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マスターにオススメされたFRUITS ZIPPERを聴いたら千原ジュニア化したくなった

たまに行くバーで、いつも寡黙なマスターがぼそっと呟いた。
「フルーツジッパーって知ってますか?」

店内には私ひとりしかいない。
「知らないです。何かのカクテルですか?」

マスターはゆっくりと首を振り、手元のiPhoneを操作する。するとチップチューンと呼べばいいのだろうか、軽快な打ち込みサウンドが流れ始める。

元気で、キラキラした、アイドルソング。何人組かも分からない。私は尋ねる。

「このアイドルグループの名前が、フルーツ…」
「ジッパーです」マスターが食い気味でジップる。

ねぇ?ねぇ?ねぇ?

サビの歌詞がやべぇと思った。私かわいい 君すごい しかし、よくあるアイドルソングとは何か違う。秋元康とも何か違う。メンバーそれぞれの声も個性的で、フルーツのようにカラフルだ。

わたしの一番かわいいところに気付いてる
そんな君が一番すごいすごいよすごすぎる!
そして君も知ってるわたしが一番かわいいの
わたしもそれに気付いた!

「わたしの一番かわいいところ」ヤマモトショウ

歌詞を調べながらマスターに「こんなん、会場でサイリウム振りながら観たらめっちゃ楽しいやつですね」と言ったら「ふふふ」と、かつてみたことのない笑顔を浮かべていた。

このグループのファンは、ライブ会場でみんな同じような笑顔を浮かべているのだろう。"マウンティング" や "承認欲求" といった嫌な言葉とは真逆の、まさにアイドルにしか作りえない世界。「かわいい」「すごい」「超ラッキー」日常生活では言ったり言われないワード。アイドルからしか得られない栄養分。

「これ、アイドルの歌詞としては完璧だと思うんですけど、もし大阪のおっちゃんが歌ったらえらいことになりますね」

「ん?どういうことですか?」マスターが首を傾げた。

「サビのとこ、千原ジュニア風に歌ってみてください」

オレのいっちゃん かわいい とこに 気づいたんか
そんなアンタは いっちゃん えぐい えぐいて えぐすぎや!
ほんでアンタも知ってる オレがいっちゃん かわいいやん
オレも それ 気付いてしもた〜

「いっちゃんかわいいとこ」そよみー


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