音と解釈しました。自宅なのか、出先のホテルなのか、寝台特急などか……と判別できないことで寂しさが偏在している心地があって好きです。壁の薄さによる心細さと安心感両方あっていいなと思いました。
⇒思わず少し笑いました。でも抜き差しならない問題ですよね。「パーキング」がすごく良くて、ロマンチックで抽象的になりそうな上の句を現実感で引き締めています。でも実際ロマンチックさにお金はかかるものだし、この瞬間も借り物である、ということを思い起こし、面白いながらもシリアスさが少しだけあっていい寂しさだなあと思いました。
⇒素直な口調と、素朴な気づきへの納得感が好きです。「なんかちょっとさみしい」の意味が詰まりすぎない感じも合っていると思いました。句またがりのリズムや「し」の繰り返しの音のなめらかさが良く、繰り返し読みたくなる良い歌でした。
⇒不思議なリズムが内容にあっていて心地いいです。主体がまるで精霊や神秘的な旅人のような雰囲気も纏っているような語り口もすごくいいなと思いました。「風で」も手を洗うことも現実的なのに、言い方や語順で叙情的になるのがすごいです。無重力感があり魅力的な歌でした。
⇒痛切で、しかしとても共感性の高い歌ではないかと思います。「バカンス」の言い回しの華やかさと内容のコントラストがさらに切ない。旅行先で見ている「夕暮れ」も、別の場所から「きみ」が見ているかもなんて想像しました。
⇒鍋から心に繋がる意外性がいいなと思いました。すくい取り~から清潔感のある読み味で好きです。「すくい」の漢字が開かれていると「救い」もあるのかと考えてしまったり……。「なりたかった」の過去形が切ない一方、「心」で終わることで主体の心以外は透明になった感じもあって、読むたびに印象が少し変わってきそうな素敵な歌でした。
⇒ふしぎな山びこのような下の句の響き方がなんとも綺麗です。星が落とされる、というと星を死なせているようですがそれは流れ星でもあり、「生きる」ことについて話しながらも人智を超えたスケールであるところが良いなと思いました。
⇒おかしみがありながら切なさがぎゅっときます。右の方ではなく本当に右手というユーモア。「左手」だと指輪をする方の手だから見てくれないのかもと思いました……。また、全体を「」で囲むことで、このセリフの外にはどんな物語があるんだろうと気持ちを掻き立てられました。連作でも読みたくなります。
⇒素直な読みぶりが内容にあっていて胸に迫ります。「嫌い」でなく「うざい」なので先生や親子と想定しました。「この口」という言い方からも今まさに近くで愛おしく見ているのだと思います。「だろうか」と断定せずに冷静な口調ながらも揺れている気持ち、複雑でも成長を喜んでゆけそうな強さを感じました。
⇒北東向き、は避けられていそうな方角ですがあえてそうしているところに意志を感じます。もしかすると、見えない対岸=ふるさとのほうなのかな、と考えました。「対岸があるけれど」という言い回しによって無さ、不在(遺骨の元の方の)が浮かび上がってくるようでいいなと思いました。
⇒切ないです。わがまま〜のリフレインが効いていて、実際に「わがまま」と言われたような経験を、読者も一緒に体験しているような気持ちになります。ひらがなの連続から「母からの~」以降漢字になってスピードが出るのも好きです。「手放」せばそのままなくなりそうな不安定さもより切なさを引き立てていると思いました。
100~150首目
⇒ノスタルジアが可愛らしく歌われていいなと思いました。「わたしもね」「してたよ」の口ぶりが童心にかえっているような空気感があり、また、「地面の肉球」=足跡など、随所に時間の経過を感じさせるところが好きです。
⇒人魚の切ない笑みが浮かんでくるような綺麗な歌です。人魚である正体のことなのか、泡になってしまうような仕組みなのかもっと他のことなのか、「微笑んだ」の過去形がどのくらい前なのか……など何通りも考えられて好きです。ファンタジックながらリアルな手触りもあるのが素敵で、イラスト付きなどでも見てみたいと思いました。
⇒状況がなかなか過酷だと思うのですが、「不治」「脅され」「認めたくない」と強い言葉が使われていて、その中でも背筋を伸ばして過ごしているようなすごみが感じられます。「今」が二回出てくるのも主体がアイデンティティを確認しているように感じました。寂しさだけでなく、ネガティブもポジティブも併せ飲んだ、パワーあるすごい一首だと思いました。
⇒花鳥画のような繊細な美しさがあり、「しかばね」を詠んでいるのに少し明るい感じがします。カ行の音(特に「か」)が多いことや序盤の「の」続きが心地よく、流れるように読めるのも「かろき」イメージに合っていていいなと思いました。
⇒「白蛾」の意外性が好きです。不気味な印象はあるかもしれないけれど嫌な感じはしなくて、夜光に寄ってくる生き物、とも思うと主体と孤独を共有しているようです。白蛾が詩になって、またその前後に輪廻が存在していそうな奥行も感じます。「詩」と「うまく返事」のとりあわせの色合いも好きです。温度が低いまま不思議な心地よさを有しているような、この中にずっといられそうな気持になる歌でした。
⇒「焼きプリン」というチョイスがよく、自分の暮らしに帰ってゆく生活感や、「最後かな」と思いつつ少し決心しているような硬さがあってすごいと思いました。「帰り道」の前がどうだったのか想像できていい短歌だと感じました。
⇒幻想的な並びとがっつり破調の響きが好きです。「月の裏側」→生きているうちに直接の見ることが出来なさそうなもの、「三葉虫」→生きた状態をもう見られないもの、「夢」→見えるけど実態がない という、不思議な繋がり方の単語が魅力的で、「ここ」は月の裏よりももっと不思議な場所かもしれないと思いました。
⇒この喪失の痛みは精神的な痛みだと思うのですが、本当に身体も痛んでいるような真剣さがあると感じます。錠剤への緻密な視線も尋常じゃない心の状態が現れているようで、また視線が小さく収束してゆくのも心の状態にリンクしているようでした。
⇒「天気雨」が、母親でもあり娘でもある「母」の立場を表すのに冴えたモチーフと感じます。「わらう」も本当に心から笑っているかわからない感じ。真ん中での句割れも主体の不安な気持ちを表しているようで好きでした。祖母がわたしについて何と言ったかわからない点もすごく抑制がとれていて端正な歌だと感じます。
⇒大胆ながらも、奔放というよりすごく切実に思えます。濃い内容ですが平仮名にひらくバランスがよく自然に読めました。すごい仮定により現実さえ歪むようなパワーに惹かれます。「られた」と過去形なところに寂しさがあって好きです。
⇒舞台は海でしょうか。人によっては粗大ごみと思うような流木にやさしい眼差しを向け、しかも「抱き上げる」主体に柔らかい孤独を感じます。もしかすると主体もひとりで旅をしてきたような人物なのかもと思いました。
⇒架空の思い出が首をもたげるようなリアリティがあります。「会った日」と過去形なので主体はもう誕生日後なのかもなんだか気になります。少しの気まずさみたいなものが魅力的に感じました。
⇒「思い知る」という言葉に、夏が来るたび気がつくことでありながらも新鮮に苦しむような気持ちが出ています。「ポップアップ」(通知?ストア?)まではあまり意識的に考えていないかもと思い、主体の切なさが全面に出ているのが素敵です。
⇒確かにそうなのかも……と思わされる視点が面白いです。人物は出てこないけれどここに目線がいく主体に思いをはせてしまう。また明るいではなく「まぶしい」の方がパワーを使いそうでぴったりな言葉選びだと思いました。燃えている星と赤くても「冷た」いコントラストがとても綺麗です。
⇒袖振り合うも〜からのもじりと受け取りました。運命……と言い切るのではないちょっと弱腰な感じが可愛らしいです。なくも〜の繰り返しと手を振る動きもなんとなくリンクしたイメージが浮かんでいいなと思いました。
⇒「鼓動を重ねて」など緊張感があっていいなと思いました。春の一般的なイメージから少しだけずれている感じが好きです。「来春が欲しくて」という抽象的ながら綺麗なはじまりになっているのが好きです。
