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《ポルトガル情報》 世界的な名声を得たポルトガルのワイン「ポートワイン」

イギリス人が世界に広めたポルトガルの酒精強化ワイン 

文・撮影/市川路美 

ポートワインとイギリスの関係 

ポルトガル第二の都市ポルトは、北部に位置する湾岸都市で、古くから交易の街として栄えてきました。首都リスボンと人気を二分する一大観光地で、小高い丘に広がる美しい旧市街一帯がユネスコの世界遺産に登録されています。

小高い丘を覆うポルトの街
カラフルで美しい街並み

ポルトの街を世界的に有名にしたのがポートワイン。ポルト近郊のドウロ川上流で栽培されるブドウで造られポルトの街で熟成される、濃厚な甘さと深いコクを持つ酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)です。イギリスを筆頭に世界中の人々から愛され、スペインのシェリー酒、マデイラ島のマデイラワインと共に、世界三大酒精強化ワインとされています。

日本の酒税法上では甘味果実酒に分類される酒精強化ワインとは、アルコール度数が高いワインの事です。通常のワインのアルコール度数は12%前後ですが、酒精強化ワインは18%以上あります。ワインと同じ製法で造られ、発酵途中で40度以上のアルコールを加えるのが大きな特徴。

酵母はアルコール分が一定量を超えると働かなくなります。発酵を強制的に止める事で、果汁の糖分がアルコールに変換されずにそのまま残り、ブドウのフルーティーな甘さを留めながら、アルコール度数の高いワインとなるのです。

ポートワインは発酵途中でアルコール度数77度のブランデーを加えて造ります。ポートワインがこのような製法で造られるようになったのは、イギリスが原因です。イギリスは古くから距離的に一番近いボルドーを中心としたフランスのワインを輸入していたのですが、17世紀になると植民地を巡ってフランスと争うようになります。敵となったフランスのワインを輸入する事が禁じられたので、イギリスの商人達はフランスの代わりに同盟国であったポルトガルのワインに目を付けました。

ポルトガルのワインをイギリスへ持ち込むには、波の荒い大西洋を長期間航海しなくてはなりません。長い航海に伴う温度や湿度による劣化を阻止し、保存状態が良いままのワインをイギリスに持ち込む為に、リバプールの商人がワインにブランデーを加えたのが始まりだとされています。

糖度の高いワインは酸化しにくく、長期保存が可能となります。苦肉の策であったのに、今までにない甘くてアルコール度の強いワインの味に、イギリス人達は瞬く間に魅了されました。

もともと英国ではタラの豊富なニューファーランド沖でタラ漁をし、ポルトガルへ卸す航路が発達していました。タラをポルトガルで卸した後、空になった船にポートワインを積んでイギリスへ帰る、そんな一石二鳥のルートが大流行し、18世紀にはポートワインがイギリスに向けて大量輸出されるようになります。

本国のポルトガルより人気を博し、イギリス人によって世界中に広められたので、ポルトのワインを英語読みした「ポートワイン」の名で世界的に定着しました。

ポートワインの楽しみ方

ポートワインは食後酒としてチョコレートなどのデザートと一緒に飲みます。チェリーなどの甘酸っぱい果実を使ったパイなどと合わせると、絶妙なペアリングを楽しめます。

ポートワイン最大の輸入国であるイギリスでは、国を代表するブルーチーズ、スティルトンと組み合わせるのが王道です。甘いワインなので、ブルーチーズに限らず塩気の多いチーズとの組み合わせが最強なのです。

甘いだけでなく、ボディのしっかりしたワインなので、クセの強い葉巻の味にも負けません。ヨーロッパでは伝統的に結婚式で葉巻が配られます。葉巻を吸いながらポートワインを飲んで談笑する、これはイギリスの結婚式でよく見られる光景です。

個性の強いポートワインは、飲み物としてだけでなく、肉料理のソースとしても大活躍します。肉を焼いたフライパンにポートワインを入れて軽く煮詰め、最後の仕上げにバターや生クリームを加えて作るコクのある甘いソースは肉料理との相性が抜群です。

