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木綿のハンカチーフとクリスマスとシベリア特急(深読み)

 あなたは世界中で起こるなにもかもがインチキに見えているに違いない。(J.Dサリンジャー)

 近所に小さい豆腐屋があって、そこの豆腐が美味いんですよ。厚揚げなんかも美味しいので、重宝しています。冷奴ばかりなんですけど、夏は絹ごし豆腐を買ってしまうんですよね。冬は木綿になりがち。そして木綿だと少し寂しい感じがするので、ときどき湯豆腐に変わります。だからといって、冷奴だから絹ごし!とかではないんです。いや、もしかすると京都の言い回しを母親から教えられたのかもしれませんね。うちの母親、なにせ嫌味を言うのが趣味なので……  

「東京の人は絹ごしなんてええ豆腐を湯豆腐に使うんどすなあ」  

 台風みたいな奴がやってくると、気圧ががんがんと変わる。あるいは急激に寒くなったりする時、ふいに耳鳴りが酷くなったり無くなったり。酷い時には眩暈も出る。そんな日は何も出来ないし、その豆腐屋にも行けない。台風の時なんかは「これは神津島の龍神のせいだな。若い女の子を生贄に出さないと行けないのか……」とか、とにかく思考がネガティヴになりやすいので、音楽の事を考えるようにしています。

 眩暈が出たら少し横になる。落ち着いたらiPhoneを開いて、ツイッターでバズってるツイートとか、そんな些細なものを読みながら頭の中に曲が流れてきたりするので、その曲名で検索をして記事やブログを開く。見つかった記事を読んでその曲の理解を深めたり、「いや、それは違うと思うわ〜」なんて楽しんで身体が落ち着くのを待ちます。

 とはいえ、心が落ち着かない評もよく見かけたりするので、本当に身体にいいのかは不明です。大瀧詠一や山下達郎について書いてあるものはまず読まないです。とにかく音ばかりで詩について考察しているものはまず見ないようにします。

 その山下達郎で最も知られている曲といえば「クリスマス・イブ」ですが、ネットで検索すると、やれカノン進行が何だの、やれ洋楽の何某の影響を受けているとかばっかり。そして「これはプロから見ても名曲だ!(それが分かる俺も天才だ!)」なんて結末に書いてあるわけです。「そんなの Wikipediaにも載っとるわ!」とツッコミ入れたくなるようなものばかり。もっと純粋に楽しめないのかなあ。いつもそう思ってしまいます。

 ……カノン?なんや、リンクが戦うラスボスかいな?わし、そんなの関係ないというか興味ないねん。なんでこんな悲しい歌詞なのに、JR東海の「Xmas Express」で使われたんや?そういう事は考えへんのか?あの深津絵里の顔が白すぎるのはともかく、お前ら牧瀬里穂にときめいたやろ!アイドルとか興味ない俺でも可愛い人やなあって思ったくらいやで。そんなええ女泣かす男は許せへんやろ?歌詞は悲しいけど、最後は二人が逢えてハッピーエンドがええやんけ!どや、ハッピーエンドにしてやったで!お前ら、喜べ!でも助けたの彼女の方やで!

 Xmas Expressを作った制作者は、悲しく別れたはずの「彼女」を助けたかったのです。

 その「彼女」とは、太田裕美の歌った「木綿のハンカチーフ」の歌詞に出てくる女性です。松本隆作詞、筒美京平作曲。まさに80年代の黄金律。しかしこの曲も発表された時は色々と言われています。上京する話なのに、歌っているのは荒川生まれの埼玉春日部育ち。それ、上京っていうの?東へ向かったら東京どころか千葉の野田市に着くのでは?いや、今回は話はそこではないので、全部割愛。

 上京する彼氏が変わっていく様、変わらず地元で待つ彼女。「はなやいだ街で君への贈りもの探すつもりだ」と意気込む彼氏さん。「いいえ私は欲しいものはないのよ、ただ都会の絵の具に染まらないで帰って」と願う彼女の想いも虚しく彼は都会に染まっていき、「僕は帰れない」とまで宣言。そして彼女は悟り「最後に木綿のハンカチーフをください」と叫びます。なぜなら涙を拭くから。別れを受け入れるから。いや、涙を拭くためとは歌詞では言ってないけど。まあそういう意味でしょう。女の人が「涙の数だけ強くなれる」のはよく知っています。