⇒「死にてえ」がポイントになっていてすごいです。「死にたい」よりも冗談っぽい明るさがあり、そのままふんわり伸びていきそうな雰囲気です。一方で「生きてこられた」の言い方に主体の今までの苦しさも込められているような。「陽だまり」という取り合わせに、主体のいい人っぽさがあり、寂しさをきれいに縁取っているいい結句だなあと思いました。
⇒漂うような読み心地が好きな歌です。優しい言葉しか並んでいないのに、読んでいるうちになんとなく悲しさ、不穏さがうっすらと滲んでくるようです。全部がひらがななのも優しくも不穏なまじないのよう。読む体験としても面白い歌です。しかし内容としてはひかりがあるから「ひからないほう」=影?があるという寂しさがあり、じっくり身体にしみこんでしまうような力を感じました。
⇒アイテム選びが面白く、展開も意外性があっていいなと思いました。他の鍵なら君もいる方に行けるのかな、など想像が膨らみます。途中からリズムがはみ出すのも不思議さが増して好きです。
⇒すごく面白い歌で好きです。上、の時には飛来物などなかったんだろうなと解釈したのですが、「下」とくるともう水さえ無いような世界に船だけがあるような不思議さが出てきました。「船」という生活に近すぎないモチーフもよく、シュールながらふんわりと孤独な絵を見ているような気持ちになるとても好きな歌でした。
⇒主体の色が立っていていいなと思いました。我慢強くひたむきに見える主体にぎゅっとなります。「ちょっとだけ独りぼっち」という少し幼なげな言葉選びがマッチしていて始まりから世界観を描いていて好きでした。アクセサリーや刃物ではなく、儚い香りを選んでいて、可憐で少しだけ危うい主体を思い浮かべました。
⇒時の経過による切なさがきゅっと濃縮されています。「ここ」は「もう会えない人」たちとも来ていた場所なのだと思います。いずれ「ばかり」の範囲がもっと広く、曲も無くなって行ってしまうかも……と予感させるさみしさもあり好きでした。
⇒お庭の池を埋め立てた、と読みました。孫の可愛さにただはしゃぐよりも、行動を起こしているところがとても好きです。穴が出来たのではなく埋まったのに寂しい感じがあって好きです。鯉ではなく春、というところに、孫は女の子として産まれてきたのかな?など想像も膨らんでゆく歌でした。
⇒イメージの流転が面白いです。象はスチール材質の表面にいる……。37°、というとサバンナよりも人間の微熱が近いかもしれません。人工物も自然も人間も同じ直線の上に並べられたようで面白い歌でした。
⇒鮮やかな歌です。カタカナ表記やくるくる回転してゆくような韻律がなんとも魅力的です。ピーマンという鮮やかで苦い野菜とセリフの組み合わせが魔法の呪文のようにも感じられて、でも現実的な寂しさで、好きな世界観でした。
⇒空間に「乗る」というのは車の助手席と読みました。音で満たすという発想が豊かで好きです。「中島みゆき」さんの人選が絶妙で、恨みの曲なのか、頑張れの曲か、それとも他か、「いっぱい」だから実は全部か……!?という余地があり、なんて固有名詞のうまい歌なんだ……!と思いました。
⇒ハードボイルドな世界観に文体の硬さがよく合っていていいなと思います。なんだか昔の映画のような。七月なので、その日も空は「深き青」だったのだ、と納得感があります。コントラストが綺麗。最後「よ」もばっちり決まっていていいなと思いました。
⇒映画のワンシーンのようなイメージが湧きました。今の「宙を舞う」は観客ではなく、紛れもなく自分のためというのが美しいです。「喜び胸に」で終わることでどこまでもピエロが行けそうな、煌びやかな孤独を感じました。
⇒把握の仕方が面白い歌でいいなと思いました。主体の手料理ではなく妹の、というところに、主体と母との関係の余白があって好きです。「再度別れる」にさっぱりとしたさみしさがあっていいなあと思いました。
⇒2でも6でもなく4……となると、もしかしたら天使の羽ではなく虫の羽なのかも!?と思いました。少なくとも2よりももっと想像を超えるような状態なので驚くべきところをこんなに何気ない「顔」をされるのは寂しいですね。主体何になったんだろう……。浮遊感のある寂しさが好きです。
⇒シリアスな場面なのにどこか気が抜けたユーモアもあるようで、死に関するわけわからなさ、呆気なさをきれいに掴んでいるような歌だと思いました。火葬夫も「じいちゃん」のような年齢なのかもしれません。「わからん」のせりふの崩れ方も何げなさがありかえって気持ちを引き立てていると感じます。しかし直接的な感情の描写が排されていることで味わい深さが増していて好きです。
⇒句またがりの二度の引っ掛かりがボタンのかけ違えのようで好きです。どこか冷静ながら心に傷を追っているような感じがいいなと思いました。「あったと」という終わり方にも余韻があり、すこし不安定な感じが残るのが好きです。
⇒綺麗な定型からの最後の二音の足りなさが不思議な寂しさ、不安さをつくりだしているように感じました。この足りない二音で、いつまでもいつまでも待ってくれそうな、異世界に繋がりそうなさみしさがあって好きです。
⇒落とし主、ひいては右イヤホンとはぐれてしまったのですね。自分は音を拾っているのに、落とし主は拾いにこないさみしさ。「秋の枯れ葉」の音の細やかさがよく、季節としてもあっていて好きです。もしかしたら秋になる前から待っているのかも……、という切なさもとてもいいなと思いました。
⇒造花ではなく「布の花」と言い放っているのが面白いです。メンタルヘルスは社会という集合体からできていて、病院も、造花というプロダクト自体もそうかもしれません。鋭い態度が冴えている歌だと感じます。
⇒「すくえない」は掬えないと救えないにかかっているのかなと思いました。大幅な句またがりも、ゼリーのくにゃんとした感じにあっていてすごいです。「にございます」とちょっとふざけた感じがかえって寂しさを際立たせているようにも感じました。
⇒「バーベ」はBBQととりました。「見る時間」なのでメンバー皆んなが火を見ているのかもしれません。「一人歩き見ててくれる」も同様、一人でいながらも一人じゃなさが表現されていると感じ、面白い景も合わさっていいなと思いました。
⇒新鮮な寂しさ切なさがあります。素直に雨宿りができない主体は、頑張りすぎたり自分のことをうまく評価できないのかな……など思わず妄想してしまいました。こちらも少し胸が苦しくなるような。「今日は止まない雨だけ冷たい」の限定によりいつもは雨以外も……と想像できますし、でも今日も冷たい雨に濡れているわけで、この孤独をなんとかしてあげたい……!となんだか感情移入してしまいました。
⇒書類の山の「跡地」まで言うオリジナリティがすごく光っていると思いました。先輩への主体の気持ちが二重映しになった感覚と、「何を置いても」の健気さ、先輩がいない時に置いていそうな密かな感じが良いなと思いました。ひらがなにひらいた「ちょっとさみしい」の軽快さもバランス感が素敵で、「部長」などではなく「先輩」にあっていて好きです。何より仕事をさみしさに着地させていてすごいです。
⇒「どんな声だったの」で急に現代に引き戻される速度があり、良いなと思いました。たしかに、姿や様子を残して保存することはできても、声を保存するのはなかなか難しいなという気付きがあります。いつかの昔に想いを馳せる主体の想像のきれいさを読み手にも少し分けてもらえているような心地があります。過去に思いをはせる美しさを思い出しました。
⇒「ベニマル」はローカルスーパーですね。可愛い場面ですが感情は排されており、「過ぎゆく」により「幼子」が「我」過去、未来、可能性、不可能性すべてに繋がってゆくような余白が生まれて好きでした。
⇒衝撃的な展開にどっきりしました。主体の無邪気ながら心底不思議そうな感じ。感情は描かれていませんが、読んでいくうち少しずつ主体が悲しんでいるかもと思えてきて(投影かも)、不思議な体験でした。「ねぇなんで死んだの?」が切ないです。
