子どもが産まれました。


あまりこのようなエントリでテキストを書かないのだが、私が猛烈に重いMac Book Proの口をこじ開けたのには訳がある。私の人生における明確な分岐点として記しておくことで、将来読み返してノスタルジーを生成するためだ。いわばセーブポイント、哀愁のタイプライターとも言えよう。30年も生きていると忘れてしまうことも多く、その時に考えをテキストにしておくことに価値を感じている。産まれた子どもについて書くつもりはない。インターネット生まれインターネット育ちである私の高いリテラシーが許さないのだ。数年後に子育てYouTuberになっていないことを祈っていてほしい。そもそもこのSNSは私個人のものであるし、産まれてきた子どものものではない。むしろ子どもの誕生に伴う私への作用や考えたことを書く方がいいだろう。
私は新卒で宇都宮に越してきてそのまま居着いた。このタイプは実はとても珍しい。私も含め新卒の同期には様々なカードが与えられた。自ら手を挙げて転勤をすることもできるし、転職もできる。6年間ですべてのカードを手札に残したままこの地に残ったのは30人中私を含めて数人だ。与えられた環境をそっくりそのまま受け入れてしまった。何も背負ったものが少ないので、去り行く同期の足取りは軽い。一方で私が背負っているものは重い。産まれた我が子を上に乗せたが最後、私の足はメリメリと地中へ沈んでいってしまった。もうちょっとやそっとじゃ動かないだろう。動くにしても相当な体力を使わねばならぬし、もう少しすると歩き方すら忘れてしまうかもしれない。しかしこれは私のコントロールの中にある。痩せ我慢などではない。私は確信的に自ら背負うものを増やしていった。
この地を去った同期の中に宇都宮を「つまらない街・何もない街」と評する者がいた。もっと都会的で洗練された生活を夢見ていた。街中のPARCO跡地がいつまで経っても跡地のまま残っているような街に魅力はないのだ。だが彼らの話に私の知る宇都宮は何一つ出てこない。あのお店も知らないし、あの人のことも知らない。全く掘り下げが足りないのだ。掘り下げようとする努力すら感じられなかった私は、彼を酷く軽蔑した。薄く表面的なアーバンライフを夢見て、間抜けに口を開けたまま、受け身のままで満たされない一生を終えるのだろう。
掘り下げるのに重さが必要であると気づいたのは、私自身の荷物がある程度重くなったあたりだ。例を挙げる。私は毎週金曜日の21時からコミュニティラジオ・ミヤラジで映画番組(We are Movie Lovers.)を担当させていただいている。これは私が背負った荷物の中でもかなり重いものだ。金曜日はそうそうに仕事を片付け、その足でオリオン通りへ向かう。運動のためにJR宇都宮駅から歩くのだ。すると喉が渇き、コーヒーを飲みたくなる。そこにARCADEという路地中のコーヒーショップが現れ、毎週通うようになる。お店の方とお話をするようになる。

そうして私はいつしかたくさんの荷物を自ら背負うようにしていった。私はさらに深くまで掘り進めることを目指した。決して掘り下げた先がいいものばかりであるとも限らないだろうが、ここではないどこかを目指すだけでない楽しみが地中に眠っていると信じている。そうして私はほとんど迷いなく子どもを迎えることができた。…本当は迷いばかりで苦しいが、こうしたテキストが私の心を支えてくれると信じている。

陣痛で辛そうにする妻の横で、万策尽きた私はChatGPTという大規模言語モデルを利用したチャットに「妻の陣痛が辛そう。なんとかしてくれ」と聞いた。すると迷いなく数案を出してくる。私は妻の腰を湯たんぽで温めることができた。安産だったのはChatGPTのおかげである。ChatGPTと同い年となった我が子の生きる世界はどのような世界だろうか。私は我が子を正しく導くことができるだろうか。映画鑑賞の傍らでエンジニアもやっている私が子どもに伝えたいのは、これからはよりアナログで物質的なものが重要視されるだろうということだ。近い未来、私たち人間がデジタルとしてインプットした全ては今後AIによって全て上位に互換される。私の愛するテキストや音楽、そして映画までも、人間が作るよりもAIが作る方が人間を楽しませてしまう。私のこのようなテキストもここに掲載してしまったが最後、その価値は目減りしてしまう。しかしデジタルに存在するAIが、アナログな世界に不可逆的な作用するのはもう少し先になるだろう。我が子の生きている間にはそうはならないと見ている。なので私は、アナログで物質的なものを大切にできる人に我が子を育てたい。一緒に食事をしたり、対面で人から何かを学んだり、自分の技術や話で目の前の人を喜ばせたりしてくれるといいな。そして少しだけでもいいので映画館を愛してくれるといいな。

入院中の妻と子どもと面会をしてくるので、この辺りで。

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