 太田裕美の歌う曲で、歌詞の構成がよく似たものがあります。「さらばシベリア鉄道」。松本隆作詞、大瀧詠一作曲。これまた80年代の黄金律。この曲はあまりどうこう言われていないです。好意的な評価をされています。太田裕美が今でも歌う持ち歌であり「木綿のハンカチーフ」と対になる曲です。ちなみに何年か前に出演していた府中市商工会議所のイベントでは歌っていないと思います。

 こちらの曲も「木綿のハンカチーフ」と同様に男性の語りから始まり、「哀しみの裏側に何があるの」と問い質してきます。しかもこの男、「あなた以上に冷ややかな人はいない」と言いながら「別れを責める言葉捜して」と言い訳めいた事を喚いています。失恋の加害者です。オーバーキルです。
 そんな彼への返答として、彼女は「答えを出さない人に連いていくのに疲れて、行き先さえ無い明日に飛び乗った」と涙ながら(涙は書かれていないけど)訴えています。
 それに対する男の返答はまた酷く、「愛という言葉が言えず」の上に「君は近視まなざしを読み取れない」とか言ってるんですよ。どう考えても男が悪いですよね。

 そうです、完全に男が悪いとこの曲で表現しているのです。泣くのはいつも女ばかり(最近は逆が多いけど……)。ただ、この曲のアンサーソングというか続編があるというのは聞いた事がなかった。でも、もしかしたらあるのかもしれない。

もしあるとしたら、曲を作った人の結構近くにいるのでは……

 「さらばシベリア鉄道」のサビの歌詞で救済される可能性が歌われています。「伝えおくれ、十二月の旅人よ、いついついつまでも待っていると」。サビなので解釈は二つに別れます。彼氏彼女のどちらかの気持ちなのか、それとも二人の想いなのか。この歌詞だけでは流石にわかりません。もともとダブルミーニングでブレさせて惑わさせているのかもしれません。  

 では、もしこの歌詞の意味が「彼氏だけの想い」だとして考えてみましょう。

はい、繋がりますね。

「きっと君は来ない、ひとりきりのクリスマス・イブ」「心深く秘めた想い、叶えられそうにない」「まだ消え残る、君への想い」と歌っている曲がありますよね。

そうです、山下達郎の「クリスマス・イブ」なんです。

 「答えを出さない人」が「秘めた想い」を叶えたい。そう、彼は彼女の元に戻ってきたのです。あるいは、彼女の元に辿り着いた。でも歌詞では「きっと君は来ない」と匂わせています。かなり淡い期待。俺の人生みたいです。この曲だけを考えるのなら、個人的な経験上ですが彼女は彼の元には現れない。それが正しい解釈になるでしょう。悲しい話ですね。まあ独りきりのクリスマスイブも楽しめますけどね。はい、かなり苦しい言い訳ですね。

 まず「さらばシベリア鉄道」の歌詞で「十二月」とあります。そして「雪に迷うトナカイの哀しい瞳」と彼女の言葉にあります。純粋にトナカイは彼女の気持ちを代弁しているだけかもしれません。ただ、明らかにこの話は12月なのです。そして彼は旅人に「いついついつまでも待っていると」と伝言を依頼しています。クリスマスイブに待っている場所はわからないですが、とにかく彼女を待っているのです。来ないかもしれない彼女を。

繋がりましたね。

 個人的ではありますが、クリスマス・イブという曲が出来上がった時はまだ「彼女は来ない」方が強かったのだと思います。作った人がそういう人ですから。

 でもそうは問屋が、いや広告屋がおろさなかった。

 そのままだと二人は逢えないまま離れ離れで結末を迎える事になります。当時の太田裕美の人気からすれば、「木綿のハンカチーフの彼女には幸せになって欲しい」と思うファン(今でいうヲタク)がいても不思議ではないでしょう。
 ブームだった時に学校も行かずに太田裕美の追っかけをしていた人と話をした事があって、もうやっている事が今のアイドルヲタクと同レベルなんですよね。そんなレベルの人がXmas Express、最初はホームタウン・エクスプレスという名の「地元に帰って大事な日には大事な人と一緒に過ごそう」というコンセプトのCM、その中で遠距離恋愛をする二人を描いたとしたら……

 ちなみに、キャッチコピーは「帰ってくるあなたが最高のプレゼント」なんです。

 そんな思いでYouTubeに落ちているJR東海のクリスマス・エクスプレスの動画、名古屋駅にいる白い深津絵里を見てください。えらく白いのはシベリアの寒さのせいなのかもしれませんね。

 さて陽も昇り、だいぶ暖かくなってきました。豆腐を買いに行きましょうかね。あ、でも買うのは絹ですよ。だってiTunesから山下達郎の「きぬずれ」が流れていますからね。

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