⇒ちょっと不穏な感じがしてとても好きです。「食品サンプル」のあの色とりどりにテカテカした感じと「母の背」の取り合わせが、全然見たことがないのにすごく魅力的です。不思議な磁力の場所から出られなくなったようなさみしさがあるというか……。幻想世界というか、虚構っぽさに寺山修司的なかっこよさもあるのかもと思いました。「嘘」もどんな重さのものだったのかなど謎も多く何回も読んじゃう魔力がありました。
⇒亡くなったであろう大切相手について二人称を使わずに表しているのが巧みです。読み手にもゆっくりとその想いがしみこんでくるようで素敵です。過去の相手の思い出だけでなく死後の世界、相手の現在まで考えることは力強さとともに切なさがあります。ずっと在り続けるさみしさを少し色づけているような美しい歌でした。
⇒変わっていく街に寂しさを覚える、というあるあるながら、なかなか描かれなさそうな景がいいなと思いました。「僕を追い出す」までいっているのがいよいよな感じ。「店たち」とここに詳細の描写がないのも「多数派」ぽい!と感じました。
⇒折り畳み傘は主体自身のためだけに使うのでしょう。「いいよ」と少し突き放した言い方に、主体の今までのさみしさと、それを自分で何とかしてきた頑張りが滲んでいるようです。「買った」ではなく「買う」に余白があり好きです。
⇒灯台を思わせるような、王道とも言える景観に対しての「透明な影」「海のうへ」という表現が繊細で、とても魅力的に感じました。「透明な影」はなんだか無力な大きい怪物みたいで、不思議な温度のさみしさにぐっときました。人が登場しない建物の擬人化のみでこんなに豊かにさみしさを表現していて感動しました。
⇒孤独な時に電話をかけていたのか、それとも電話をするとかえって孤独に感じてしまうのか。電話という絶妙な距離感の作る余白がいいなと思いました。「かけてみたいよ」も切実さを際立たせていて胸にくる歌でした。
⇒「石鹸の献身」という言葉に切なさとシャープさがあり好きです。汚れは石鹸に消されますが、石鹸も自らを消しているという気づきがあります。「消えないように」に確かな願いもあるように感じました。空白の間に、主体の孤独や過去が圧縮されているようにも感じました。字足らずの「ぼくは」も儚く、「生きた」の後も気になってしまう、引き込まれる主体でした。
⇒「ジョナサン猫」はファミレスの配膳ロボットとして読みました。無機物にもちょっと気が立ってしまう状況、主体はひとりきりなのかもしれません。可愛い流れからの展開や、「ん」のリズム、「薄目で」などちょっとした軽やかさのバランスが好きです。
150~200首目
⇒ピアスを開けることが自傷行為のように使われることもありますが、その少し手前で揺れている感じもあります。「確かめるため」というところに、必死さと、しかし捨て鉢にはならなさそうな真っ直ぐさも見えてくるように思いました。
⇒「蛍の光」的な音楽かもしれないし、「閉店のように」なのでもっと静かな音楽かもしれません。滅びとはいかないまでも物悲しい気持ちが主体にはずっとある。逃げられないさみしさを美しく歌っていて好きです。
⇒ちょっと笑いました。可愛い……!母音iが続くところから「ぎゅっと」になる緩急がとても好きです。「おにぎりに」という平和さと、自立しながらも、日々に少しさみしさを感じている主体象が浮かんでくるようでいい歌だなあとおもいました。
⇒景が好きです。「開く」が今の話かと思いきや「臨時休業」の展開。「年老いた店主」なのでひやっとしつつも、「臨時」に希望も少しだけ感じます。「自転車屋」にも実感のあるリアリティがこもっていていいなと感じます。
⇒余韻が好きな歌でした。インターネットの海から抜けて本物の海に行った場合、バカンスかもしれませんし、そうではない不穏な空気も感じます。「SNS」と硬い文体の取り合わせも魅力的でバランスがかっこいいです。
⇒「産毛と産毛が重なる」にドキッとしました。触れるではなく重なる……!「つまらない映画」も言葉通りだけでなく、一緒につまらないことも乗り越えるような意味にもとれ、しかし叶わなかったことの寂しさが際立っていて心が素敵に乱されました。
⇒早起きの時間というなんともいえない雰囲気をうまく掬い取った素敵な歌だと思いました。早起きで得している、活動時間が長くなる……という把握でないのが面白く、しかし「降り立つ」もささやかにドラマチックで、静かながらも生きることの重みを感じる歌でとても好きでした。
⇒フローライトと言霊の取り合わせが新鮮で、とても綺麗です。あの石のやさしい色合いは言霊というにぴったりだと気づきましたし、一方で「割れた」というとフローライトの劈開も連想され、鋭く手のひらを傷つけそうなイメージも出てきます。言霊に重さがあるという発想も幻想的で、読んで独自の色に包んでもらった心地です。
⇒主体は今日ではなくて、もう明日の心配をしている、というところが面白いです。凍てつく風などではないけれどじっとりしていそうな風、というところに、確かに今日を超えて未来まで惓んだり思いを馳せたりする余白があるなと納得させられました。
⇒なんとも「はなまるうどん」が絶妙です。「空白」とうどんの白の響きあっていて寂しさが増幅するようですし、「はなまる」と満たされなさの対比が切ない。空白「が」の強調も効いています。「満たし”きれない”」にも慎ましやかさがあり、こんな日でも安価なはなまるうどんにいく主体を応援したくなりました。
⇒「涙」が最後の最後に絞り出された愛のように感じます。「から」で終わることで、続編やアナザーストーリーが始まりそうな気配もします。真っ直ぐにさみしさを歌っていていいなと思いました。
⇒たしかに、嬉しい感情よりもくるしさの方が身に迫っている気がします。取り憑いている、というか。主体の感情の強度みたいなものが満ちている歌だと思いました。動悸は不純な感じがしながらも、自分が側に行く=苦しみになるわけでなくむしろ軽減させようとする真っ直ぐさが好きでした。
⇒別のものたちを「同じ味」としてしまう気迫が好きです。アイテムが三つ全部寂しさを含んでいるけど違う、というところがいいなと思います。もしかしたら誰か待っていたのかも。特に「冷めたコーヒー」「溶けたアイス」は元々違うのに今は温度が同じという発見がありました。
⇒何を知らせる/何のために会う か明示されないところが好きでした。愛おしさからかもしれないし、ほんの少しだけ不安な感じもします。「鳴く」でなく「啼く」なのもなんだか予感めいていて、しんわりした空気感がとてもいいなと思います。全部仮定で話しているのも重力が現実と違っていて読み心地がいいなと思いました。
⇒「六月七日」はもしかしたら「君」の……と思いました。(調べたところ西田幾多郎の命日でもありました)「敬愛する」という言い回しに、主体が君を尊重していることが伝わってきて好きです。寂しさや喪失の空気とともに、穏やかな暖かさも一首に流れていてとてもいい歌だなあと感じました。
⇒語順やスペースでの区切りが移ろいやすい月のようです。二人でいても満たされることはない「あの人」と離れていても月を見ると想いを馳せてしまう、と解釈しました。王道なさみしさを叙情的に表現していて良いなと思いました。
⇒カップのふちに残ったカフェオレの泡と読みました。着目点が素晴らしいです。カフェオレの「雲」から、外と同じように雨のような心情に繋がるのかもしれません。ドラマのワンシーンのようで好きです。
⇒割合序盤で衝撃的な他読書体験をしたことが具体的な数字で伝わってきます。その後の展開からも、主体がかなり感受性の高い人物だとわかってきて、小説のような雰囲気がありました。過去の「涙」を「雨音」が上書きしているようで納得感もあるのがいいなと感じます。
⇒「雪の死骸」という言い方をはじめてみました。かっこいい。あくまで冬の死骸、ではないところも綺麗でいいなと思いました。「眠る」の間に「すっかり」の転換が綺麗で、そこから「生きる」で終わるのがばっちり決まっていてやっぱりかっこいいです!
