WAVES/ウェイブスを観ていたら途中で映画館を出たくなった話

【注意:ネタバレを含みます】

先日、WAVES/ウェイブスという映画を観てきました。多分にネタバレを含むので、これからこの映画を観ようとしている人はここで画面を閉じて頂き、回れ右で映画館に向かって頂ければと思います。あらすじも何も知らずに観て頂いた方が数倍楽しめると思うからです。

【以下、本文です】

私がこの映画を観ようと思った理由はいくつかあって、

・いまをときめく映画スタジオ、A24の配給だから

・ストーリーオブマイライフを観に行った時の予告映像に心惹かれたから

・オルタードカーボンに出ていたレネー・エリス・ゴールズベリーが出ていると聞いたから

こんなふわったとしたイメージのまま映画館に向かいました。

公式サイトも観ずに行ったので、事前情報は予告映像だけだったんですが、これが中々良い感じにできているんですね。おしゃれな音楽に合わせた青春映画かな、くらいの軽い気持ちで映画を観に行ったら(こんなこと監督の耳に入ったら相当怒られそうですが…)そんな思い込みをたたき割られるような衝撃を受けました。

そもそもこの映画は2部構成で、途中で主人公が変わるんですね。第1部はとある黒人家族(両親+兄&妹)のお兄さん(タイラー)、第2部はその妹(エミリー)です。

第1部ではイケイケなお兄ちゃんがどんどん転落していく様子が描かれていきます。レスリング部で親からも教師からも期待されつつ、かわいい彼女もいて、まさにこの世の春を謳歌していたのに、試合中のケガをきっかけにどんどん転落していきます。この描写が辛すぎてずっと爪を噛みながら観ていたんですが、段々直視出来なくなって映画館を出たくなりました。

ストーリーとしてはある意味単純で、よくある話にもなりがち(スポーツ万能なクラスの人気者がケガをきっかけに闇落ち)なところですが、この映画では映像表現と音楽を駆使して観客を追い詰めていきます。タイラーが穏やかで、いわば人生の波に乗っている時、画面は青色基調で構成されているのでこっちも穏やかに見てられます。しかし段々と雲行きが怪しくなって彼が追い詰められると画面の赤色が増えてきて、加えて音楽も襲ってくるので、とても不安な気持ちになるのですね。この辺りの構成はとても見事だと思います。全体を通してセリフは(おそらく)この長さの映画としてはとても少ないのですが、その分映像と音楽で観客をタイラーの気持ちに同化させてきます。

私が途中で映画館を出たくなったとしても、タイラーは逃げられないので物語はいったん、これ以上無い位の最悪の結末を迎えます。この時スクリーンの大きさも変わるのですね。こういうやり方を持ってくるとは思わなかった。

もちろんここで映画が終わると、ただ辛くて悲しいだけの気持ちを残して映画館を去ることになってしまいます。第2部では妹のエミリーが中心となって、彼女自身の壊れた家族と、そして(第1部の事件後に出会った)ボーイフレンドの壊れた家族との、ぞれぞれの再生が描かれています。

この第2部はこれ単体でも一本の映画になりうる話だと思います(第1部についても同様です)。しかしやはり、第1部であれだけ心を揺さぶられたからこそ第2部を観ることでより深く、集中して、自分も映画の中にいるかの如く感じることができるのだと思います。

映像表現と音楽のミックス、そして2部構成ということを合わせて考えると、この映画はNetflixなどのストリーミング配信とは相性が悪いように思います。途中で辛くなって観るのをやめてしまう人がいないかな…とか、小さい画面だとあのスクリーンの大きさが変わる意味合いが良く分からなくなっちゃうんじゃないかとか、余計な心配をしてしまいます。

ということで、もし「これから映画を観る予定だけれど、この記事を最後まで読んでしまった」という方がいたら、(コロナに気を付けつつも)ぜひ映画館でWAVESを観て頂ければと思います。

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