《セネガル情報》 セネガルの国民食
チェブ・ジェン と マフェ、そして ビサップジュース
文・撮影/市川路美
セネガル人は何を食べているのか?
アフリカ大陸最西端に位置するセネガル共和国。首都ダカールは、かつてパリ・ダカールラリーのゴールだったことで有名です。アフリカの中でもかなり民主化が進んだ国で、1815年から1960年に独立するまでフランスの植民地でした。そのためフランスからの移住者も多く、ヨーロッパの文化が浸透しているので、アフリカらしさを求めてセネガルを訪れると少しがっかりしてしまうかもしれません。それほどアフリカにあって、アフリカらしからぬ国です。
セネガル料理は、原住民のウォロフ族の食文化に、11世紀に定着したイスラム教の食文化、そして大航海時代以降のヨーロッパ、特にフランスの食文化が定着して生まれました。
アフリカで最も洗練された料理として有名なので、集客をあげるためにセネガル国内外のアフリカ系レストランは、たいていセネガル料理の看板を掲げています。
セネガル人の主食は米で、毎日必ず食べています。セネガル人にとって一日のメインとなる食事はお昼ご飯。なので大抵のセネガル人はお昼ご飯に米を食べます。
年間降水量が1500ミリに達するセネガル南部のカザマンスは、古くから稲作が盛んな地方でした。とは言え、国内消費量の全てをまかなえるほど生産量は多くないので、国内消費量の70%近くの米をタイやパキスタンから輸入しています。
米好きなセネガル人ですが、フランスの影響でパンも普及していて、朝ご飯にはフランスパンで作るサンドウィッチとコーヒーが定番となっています。
◇チェブ・ジェン
セネガルを代表する料理がチェブ・ジェン。セネガル人が誇りとする料理で、レストランに行くと必ずチェブ・ジェンをおすすめされます。
チェブは米、ジェンは新鮮な魚を意味します。魚と野菜をじっくり煮込んだあとに具材だけを取り出し、残った煮汁に米を入れて炊き上げた料理がチェブ・ジェン。野菜はニンジン、キャベツ、ナスが基本です。セネガル風炊き込みご飯とでもいいましょうか。セネガル在住の外国人は、セネガルのパエリアと呼んでいました。
セネガルの国民食として有名ですが、歴史は意外と浅く19世紀頃にレストランのシェフが創作した料理なのだそう。
ご飯が炊きあがったら皿にのせ、その上に取り出しておいた具材を盛って完成です。
◇マフェ
セネガルをはじめ、西アフリカでは落花生の生産が盛んです。外来の植物で、フランスの植民地時代に栽培がはじまりました。現在でも世界の主要生産国として落花生を輸出していて、セネガル経済の中心を担っています。そのためセネガルには、ピーナッツを使った料理が沢山あります。一番有名なのがマフェと呼ばれるピーナッツシチュー。油で炒めた肉と野菜をピーナッツペーストで煮込んだ料理で白米と合わせます。
みかけはまるで日本のカレーライスですが、スパイスの味はありません。そしてセネガルでは、米は大量の油と塩で焚き上げるので、見かけはただの白米でもかなりしょっぱくてびっくりします。しかしその塩辛さが濃厚なピーナッツソースとよく合い、セネガル人だけでなく外国人からも大変人気のある料理です。
セネガルではワンプレート料理が基本です。一般家庭では大きなタライのような深皿に米をしき具をのせて食べます。セネガルでは一般的にテーブルを使わず、床にゴザを敷いて座り食事をとります。家族が丸く円を描いて座り、中央に大きな深皿を置いて皆で突っつき合って食べるのです。
セネガルのレストランでは、一人前とは思えないほど大量にサーブされます。セネガルでは食べ残しの文化が定着しているからです。レストランに限らず、どの家庭でも食べきれる量の食事を用意することはありません。
そして残った食事は捨てるのではなく、タリベと呼ばれる子ども達に分け与えます。何らかの理由で親元を離れ、宗教指導者の元でイスラム教のコーランを学んでいる子ども達です。さらに食事が余れば家畜の餌となるので、セネガルでは食べ物は捨てることなく必ず最後まで消費されます。なのでセネガルでは、食べきれなかったら無理せずお皿に残しましょう。
◇ビサップジュース
セネガルで忘れてはならない存在がビサップジュース。ビサップとはアオイ科フヨウ属の植物で、アフリカ原産のハイビスカスの一種。日本ではローゼルとしてハーブティーに使用されています。
ビタミンCやクエン酸を大量に含んでいるので、昔から不老長寿の秘薬として重宝されていました。現在でもセネガル人は風邪をひいた時に必ずビサップジュースを大量に飲みます。深い赤色が特徴的な甘酸っぱいジュースで、暑い季節にはよく冷やしたビサップジュースが最高です。夏バテ予防の効果もあるのだそう。
乾燥させたビサップのガクの部分を煮出して、砂糖を加えて作ります。作り方も材料もシンプルなのですが、アクセントとしてレモン汁やミントの葉を入れ、作る人によってレシピが異なるので同じ味のビサップジュースは存在しません。
かなり大量の砂糖を加えて作りますが、強い酸味があるので甘ったるさはなく、すっきりした味わい。反対に砂糖が少ないとビサップ特有の酸味や香りが引き出せず、美味しいビサップジュースにならないといいます。
セネガルとアフリカゾウ、そして日本
かつてセネガルでは、オランダ人、イギリス人、そしてフランス人が象牙をめぐって争った歴史があります。
ゾウは世界最大の陸上動物で、特にアフリカゾウは体が大きくオスだと体重が10トン近くに達します。これだけ大きいと天敵は存在しないのですが、ゾウには牙があります。この牙があることで、ゾウは世界中の密猟者から狙われる存在となってしまいました。1979年の時点で134万頭近くいたアフリカゾウが、現在では42万頭まで激減しています。
近年、密猟監視のパトロールや違法取引の水際対策を国際協力のもと、国家的な取り組みで強化したおかげで、アフリカ南部ではゾウの個体数が増加傾向にあります。しかし、セネガルではゾウは絶滅危惧種になっていて、ニョコロ=コバ国立公園内のアシリク山近辺にしか生息していません。そして未だに毎年2万頭近くのアフリカゾウが密漁の犠牲となっています。
日本とは関係のない話だと考える方も多いかもしれません。
日本は世界各国が象牙取引を禁止している中、一定の規制はあるものの国内の象牙取引を合法的に続けている国の一つです。
アフリカでゾウの密猟が横行していた1970年代、高度経済成長を遂げていた日本は世界最大の象牙輸入国でした。当時日本へ輸入されていた象牙の多くは、密猟品であった可能性が高いとされています。そして現在、日本には大量の象牙が存在しています。それが違法な形で中国へ輸出され押収された事例が数多く報告されているのです。日本の象牙取引の不充分な規制に対し、世界各国が厳しい非難の声をあげています。
ゾウは移動しながら一日に300から500キロ近くの植物を食べますが、4割ほどしか消化しないので他の動物がゾウの糞をエサにしています。また、ゾウのお腹の中で水分を吸収し、温められてから糞として排出され発芽する種も多いです。アフリカの生態系に必要不可欠な存在となっているゾウが絶滅の危機に瀕しています。遠い国の問題として捉えず、当事者として責任を感じ、厳しい対策をとる時がきたのではないでしょうか。
(2023年6月30日発行「素材のちから」第49号掲載記事)
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