⇒けだるげなクールさが魅力的な歌です。しっとりした「催涙雨」からの「打つがいい」の振り切り方が鮮やかです。「君」などを使わずに相手の存在を表しているのがすごい。もし煙草を落とす、が灰皿をあけているような動作ならば、頰を打つ手とも動きが同じだなあなんて思いました。漫画のワンシーンのよう。
⇒「犬と歩いた」が主体ではなく「君」なのがいいなと思いました。主体との関係性が気になります。はじめに「いろいろと変わってしまう」があることで、年月の経過と犬の変化、老いも想起されるのがせつなく感じました。「それでも」にそれぞれの時間経過が込められているようで、変化に対しての眼差しが素敵な歌です。
⇒「万雷拍手」と「笑顔」の良いイメージが「終わり」の世界線に揃えて置いてあるのが面白いです。でも「万雷」で雷のイメージが滅びに接続しているようで自然な繋げ方だと感じました。幸せのなかに終わりの予感をすぐに感じ取ってしまう主体の寂しさが滲みます。
⇒ユーモラスさが光っていて惹かれます。秘密、ではなく「嘘」なのもドラマ性があってどの程度のウソなのかも考えさせられます。天国行きのフライトがある世界観もシュール。しかし生前明かせなかった嘘をいまここではじめて明かして、主体はどんな気持ちでいるのか、も気になる歌で、ユーモアといい謎がある歌で好きでした。
⇒綺麗に定型にはまっているのかと思いきや、真ん中からがっつり崩れる破調がとても好きです。関係性の名前=人間社会の定型にはまっていない、という内容にも合っていると感じました。最後の「ないの」がいじらしくすごく切ないです。「君」がどんな人なのかも聞いてみたくなりました。
⇒「近視用メガネ」という固有名詞がスパイスになっていて、歌に立体感を出していてすごいと思いました。「色眼鏡で見る」といった言葉もあるので、個性的ながら納得感があり好きです。「嘘だらけ」の可能性を諦めて受け入れるような態度と「手を振るあなた」の組み合わせの夢っぽい空気感が好きです。
⇒二人いるうちの「毛むくじゃら」が席を立ったことでお庭の緑が深まった、と解釈しました。「毛むくじゃら」から始まっての鮮やかな展開が面白く、人間味もあるような毛むくじゃらが何者なのかも気になる楽しい歌でした。
⇒👍がとても楽しいです。「いいね」と読みました。(実際私も👍の反応が来た時にあまり良くなかったかな?など考えてしまったことがあるので思わず共感です。)本当はどうでも良くない思いに気づいたとも、かえってきた反応で気になってきてしまったとも、2通り読めますが、「終わってしまう」の心残りから前者かなと色々妄想しました。相手との関係性もきになる。そして「夜」にも納得感がありすぎて好きでした。
⇒無邪気な神話のようで好きな世界観でした。「ふさがれた海」が禁忌とされているのか、それとも流氷など物理的になのか、幅があり不思議な舞台です。海にあがってまた「生まれ」るイメージに、濡れそぼった「毛並み」が生々しいようで厳かな綺麗さがあると思いました。
⇒「ぽつり」の寂しさ。やや舌足らずな感じのある語りと合っていると思いました。ひらがなが多く、その中で「不確か」「本音」「自分」が漢字であることで、それらがカスタードクリームのなかの溶け残りのような、ざらっとした存在感があっていいなと思いました。
⇒うつくしい景で読み手の時間もゆっくりになるような心地でした。スローモーションで「きみ」への思慕が光るように思えました。乗っている最中ではなく、降りた後という時間の切り取り方もさみしさの美しいところを掬っていて、見た目だけでなく温度や匂いまで流れ込んでくるようないい歌だなあと思いました。
⇒童話のような空気感に惹かれました。ココロの片仮名や「すぅすぅ」のぅなど細かいこだわりがより主体のあどけなさ、寂しさを際立てています。おだんごというアイテム選びも空気感に合っていて、月の兎かな?などなど想像が膨らんでゆく広さのある歌でした。
⇒「姦しく」のチョイスがユニークで良いなと思いました。音の感じがなんとなく頭をカシャカシャ洗っている感じ。最後の「シャワー」で流してまたこの短歌がループしてシャンプーを始めてしまうような、不思議な面白さがあります。外側を洗っても洗っても内側はきれいにできない感じ、心細さを描いていると感じて好きでした。
⇒5でも3でもない、なんの時間なのか思い浮かびづらい四分というチョイスが好きです。白でも黒でもない「灰色」の天使と響き合って、読み口が優しいです。記憶がなくなっていくのは寂しくても不思議と暖かさを感じられる歌です。
⇒映画「ひなぎく」のようないたずらっ気が可愛くも危なげなイメージが浮かびました。「1本ふたり」にニコイチ感があり好きです。言葉の軽快さやロゼのイメージが世界観を作っています。勝つ、ではなく負けないように、というところに傷つきながらも抗うような、ひたむきな強さ、所在なさも感じました。
⇒きっと仮定の話だとは思うのですが、なんだかこれっきりの別れの挨拶のような雰囲気もあります。酸素濃度の低さというか。葬式を超えて「火葬」とはっきり言っているところに実感があるように思います。最後に「七色の」といきなりあざやかになるのもかえって寂しさを引き立てているようでいい倒置法だなあと思いました。無邪気な感じもありながら儚く危うい主体のことをもっと知りたくなりました。
⇒かごめかごめ→はないちもんめ(と読みました)の遊び繋がりのリズム、「選べない子と選べる子」が心地いいです。主体は選べない子なのかな、君に「ください」される子とは別かな、もしかしたらそもそも輪の中にいるのかもわからないな、なんて考えてしまいました。しかしリズムに揺られて不思議に心地いい寂しさがある歌でした。
⇒「気がした」のは幼少期だととりました。ブランコというアイテムが絶妙で、良く揺れて、でも上へ上がるけれど同心円の範囲でしか動けずどこへもいけない感じ。猫は野良猫でしょうか。孤独をわけてよりそっているようなイメージが浮かびました。大きな夢や想像は叶わなくても、孤独でもささやかな安寧があるようで好きです。
⇒「こみ上げる」「絞められた」のどちらにも首のイメージが重なってこちらの喉も詰まるような苦しさがありました。今朝〜からの韻律がすっきりして読みやすく、あっけない一生とも重なります。描写する主体はどんな表情なのか気になる歌でした。
⇒イメージの連関が豊かで、きれいなアニメーションでも見てみたくなりました。さみしさ→花の展開のあとにそれらが透明だったと明かされる構造も素敵です。モチーフとして春→秋の雰囲気もあり、さりげないながらも情報量が綺麗に乗っていて良いなと感じました。
⇒不思議な涼しさを感じます。「奥歯から僕はつまんで」の文の屈折の仕方と、「歯軋り」「壺」というちょっと不穏な単語が絶妙な重心でつりあっていると思います。特に感情なども描かれず、低い体温をたもっているところが好きです。おそらく一人でやっているんだろうな、なんて考えました。文体の無重力感に惹かれてもっと読みたくなる歌でした。
⇒容易には取り出しづらいところに仕舞われているのですね。「地層」のなかでカチカチになったかと思いきや、「揺れてる」ことに自由さがあり、一方地震も起こしてしまいそうな不安定さのバランスがいいなと思いました。
⇒バタ子さん……!製作者でも戦闘員でもない立場ならではの逡巡がありそうです。感情の描写がないのも色々想像してしまいます。そう思いつつ外さず投げている……。情報量と語順を整えることで、今あるストーリーから奥行きを拡げているのがすごいですし、パロディだけに留まらず、なんだか寓話のようにも思える歌で好きです。
⇒「忘れたい熱」という詩的な表現からの「冷感素材」のコントラストが効いていると思いました。イルカの抱き枕と眠る主体が可愛いです。イルカ、というセラピーにも用いられる動物なのもぴったりだと思いました。寂しいけれども優しい空気感。忘れられますように。
