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うっかり坂を下る

渋谷駅は坂の下にある。

池尻大橋駅から渋谷駅まではひと駅。田園都市線や東急バスに乗るのもいいんだけど、ようやく暑さも落ち着き、湿気も少なかったので歩いて向かうことに決めた。

坂の途中、これまでに何度もみたフジカラープラザの看板が目にとまる。出張撮影やスタジオ撮影はふむふむという感じだが、コマーシャル撮影までやっているフジカラープラザ。いったいどんなコマーシャルを撮影したのだろう。

「実はここで、ウォレスとグルミットやひつじのショーンが誕生したんだよ」

5秒でバレる嘘を言いながら、半笑いとも半泣きともとれる不思議な表情を浮かべたその人は、まだ渋谷駅の近くに住んでいるのだろうか。

電車が止まったあの日、大雪が降ったあの日、あだ名しか知らない人と朝まで過ごしたあの日。私がこの坂を上るときは、ちょっとしんどい夜や早朝だったし、同時に充実した時期でもあった。

ホテルかタワーマンションかは分からないが、エレベーターがやけに派手なビルを見上げながら、坂を下っていく。

道玄坂の辺りの再開発が進んだら、スクランブル交差点で写真を撮っている外国人たちも坂を上ってくるのだろうか。

下り坂は楽だけど、楽になったら下り坂。上り坂はしんどいけど、しんどい時こそ上り坂。

誰かの受け売りを言っていた上司の顔を思い浮かべながら、水戸黄門を鼻歌でうたった。後半の歌詞は曖昧だ。自分の道をンフフ フ フ〜

助さん角さんを連れて茶屋で休んだりしながら時速3kmくらいで歩く黄門様よりも、うっかり八兵衛でありたい。下り坂でも上り坂でも、おどけた顔してひょいひょいっと進んでいきたいと思った。

由美かおるでもいい。

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