ポートワインソース

何にでも合いますが、特に豚のヒレ肉やカモ肉との組み合わせが至福の味。作り方は簡単なのに、一気に格調高い味となる魔法のソースです。

鹿肉のポートワインのソース添え

ポートワインの種類

ポートワインは主に3つのタイプに分けられます。

《ルビーポート》
ポルトガルの宝石と呼ばれる、樽での熟成期間が2~3年の若いタイプのワインで、一般的にポートワインと言えばこのルビータイプを意味します。宝石のルビーと同じ色をしていて、力強い中にもフレッシュでフルーティーな味わいを持ちます。ルビータイプの中で、ブドウの収穫年の作柄が特に優れた年のものだけで造られるポートワインは、ヴィンテージ(VINTAGE)と呼ばれます。最低でも15年以上の熟成期間が必要な最高峰のポートワインで、お値段もかなりします。

《トゥニーポート》
ルビーポートを長期間樽で熟成させる事で、色素が沈着し黄褐色に変色したポートをトゥニーポートと呼びます。10年、20年、30年、40年ものがあり、芳醇な香りとまろやかな味、オレンジに近い色が特徴です。

《ホワイトポート》
ポートワインと言えば赤ブドウを原料とするルビーポートとトゥニーポートが主流だったのですが、最近は白ブドウで造るホワイトポートが人気を上げてきています。少し酸味があり、甘口もありますが辛口タイプが多いです。デザートワインではなく食前酒として飲まれる事が多く、暑い季節にキンキンに冷やして飲むのが最高に美味しい。日頃は赤派の人達も、夏の間はホワイトポートを飲む人が多いです。氷を入れて飲んだり、トニックウォーターなどを加えて楽しみます。

ポルトの街とポートワイン

ポートワインはポルトの街を流れるドウロ川の対岸にあるガイア地区で熟成させる事を義務付けられているので、ガイア地区には50以上のポートワイン酒造所が集中します。街を上から見下ろせば一目瞭然。ガイア地区には対岸の街並みとは全く異なる大規模な倉庫群が並びます。

ガイア地区のワイナリー群

数多いワイナリーの中でも有名なのがテイラーズ(TAYLORʼS)、サンデマン(Sandeman)、グラハム(Grahaʼs)あたりでしょうか。大抵のワイナリーで見学や試飲を楽しめます。

テイラーズのワイナリー

ポルトを訪れたらガイア地区を訪れて、色々な種類のポートワインを試し飲みをしながら、自分のお気に入りを見つけて下さい。

ドウロ川にはかつてポートワインを運送していた船が何隻か停泊しています。ラベーロ船と呼ばれ、陸上の交通網が発達した現在では観光や広告用でしか使用されていないのですが、年に一度ラベーロ船のレースが行われ地元の人達を熱狂させています。

ラベーロ船
ラベーロ船とドン・ルイス1世橋
ラベーロ船とポルトの街並み

ポートワインは色々な種類のブドウを混ぜ合わせて造ります。以前はポルトガルのあちらこちらで造っていたのですが、政府によってポルトガル北部を流れるドウロ川上流地区がポートワインの指定区域に定められました。現在ではこの地区で栽培されたブドウを原料にした酒精強化ワインだけに、ポートワインの名を付ける事が出来ます。

川沿いにはポートワインを楽しめるバーが沢山

EU諸国内では厳格に守られていますが、アメリカやオーストラリアなどでは同じ造り方をする甘味の強い果実酒をポートワインとして売っている事があります。日本でも「赤玉ポートワイン」が人気を博していたのですが、ポルトガルに配慮して現在は他の名前で販売されています。

ポートワインの名を語る事が出来るのは、ポルトガルのポルトで造られる酒精強化ワインだけ。本場の味を楽しみたいのなら、名前だけでなく原産地も必ず確認して購入しましょう。


(2021年12月28日発行「素材のちから」第43号掲載記事)

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