⇒事実だけが書かれているのに、心情や背景を色々と考えだしてしまう魅力があります。結句「カップヌードル」の収まりのよさも、一人でちんまり食べている主体とすこしリンクしているように感じられ、一人でゆく強さといじらしさに思いを馳せちゃうような歌でした。周りに人のいない席でちいさく麺をすする音が響くのかな、他のカップ麺食べるのかな、なんて色々想像しました。
⇒言葉を雪になぞらえ、さらに「六花」の言い換えが綺麗です。「あの時」のたらればなんて儚いのかも、と思わされます。川面に〜で続く主体の眼差しもおだやかで、しんみりした寂しさが素敵。「舞い降りて消ゆ」の着地もやさしく、一首のすべてに静謐な美しさがある歌です。
⇒勝って進む相手の背中を見ていた、という点に主体と「きみ」の関係性が出ているように思いました。学校の階段でしょうか。パーでもグーでもないチョコレイトのほんのりした甘さもとても合っていて良いですね。「ずっと見ていた」なのでもしかしたら回想していてずっと憧れのような「きみ」なのかも、、、と考えました。
⇒二度目の道は「みち」になっているのが面白く、もしかしたら「未知」でもあるのかと思います。そして最後で行くと「たびたび」にも旅のイメージがのっかってきて、簡単ではない道にたいしてぽつんと主体がいる、という少しの心細さが感じられました。抽象的な言葉でできているからこそ読み手それぞれに重なるものが違ってくるであろう歌でいいなと思いました。
⇒「墓守の日記」の世界観がいいなと思いました。名前でなければなんなのか、というところに「墓守」と「僕」の距離感が出てきそうです。墓……とくると、「最後」というのがページの終わりでなく何か他の終わりもさしていそうで気になります。「名前で書いてなかった」がわかっても何度も日記をめくっていたのだろうところが好きです。
⇒思わずあるあると頷いてしまいそうです。ま行の音(飲み会のみ、まま、など)が繰り返されてから「僕は〜」の落差が面白く、地下鉄で一人潜っていくというのも孤独感をやさしく増していて良いなと感じます。
⇒リズムと不思議な世界観があっていてとても好きな一首でした。異星人である(!?)らしい主体と土鳩というダイナミクスが楽しいです。日常の中に色が差し込まれるような、寂しさがカラフルな歌でいいなと思いました。
200~250首目
⇒本屋無くなりますね……「終わりを告げた」なので、もしかしたら最後のお店だったのかもしれません。本屋が消えるのはその中の物語や絵本も無くなることだと気付かされました。あるあるをユニークに味わい深く描いている歌で素敵です。
⇒前向きながらも寂寥感があります。廊下という、人が留まるためには作られていない場所に納得感がありますし、学校や病院を連想させるのが人生っぽい感じがします。「念入りに閉じる」も主体の気持ちがここに圧縮されているようで好きでした。「生きていくんだ」の前向きにあきらめて受け入れている感じが絶妙です。
⇒数学の問題のようで、しかし情感がある歌で好きです。「平行四辺形」のチョイスが絶妙で、ぐらっと倒れてしまいそうな重心や、「平行」という言葉が連れてくる触れられなさが好きです。探した、などではなく「さがす」なところに主体の心持ちがあるようで良いなあと思いました。
⇒「はぐれた」「案じて」にぐっときました。「水玉」が可愛く、車窓のしずくに呼応しますし「持ち主」像も浮かびます。擬人化がとてもハマっていて、一首に充満する空気感がとても好きな歌でした。
⇒好きな星は一つ……といった展開かと思いきや「あまり見えない」に着地。意外性がありながらも説得力がしっかりあって好きです。見えない原因を「灯り」とまとめているのも、全体の詩のムードを押し上げていていいなと思いました。
⇒「ぱちもんが」の言い回しが意外ながらも可愛いところが好きでした。「見える」ではなく「視える」というのも、「ぱちもん」の異形さを表しているようで、どんな夢なのかすごく気になりました。
⇒ひたむきな叫びです。言葉のたたみかけや促音により加速しているような印象があります。空っぽ、などでまとめずに具体的に無職〜とはじまるところにすごく良い個性があると思いました。「いま」と言っているので色が移ろうかもしれないところも好きです。主体に引き込まれました。
⇒鳩が食べようとしたものを誰かに踏まれてしまったのでしょうか。架空の生き物が星座になった……ものがさらに剥製、という発想が面白いです。どんな見た目なんだろう。また、地面のほうから一気に空へと視点のかわるダイナミックさが素敵だと思いました。
⇒卒業の歌と読みました。写真の地層がいままでの数年間の思い出をも埋めていくイメージもあって興味深いです。写真はきっと笑顔で、場面も春で綺麗なのに反して浮かび上がる寂しさが良いなと思いました。
⇒「薄玻璃のビードロ」のがすごくいいなと思いました。透けていて「あかるさ」との響き合い、ビードロの壊れやすさ、ノスタルジックな空気などこの短い語に圧縮されていてすごいです(もしかしたら故郷が長崎で……?とも思いました)。「約束」もこの歌の中で見るとなんだか浮世離れしたものに見えて好きでした。
⇒確かにレイトショーは成人後の楽しみですね。そして賑やかな遊びというよりかなり孤独よりの遊びだと思います。映画が「泣き方」を思い出せる内容なのかそうでないのかわからないところが味わい深く好きです。
⇒香りの正体が飴とわかるのが後の方なのがいいなと思います。「終わり」「止め」「さいご」と、終わりに関連する言葉が繰り返されて、思いの強さを感じさせます。「もらった飴」というところで、一気にストーリー性が拡がるのも好きなところでした。
⇒さみしいながら暖かさがあっていいなと思いました。「私だけ」に「ひとり」を重ねることで孤独が強調され、以前は二人以上で歌っていたのだと思い至ります。しかし実際に歌うような繰り返しのリズムから強さや暖かさも感じられました。
⇒雨だれを飼う、という発想が鮮やかです。「におい」というものに予感が重ね合わせられるような部分が好きです。雨、という悲しいものに付随しがちなモチーフながらどこかロマンティックな雰囲気があるのも良いなと思いました。「の」での結びもばっちりはまっていて主体が魅力的です。
⇒確かに、置物の壺だってあるのに花瓶と言われると花をささないといけないような気持ちがあります。花瓶自身の美しさに目線がありしっかり文字幅を使うところや、花自体ではなく花瓶に自らを並べる主体の視点が素敵で、心を寄せたくなる歌です。
⇒面白い把握の仕方だと感じました!寄り添われるほうも、寄り添う方もそれぞれのさみしさを持っているのかもしれない……と考えました。「海」と「暖ため」の取り合わせの絶妙なつながりが好きです。「つめたい」のひらがな開きも寂しい空気にあっていて良いなあと思いました。
⇒並べられている「しゃぼん玉」と「世界」が、「吸い込まれてゆく」でリンクする感覚があり新鮮な心地で読みました。またそれにより背中の持ち主もしゃぼん玉のように儚くすぐ空気に乗っていなくなる存在に見え、「またね」なのにもう会えない予感もするようで好きな読み味でした。
⇒なんだか架空の記憶がよみがえってくる気持ちです。テンポの良い定型のリズムから、最後の最後で「👍」(無音で読みました)がはみ出してくるのがなんとも面白く、短歌の形をすごく上手く使っていると思いました。内容も絶妙で、「👍」は相手側でも主体側パターンもあるなと思いました。「いいよ」に対しての「ありがと~!!」のビックリ2つなのも絶妙にリアルで、すごくいい余韻がありました。
⇒大胆な言い切りに気迫を感じます。空白のあとに「まなぶた」という目覚めや気づきに関わる部位を持ってきているのが印象です。リズムの崩し方や「刺し」の畳み掛けも歌全体での迫力になっていてすごく良いなと思いました。「刺しあってる」という一方的でないようなニュアンスも好きです。
⇒展開に素敵な驚きがありました。電車はトンネルも通るし、「洞穴」は現実感とファンタジーの混ざり方が良いなと思います。「全員に背を向けられて」の表現も寂しいだけでなくほんのすこし呪術のような、現実にぴりっとした空気を与えるような言葉選びだと感じました。電車が寂しい怪物のようにも思えてくる現実の変形のさせかたが好きです。
