相続税税務調査の話 相続前に現金をおろしていたらどうなるか

1.税務署からの連絡

税務署から相続税の税務調査をしたいとの連絡があった。調査先は子供のいない夫婦であったことから配偶者に財産を全てと遺言書を残していたことから相続税の申告をしたけれども相続税はゼロであった案件であった。相続税の特例で配偶者であれば1億6000万円までは相続税がかからないとう特例がある。そのためそのような案件に相続税の調査が入るというのはほとんどない。このようなケースで相続税の調査が入る場合は事前に税務署が何かしらの問題点を把握しているケースが多い。そのため税務調査の連絡があった時には色々当時のことを思い出しなにか問題点がなかった記憶をたどっていた。

2.相続人への連絡

税務署から相続税の調査をしたいとの連絡があったので相続人にその旨を連絡した。相続人に連絡するのは相続税の申告を終えてから2年以上経過していた。相続税の税務調査は相続税の申告後1年半〜2年くらい経過してから連絡がくることが多いため、まさに忘れた頃にやってくるというのが相続税の税務調査である。相続人は高齢のため、年齢相応のもの忘れもあり状況がよくわかっておらず、どうして自分に相続税の調査が入るのか、少し動揺しているように感じた。私は相続人に「相続税の税務調査では主に被相続人の生前の預金の動きについて聞かれることが多く、預金の管理や振込、引出しは誰がやっていたか、被相続人からお金を預かっていたりしていないか、生前贈与を受けていたりしていなかったか等、相続財産の課税価格に影響を与える被相続人の入出金履歴の内容を税務職員が訪ねてくるのが税務調査で行われることです。」と事前に説明した。

3.税務調査当日

税務署と相続人との間で日程調整を行った当日がやってきた。

相続税の調査は午前中からはじまることが多い。今日は10時からとなっている。相続税の調査は最初の15分程度は雑談から始まる。天気のこととか最近話題になっているニュースなどを振ってきて相続人の人となりを観察する目的であとうと思うがこの雑談で相続人は少し緊張の糸を緩めることが多い。それが一通り終わると家族構成を聞かれる。家族構成は被相続人の父母のところからはじまり、被相続人の兄弟姉妹、配偶者、子供の人数や名前、年齢、孫の人数や名前、年齢まで聞かれることもあれば、孫のことまでは聞いてこないこともある。そのあたりは税務調査担当者が今回どこまで調べようとしているのかにもよってくるのであろう。今回は被相続人の出生地、結婚してから働いていた場所、資産運用の状況、退職してからは何をしていたか、亡くなるまでにどんな体の具合であったかなどが中心で聞かれた。特に仕事を辞めてからどんな病気になったか、施設に入っていたか、施設の名前や費用を入念に聞いてきた。なぜこんなことに突っ込んでくるのかというのは、たいての場合その後の核心の伏線になっていることがある。

4.雑談後核心に迫る税務担当者

雑談のあとの家族関係の話や被相続人の出生から死亡までの資産形成過程の話はだいたい午前中いっぱいで終わる。午後はたいていの場合被相続人の通帳を見せてほしいという。相続税の税務調査は被相続人が亡くなってから2年以上経過してから入ることが多いので既に処分してしまっているということも十分あり得るのだが、ほとんどの人が被相続人の通帳を大事にとっている。実は税務担当者から「被相続人の通帳を見せてくれ」と言われて「もう処分してしまってありません」と回答すると税務調査としてはもうほとんど聞くことがないので税務調査はこれにて終了となることもあった。相続税の税務調査はたいてい1日確保して欲しいと言われることがあるが、そのうちの午後は被相続人の残した通帳に印字された記録や手書きのメモから読み取れる様々な情報から申告漏れを把握することに費やされる。逆にいえば被相続人の通帳等の私物を処分してしまっている場合は午後あまりやることがないので2時間くらいで終わる場合がほとんどだろう。もし今後税務調査を受けることが予想されている方は被相続人の残した通帳等の類を処分してしまえば税務調査を受ける時間は半分くらいになるだろう。

今回の税務調査では相続人の配偶者は被相続人の通帳は処分してしまっていた。税務調査の担当者も少し困惑した表情になり、いつ処分したのかであるとか、本当にないのか等繰り返し質問したものの、配偶者も高齢で相応に忘れっぽくなっていて覚えてないとの回答するのみであった。そうすると税務調査としてはやることがないので今日はもう終わりかなと思って気を抜いた次の質問に今回の税務調査の核心があった。

税務調査官は「亡くなられる前3年半前に1700万円の預金が引きだれているがこれは何のために引きだれたものでしょうか」と聞いてきた。税務調査ではあらかじめ被相続人の預金の履歴を数年間銀行に照会して不審な預金の動きを捉えてから税務調査に臨んでいるので、それを始めから表に出さずその周辺事情をじっくりヒアリングして矛盾のない回答がないか等、相続人に故意の申告漏れや隠蔽の意図がないかを確かめてくるのである。

私はこれが今回の調査の目的であったかとここで認識した、通常配偶者が全財産を取得する場合で「配偶者の税額軽減の特例」を使って相続税がかからない時に相続税の税務調査はこない。来るときには何かしらの問題を事前に把握し、それが調査が必要なほど金額的なインパクトがある場合である。相続税の申告書作成にあたっては3年内の生前贈与がある場合には相続財産に加算するという制度がある。そのため3年内の生前贈与がなかったかを確認するため、預金通帳の3年間は通査して被相続人の通帳から多額の預金の出勤がないか確認するようにしている。そのうえで、3年内の生前贈与や預金を預っている等の事情がないことを確認していたのだが、今回の申告書作成時には被相続人の預金口座は2つだけで通帳はちょうど3年間残っておりそれ以降は廃棄したと相続人から言われていたことに加えて、財産額的にも配偶者の1億6000万円まではまだその額に達するには1000万以上余裕があったので、とりあえず3年間の通帳の査閲してあとは生前贈与の有無等がないことのヒアリングで足りるであろうと判断して、相続前3年超前の預金の動きまでは把握していたなかったのだ。

5.引き出された預金はどこにいったか

1700万円の預金の引出しは何のために引き出されたものかと税務調査担当者からの質問について相続人の回答は、「んー、はっきり覚えていない」という感じの回答で税務調査担当者から誘導的に「自宅のリフォームですか?それとも施設の入居費用ですか?」と追求が始まった。相続人は高齢で物忘れも「リフォームもしたと思うし、施設の費用もかかった。金額は数十万くらい使ったような。。。。」との回答で1700万円もはっきりしない。

この相続人のパーソナリティーとして税金を安く抑えようと財産の額を隠すというようなタイプでは決してない。むしろ払うべきものは払うので面倒なことにならないようにして欲しいと当時から言われており、お金のことは無頓着で相続税というものも聞いたことがある程度で具体的にどういうものかも知らないというようなタイプだった。こういうタイプは気をつけなければいけないのは相続税を払いたくないので必要な情報を伝えてくれないという心配はいらないが、被相続人の財産がどこに何があるかが把握できておらず何に対して相続税がかかるのかもわかっていないので申告財産が漏れる可能性があるということである。

話は戻るが1700万円に引出した預金のうち相続人が使ったといっている自宅のリフォームや被相続人の施設の入居時の費用、途中入院にかかった医療費を加えてもせいぜい200万〜300万程度の話であった。機転の効くよう人間であれば1700万円をこれらで使い切ったと言うのも世の中には一定数いるが、この相続人はお金に無頓着で真面目な方だったので結構正直に回答していたと思う。そうすると1700万円と使ったという200万円〜300万円との差額がどこにいったという問題になる。

つづく





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