【2050年のIT】近未来を予測できる世界、Ability-awareな世界

(この記事は、2020年4月に情報処理学会誌に寄稿した記事を、25%以上改変した物です。)

 30年前ごろには、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1990年にWWWが公開されたが、私が何をしていたかと言えば、私は高校生で、N88BASICしか知らなかった。

 その時の情報処理学会の「30年後の情報処理」特集を読むと、応用指向の記事が、現在を的確に予測できていた傾向にあるように感じた。特に、松下氏は、ICカード、50インチのフラットディスプレイ、電子書籍、掃除ロボット、と、現在の技術や生活にほとんど実現されていて、その的中の度合いに、大変驚いた(私はN88BASICしか知らなかったのに、である!)。

 だから、私もそれに習い、応用指向の予測をしてみようと思う。

近未来を予測できる世界、そして統計的仮説検定の終焉

 現在の機械学習は、なにかを入力したらなにかを出力する写像(あるいは状態機械、あるいは機械学習モデル)を、事例から学ぶ技術である。現在を入力として、近未来を出力する写像を学習すれば、少し先の未来を予測することも原理的には可能である。

 例えば、オンラインである商品を買った人が別に買う物の予測、スーパーにいる人の購入物や購入タイミングの予測、高齢者の転倒可能性の予測、農作物の収量の予測などは、今でもさかんに研究されている技術である。

 ただ、現在はまだ問題があり、まだ万能の方法になってはいない。そのボトルネックは、可能性のある要因(入力変数)に対して学習に使えるサンプル数が少なく、次元の呪いに対応できず、すぐに過学習してしまう問題である。これまでに機械学習モデルの汎化の問題として、理論研究は多く行われてきたが、今後の30年間で、システム的、社会的な解が出てくると予測する。

 学習データが時を経て蓄積されるであろうことがその一つだが、他にも、システムやデータが社会で徐々につながっていき、データまたは写像(機械学習モデル)を活用してまた新しい写像が学習されるような、いわば社会の副交感神経系が組織されるのではないだろうか。もしかしたらその中で、複雑系理論のような新たな理論が発見され、ブレークスルーがあるかもしれない。

 このようなブレークスルーによって、例えば街を歩いていて街角から人が飛び出してくるかどうか、高齢者が転倒するかどうか、家族と会話していて数秒後に妻が癇癪を起こすかどうか、台風が今年はいくつできそうかといった幅広い予測が可能になるはずだ。

 そのブレークスルーの中では「この人の場合」、「このシステムの場合」のように、個人に特化したり環境を限定したりして、予測の高精度化が図られることが考えられる。

Ability-awareな世界

 人間拡張(Human Augmentation)と言われるようになってきた。Wikipediaによれば、人間拡張とは「情報技術やロボット技術などを用いて人間の能力を拡張・増大させること」をいう。

 ここでこの「能力(Ability)」という言葉には、身体的か情報的か、あるいは客観か主観かという側面に分けて考えてみると、次の表のような性質がある。

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 表では、客観的/主観的側面から、関連語、身体的なAbility、情報的なAbilityを私なりに比較してみた。人間拡張の研究としては、視覚や身体操作といった身体的能力を拡張する話が目立ってしまうが、情報的な能力に関しては、この30年間の情報技術の進展により、すでにかなり色々なことができるようになってきている。例えば、インターネットの発展により、地球の裏側とでも共同研究を進めることはできるし、バーチャルリアリティで仮想旅行をすることだってできる。

 しかし、客観と主観の違いについては、実は情報的なAbilityの方が、差が大きいと思う。例えばプログラミングは本当は少し学べばできるはずなのに、苦手意識が働いてできないと思い込む。逆に、誰かに教えてもらえればすぐに解決するのに、自分でできると思い込んで学習に無用な時間をかけるといったことである。

 これからの情報処理技術は、個人個人のAbilityを、客観と主観の間、または個人と個人、個人とコミュニティの間をうまく取り持つような技術が発展していくと予想する。具体的には、

1. 初心者と上級者でUIを自動的に変更するシステム
2. 子供と成人と高齢者で情報提示方法が異なるシステム
3. 本人のスキルレベルによって指導方法を変えるスポーツトレーニングアプリ
4. 本人のやる気や気分によって介入方法が異なる予防医療アプリ
5. 本人の自己効力感を考慮した教育システム
6. 本人の疲労を考慮した安全運転支援システム
7. 本人の得意なやり方に応じた認証システム

のようなものは30年を待たずに実現するのではないだろうか。

 これからは機械が社会から学ぶ機械学習ではなく、人間や社会が機械から学ぶ、逆学習が重要なのかもしれない(それがいわゆる教育なのかもしれないが)。

行動認識→近未来予測→Ability-aware→人間拡張

私はセンサを用いて人間の行動を認識する、行動認識技術を研究している。

これまでに紹介したキーワードと、行動認識を並べると、次のようになる。


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つまり、行動認識をビッグデータ化することによって近未来予測ができるようになり、さらに技術革新によってAbility-aware技術が発展し、技術的特異点(シンギュラリティ)のころには、人間拡張技術に昇華するのではないか?と言うのが私の予測であり、研究の方向性だ!

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地域ギャップよりも時代間ギャップ・・・

続きは情報処理学会誌でどうぞ。


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