⇒独自のステップの踏み方というか、読者の巻き込み方が好きでした。すこし捲し立てるようなスピードから、最後になって句読点が入ってきて急に減速した心地です。「恋」に主体が攫われてしまったのか、その中で冷静になったのか、感情の一瞬を捉えていていいなと思いました。
⇒生活がコンパクトになった都市の中で、泣けない主体の孤独感が際立ちます。「全部ある」「でない」ときっぱり落としているところがアクセントになっていて、真っ白い蛍光灯の味気なさが浮かび上がってくるような気持ちで読みました。全部言い切りなのもムードにあっていて好きでした。
⇒暖かい寂寥感があって好きです。カメラワークが遠くから二人にクローズアップしてゆくようで、音や香りまで感知できそうに思い、短歌の魅力を活かしていると感じました。また、「凸凹」も影(背丈のちがい)と、街並みの建物、コロッケの歯形の凸凹が重なって、表記の使い方がなんてうまいんだ、、と思いました。また、夕焼けにかかるのが甘い、だけでなく「甘じょっぱい」なのも繊細に景を描いていてすごいです。
⇒開いた本のページの白、夜、部屋の電灯……のコントラストが綺麗で、一人ぼっち感が際立ちます。「終えた」「閉じた」「夜」という終わりに関する単語が多いのも好きです。「あかるい部屋で」は単に寝落ちかもしれませんし、本の世界が主体の中にまだ残っているということかもしれません。前者の場合、電気を消してくれる人がいないのかも……ともとれます。読書後の、よい時間に見える景ながらも、なんとなく主体の持っている所在なさ、孤独がこちらまで流れてくるような空気感が魅力的な歌でした。
⇒別れ際のギャップを繊細に歌に落とし込んでいてすごいです。「ね」までちゃんと聞かずに帰ってしまったのかもしれませんし、友達のほうは「またね」ではなかったのかも。「あっさりと雑踏」という言葉にこぎみよさと寂しさがあって良い初句だと思いました。「口に転がす」も読んでいて一緒にやりたくなりました。
⇒固有名詞の使い方が際立っていてすごいです。紙の本かと思っていたら……の小さいサプライズ。寝る前の暗い部屋でも読めて、手元だけで知らない本に出会えるのは確かにKindleだ!と気持ちよく納得しました。プロダクトの利便性と「眠りへの旅」という叙情的なテーマもかっちりはまっていて、塩をスイカにかけるとより甘いみたいな技巧をばっちり見せていただいた気持ちです。忙しいながらも読書を守ろうする主体の努力を勝手に思いました。
⇒考えさせられました。「まだいる」は実は居た、というよりその人の残したものたちがその人として存在している、といった風に受け取りました。あるいは主体自身かも。はじめに「もういない人」と言い切ってしまうことで読者も主体のように「知らされている」を追体験できるように感じられました。
⇒かさかさした孤独を壊さないように描いていると思いました。音数ぴったり句またがりの上の句が切迫した感じを出しています。二回繰り返される「ね」に「僕」の寂しさや諦めのようなものが乗っかってくるようで好きです。
⇒衣食住〜と人間らしさのある言葉から「掻い潜り」「歯形」という獣寄りな言葉になるのが面白い展開でした。恵まれていても100%幸せではないような空気感、さらに「長年」という翳りがいいなと思いました。
⇒「度」の繰り返しのリズムの良さがよく、しかし内容としてはもう来ないということを読んでいるアンビバレントさが好きです。「夜」なので一日中楽しく遊んだのか、などと思うと爽やかな口ぶりながらさみしさが際立ちます。
⇒カタカナの散りばめられ方が鮮やかです。マラサダと比べられるのがポンデケージョではなくポンデリングなのが面白く、しかし大きさや見た目の感じから並べた時に「種族」感があります。ファンタジーとドーナツを並べる発想が鮮やかに思いました。
⇒お開き前に出ること自体は主体の選択だけれど、それにより発生する孤独が嫌い、と受け取りました。共感性の高いところを歌にしていてすごいです。さいごの「きらい」も平仮名なところが人間らしい部分を表しているようで好きです。
⇒今日、ではなく明日の、の時点で妥協に入っている点が特に可愛いです。しのリズムが可愛らしく、完璧な生活でないながらも許すような主体もユーモラスですごく好感度の高い歌だと感じます。
⇒地球が球体であることの面白さを活かしていて、また、「二人」「瞬間」と「地球」「最も遠い」の対比のスケールの大きさがかっこいいです。最も、なった、の促音ですこし軽やかに着地しているのも良いなと思いました。
⇒404〜の使い方が好きです。気が付いたら消えてしまっていたという時間の流れ。404〜になってしまうと移行先もわからないけど、ブックマークから消せない。インターネットの儚さ、残らなさを思い出す歌でした。
⇒光に対してなついてる、の感じ方がいいなと思いました。ひらがなに開いてある箇所がおおく主体は幼いのかもしれません。もしかすると、夕日の時間帯に主体も一人きりなのかも……と想像しました。夕日を擬人化したように捉えるのも寂しさ故かも。自分もさみしくても「ごめんね」という姿勢に胸がぎゅっとします。夕日と一緒に一人きりの寂しさが染みてくるような歌で好きでした。
⇒切ないです。「バレないように」の何気なくフランクな言葉遣いが、かえって主体の心の細やかさや孤独感を縁取っていると思いました。この「言うね」は語りかけながら一人心の中で言っていると思うとさらにさみしさが迫ります。
⇒歌集が涙を流している、という景が新しく、なんだか愛情深さを感じて好きです。もしかしたら涙は主体が実際に流してるいるのかもしれません。悲しいなどでなく「いとしく」の暖かさも素敵でした。
⇒すごくかっこよくて好きです。強いんだけれど、強くならざるを得なかった人の強さみたいな感じがさみしい。紫の色と夕焼けの空気がそこに響いています。「ただひとつわたしのための」の限定のたたみかけも合っていていいなと思いました。
⇒「あたためますね」の敬語にぐっときました。「ためだけに」でなく「ためにだけ」だったり、平仮名の「かるく」の何気なさが綺麗です。歌全体で約束っぽいけれど同じくらい不確かな感じがあって好きです。
⇒「うつくしくある」ことは花に喩えられることも多い中で無花果のパフェが甘美です。「褒められて」もこの歌ではなんとなくフラットではない感じがして少し不穏です。刹那的な完璧と短い未来を思わせて心がドキドキする歌でした。
⇒カーテンの柄を数える部分にオリジナリティが光っていていいなと思いました。「時計の音」というと目覚ましのベル音あるいは秒針の音どちらかかなと思うのですが、個人的には後者で読みました。主体の性格を色々考えてしまうようないじらしさがある歌でした。
⇒「君」の言葉で出来たぬいぐるみで、主体が癒されるのではなく「君」が癒されるという発想に優しさがあるなと思います。主体も「君」も同じくらい深い寂しさを共有していそうな、いい関係性が歌になっていると感じました。
⇒好きです。「墓にいたw」のあとにぽつりと出る感想の味わいがいいなと思いました。「スキップ!」「w」からの落差がなんとも味わい深いです。死んだではなく人生が消えたとするところに主体の寂しさ観がでているのかもしれないと感じます。
⇒定型ながら独特のリズムが好きです。「一人きり」からの言い差しと句点、スペースでがっつり間が空いてからの「すぐ」の急展開がユニーク。「お早う」表記も、早い時間のきれいな朝を思わせて好きです。
⇒なんとも言えない切なさを感じます。「ライト」は煙草を指しているのだと思いますが、光や正しさという意味合いも二重写になっていいですね。「あいつ」にはもう会えないような雰囲気に、特に親しくない「コンビニさん」が効いていると思いました。
⇒「使いかけのまま」と改めて書くことで、「君」の好みに合わせる「私」をきっぱりこの瞬間から脱ぎ去ったかのようなかっこいい印象がありました。なんとなく処分が難しい香水を捨てるのではなくメルカリに出すのがリアルで好きです。
⇒少しユーモアもありながら小さくさみしさがざらっとあっていいなと思いました。統治法もあっていて好きです。また、真ん中のスペースが逡巡のようで、もしかしたら次はないと知っていて言っているようにも読めます。「coming soonと足せ」る隙間にもなるななんて思いました。字余りになりながら「僕等だ」としている思いの強さみたいな所にもぐっときました。
⇒可愛らしくも見える擬音とは裏腹な「もうもどらない」に驚かされます。主体が苦手なのは「息継ぎ」であって、完全に泳げないわけではないので、もしかすると戻りたくないのかもしれません。つぶさな描写のオノマトペも痛切な感じがします。おぼれて少しかわいそうな感じもする中の「もどらない」ははっきり意志があるようで、孤独のなかでとがらせるしかなかったような感じにも見えて好きでした。
⇒全体的にパステルカラーで統一したような空気感が魅力的で、無重力のような空間で「あなたの部分」を大切に抱く主体、というイメージが浮かびました。「分解」という言葉選びと現実の物体ではないものを抱く、というところがいじらしく感じます。イラストでも見てみたくなるような歌でした。
250~305首目
⇒夏の明け方、という舞台が素敵です。時間の経過や儚さがあって夜などよりロマンチックだと思いました。「纏えて」「逃げる」なども別れを惜しむ心の機微を象っている言葉で、細やかさの行き届いている歌だと感じました。
⇒ぼんやりとしたさみしさがゆっくりと浮かんできました。「どうも」「違うよう」「かけ違えてて」のハッキリと言い切らない・言いさしっぽい言葉選びに余韻があり、一首の雰囲気を統一させていていいなと思いました。
⇒家族を「彼ら」と呼ぶ主体は自宅の部屋にきてほっとしたのかもしれません。実家に居るうちは気持ちがあまりに張り詰めていて、距離に「気づく」というより「(部屋が)教える」という表現なのだろうなあと納得してしまう歌でした。
⇒歌の中でクジラを連れてくるのが「夜」である点に不思議な納得感があっていいなと思いました。「見てたけど」の言い回しも幼さがあり、「教室」という舞台に立体感があります。全体の温度が好きです。
⇒定型の区切れが「見逃して」「もらうため」の間にあり、下の句から小さな驚きがあって好きでした。主体はしたたかに見えながら、そう生きていかざるを得ないだろうドライさも感じさせてグラデーションがいいなと思いました。
⇒もしかすると元は「後悔」なのかもと受け取りました。「似ていますから」の結び方が優しく、しかしその穏やかさには諦めてきたものがあるのかもと思いました。全体にやわらかい空気が満たされていて好きです。
⇒主体は矯正前からの「あなた」も好ましく思っていたけれど、八重歯についてチャームポイントだと伝えていたのか、いなかったのか、それとも今写真で気がついたのか、そもそも「あなた」の今の笑顔は変わってしまったものなのか、など素敵な謎が沢山あって奥行きが魅力的でした。
⇒観察眼が素敵です。擬人化も自然ですごく納得感があります。ちりとりって開けている一方で、すこし陰も浅く集めているような感じがするよなあと思い至りました。「余韻」のその後に、いずれ捨てられてしまうけれども輝く部分も確かにある、というところへの眼差しが好きです。
⇒小さな視点がいいなと思います。お茶殻ってなんともさみしいですよね。それがお花いりとなると、更に強いコントラストがあると感じます。しかも薔薇。滅びに関する単語を重ねてからの「薔薇の花びら」のあせた鮮やかさ。咲き終われば、用が終われば「捨てるだけ」の無情さを淡々と見つめる主体が良いなと感じます。
⇒「還らぬ」に色々な失われたものが濃縮されているようで、「しょっぱ」さがきっちり効いた描写だと思いました。読点もそれ自体が涙、海の雫のようにも見えます。漢字が多いのもあっていて、さみしさの濃度が文字通り高い歌で凄みがありました。
⇒前半の簡潔な詠いぶりがかっこよく、だからこそ苦悩やさみしさが滲むようです。恋のときめきだけでない面に光をあてていて魅力的。「男性として」以外には性別の描写がないのが良いなあと思いました。下の句でも身体の描写だけで、直接的な恋っぽくないことが情景を膨らませていて、すごくいい歌でした。
⇒何に対しての「あなた」の言葉なのか、興味が掻き立てられます。するっと読める歌ながらなにかひっかかる漢字。言い返す、ではなく「言い直す」という優しいながらも力のある所作で描写されており、「あなた」との交われなさを感じて読み味も好きでした。
⇒丸まって泣く姿勢でしょうか。「電球を抱えるように」が巧みで、壊れ易さや熱の感じ、光るかもしれない感じ……というイメージが重なるようで好きでした。生徒っぽさ。移動教室ももしかしたら理科なのかも、とも思いました。
⇒下の句の開かれ方が好きです。まだ少し肌寒いかもしれない季節の夜という舞台、コンビニで光る花びら、という景が豊かにイメージできました。孤独感が美しい画として浮かんで素敵です。
⇒スマホに準えているのがユニークで良いですね。「保護フィルム」からリズムが崩れて字足らずになるのも不器用な感じがあって好きです。明るく振る舞ったりしながら傷もうけて生きてゆく主体を応援したいです。
⇒「髪」「刈り上げて」の間で定型の切れ目がくるのがかっこよくて刺さりました。「耳の冷たさ」の発見がよく、「守られた少女の証」の対としてもってくるのに重すぎずも軽すぎずもないぴったりな箇所だと感じます。
⇒ユニークで好きです。可愛い。透明人間のように見守りたい、ということなのでしょうか。でもちょっとわかる気がします。「100%」という表現で色々想像が広がって楽しく読みました。
⇒なんとなく主体とクーラーの二人きりな部屋が浮かんできて、じんわりと孤独感が浮かんでくるように感じました。五月、という微妙な時期も納得感があります。「嘘つき」という言い過ぎない言い方も好きでした。
⇒お米を洗う時のあの姿勢や一人でやることを思うとすごくしっくりくる景です。「流しても」という、本当に涙したかしていないか断定できない言葉がすごく効いていて、家事をしながらも家族の中での孤独を思う主体が心に染みてくるようでした。
⇒やるせなさと可愛さが同居していていい歌だと思いました。「みんな」に「宇宙怪獣」をいれてあげ、しかも「ひと撫で」する優しさと、結局「倒す」強さをもったアンビバレントな主体が魅力的です。
⇒シルバニアって広く標準的と考えられている家族の形ですよね。。「祖父」というリアリティ。「無い」という無機質な表現も好きです。「子の子」という遠さや、シルバニアというチョイスでやんわりとした寂しさ、ひんやりした温度がじっくりしみ込んできます。パロディ的以上にすごく実感があって好きな歌です。
⇒主体の冷静ながら寂しいような視線が一直線にみえてしまうようでした。「母」ではなく「母の手」なのがちょっと機械的で、「下着」という有機的なモチーフとの取り合わせが良いなと感じました。
⇒すごくロマンチックなところから、高度を変えずにゆっくりさみしさへ着地していくような心地がしました。「手を離す」=眠りに落ちた の可能性もあると思い、主体のやわらかい忍耐強さが切なく伝わってきました。
⇒近しい人が亡くなったときの心の鋭敏さをしっかりと捉えている歌だと感じました。温度の描写の重ね方や、「まだ」「最期の」というところに主体の心情が滲んでいて、さみしさを離すまいとするような緊迫感が胸に迫る歌でした。
⇒着眼点が面白いです。匂いだけでなく「記憶」で、「カタチ」が見えることから霊体のようなものが視える主体かもしれません。歴代の、しかし同じ種類=形が沢山、自分だけ視えるさみしさと読みました。
⇒運命はロマンチックながらも、「自力ではない」みたいな無力さもあり、そこにすこしのさみしさを見出しているのかなと解釈しました。愛情とともに覚悟も感じられ、「会おうね」の呼びかけになっている点にグッときました!
⇒句割れのリズムがすごく綺麗に活かされていて、思わず何度も読みました。夕暮れや夕焼けなどではなく「夕映え」が重すぎず、まばゆいドライさを作っていて好きです。「さよ"ならは"」の母音aの連続もさわやかさとさみしさを引き立てていて、全体の解放感がとても魅力に思いました。
⇒一拍おいての「これでおさらば」がすごくいいなと思います。「おさらば」の言い回しがさよならよりも少し戯けているようで、しかし本当に晴れ晴れしているような感じもあります。思春期の鬱屈とさわやかさをつめこんでいて素敵な一首です。
⇒インドカレーはインド発祥というだけで箔がつきますよね。なんとなくやるせないながらユーモアがあり、言い回しも優しく、読んでいる側が思わず「俺」を応援したくなるような魅力が一種全体にみなぎっていて好きです。「猛暑日」のパワーもコントラストが良いなあと思いました。
⇒当たり前のことが当たり前に続くさみしさと取りました。「ずっと東」という言い回しもさりげなくて良いなと思います。早朝でしょうか。タイミングが実際に主体が起きしなとも、寝しなに翌朝を思いながらとも想像できるのが好きです。
⇒優美ながらじっくりとさみしさが肌に染みてくるような心地が好きです。自分以外の生物の命を食べる以外の用途で奪いながら、しかしその生き物の美しい部分を拝受する、という後ろめたさと交れなさの孤独がいいなと思います。素敵な無力感。
⇒インパクトのある「ご立派に」に主体の思いが詰まっていると思いました。半角スペースに割り切れなさも感じます。「あやふや」というマイナスになりやすいイメージを肯定的にとらえ、どうにかなりたいわけでなく「会いたい」とする主体の温度感が良いなと思います。
⇒リズムの流れに惹かれました。軽快さを出しながら、終着点の(暇だよ)がぽつんと寂しく感じます。そして最後になって「きみはもういない」からなんだ……、ともう一度気がつく構造になっていて、とてもぐっときました。何度も読んで寂しさを掘り出したくなります。
⇒情感のバランス感が好きです。花、ではなくて庭、なのがとても面白いです。主体は花単位ではなくて場の単位での喪失の予感があるのかもしれません。「でしょうか」にも記憶は永遠といえど救ってくれるかはわからない感があると思います。静かながら、主体の痛切な心が伝わってくるようでした。
⇒確かに進学などのタイミングから一気に手書きの機会は減っていきますね。この部分への着目もすごいのですが、門の略字「门」がなんとも言えずリアルです。「恋しい」にも大学までの時間がぐっと濃縮されているようで良いなと思いました。
⇒素直な読みぶりに深く頷いてしまうパワーがありました。「売れ残りカチカチ」の滑りの良さが好きです。売り物のおにぎりの鋭い三角や海苔の黒さ等アイテムに説得力があり、いい重みを感じました。
⇒邂逅の舞台がコメディのような偶然ながら、すごく大真面目に一首通しているのがいいなと思いました。「繋がった」「救う」「片隅」といった語彙でより引き立てられていて、壮大な日常のなかに孤独が二つ寄り添っているような景が好きでした。
⇒ほの明るい明るさが魅力的に感じます。「給料はある」自体は自立していてよいことのはずですが、それを少し寂しく思うところがいいなと思いました。給料の多寡や、自立という自由と引き換えにうしなった気軽さがあるのかもしれません。しかし不思議と口ぶりに青春っぽさがあって好きでした。
⇒晴れ晴れとした旅立ちとも読めそうですが「いちまい」「ひとつ」と一人旅を強調することで、なんだかもう帰れないような孤独感が出ています。「自由」に短い影のようにつく寂しさを浮き彫りにしている歌だと感じました。
⇒美しいながらもずっとどこか不穏なトーンを保っているところが好きです。火、光、花、といった可愛いけれど壊れやすいものと合わさると「しあわせ」「のふり」もそのように思えています。舞台の庭園の閉塞感の取り合わせも物語のようで良いなと思いました。
⇒思慕のせつなさが素直にたっぷり歌われていていいなと思いました。主体はその綺麗さに惹かれているとしたら、なんだか結ばれる確率が低そうにも思えるし、そもそも主体は相手と結ばれたいとか望まないんじゃないかという気もしたり、色々と考えてしまい好きです。
⇒もしかすると主体は立場が危うくなりそうなのでしょうか。「はずなの」という点に、新人までとはいかなくても主体も若く、まだ未成熟かもしれない雰囲気があります。不確定なこれからに緊張感のゆっくり高まってゆく一首でした。
⇒「訊ね」なので最後は相手に直接ではなく他の人にきいたのかもな、と解釈しました。「元気です」「元気ですか」がやまびこのようにずっと響いているような、この会えない時間がずっと続いていくようなさみしさを湛えている歌だと思いました。
⇒妖しくきれいなイメージがあり、魅力的でした。美しい月の、御伽噺的な世界観であっても「うまく」できなければ死んで溺れてしまう不条理。金色の中に小さな白い亡骸という、切ないながらも視覚的にきれいな取り合わせを色々と想像できました。
⇒新しい心中の形かもしれません。海は全てを受け入れてくれそうな場所ですが、「きみの死」で「とどめを刺」されるところが二人でいる脆さのようで好きでした。「今日」という性急さもあっていると感じます。
⇒シュールながらも不思議と切実な感じがしました。夢特有のなんか納得しちゃう空気が歌全体に流れていてすごいです。暴力行為なんだけれども傷つかなさそう、でもちょっとかなしい、複雑な色が沢山散りばめられていて好きでした。
⇒聞いて、からの思いの真っすぐさにどきっとします。「最後」ではなく「過去」が寂しい。主体の「永遠」への信じなさみたいなものを強く感じて好きです。主体はどんな目だろうと気になりました。
⇒美しい不安感が魅力的です。あの赤い光とともに、「予感」が来るというのが良いなと思います。「なにか失う」のはその後に訪れる夜の暗さの中かもしれませんし、夜明けの明るさかもしれませんし、もっと先かも……という可能性もあって好きです。
⇒花火、なので時期は夏で主体は風邪で寝込んでいたのかもと思いました。発熱時のあの混濁した感じや心細さを思い出させる「見ていた」だと思いました。皆がベッド以外から見ている声がきこえてるのかなあ、なんて想像しました。
⇒絵本のような空気感が好きです。「ひとつだけ」と「ひとりの」が呼応してやさしい孤独感に満ちているように感じます。夜に眠るのではなく「歩く」のもこれから物語が始まるようなどきどき感が少しあって好きです。
⇒人間と機械の友情はまだ結論の出づらいテーマだと思いますが「十億年」の飛躍になんだか本当にお互いの心が通じ合ってるようなパワーがあります。十億年では流石にお互い朽ちていそうなところや、「だって」の温度感にぐっときます。
⇒「雄弁に孤独について」で、確かに孤独だとよく話してしまうことはあると気づきました。でこぼこした旋律は聞いている側だけでなく話している人にも聞こえているのかもしれません。人の描写がないのが内容を引き立てていて好きです。
⇒詠唱のようなかっこよさがすごく良いなと思いました。「たゆたえ」まで一息で読みたくなる気持ちよさ。ウェットな寂しさというよりはドライな寂しさというか……。一拍おいての「夜は」で終わるのもキマっていて、主体はただの人というよりなんだか夜行性の生き物のような、そんな特別感があると思いました。
⇒きらきらしたイメージの多い海をはじめに「薄暗い」としてしまうところが好きです。泳ぐではなく漂う、という現実に無力な感じと眠りがかさなっていて、静かな思いがありながら茫漠とした運命の中にあるようないい寂しさがありました。
⇒いつか行こうね、と約束した人がいたのでしょうか。初句「もうインド、」をはじめとして「ん」や促音の配置のリズムがよく、句読点も一人で語りかける感じを増していて好きです。インドという遠さに以前の楽しかった時間やせつなさを感じました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?