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Coda あいのうた 【★★★★☆】

2022年、アカデミー賞作品賞、脚色賞、助演男優賞に輝いた2014年に公開されたフランス映画「エール!」のリメイク作品である「Coda あいのうた」。

音楽を題材にした映画ということでてっきり音楽用語のCodaかと思っていたが、「聴覚障害者の親に育てられた子供」のことを指すらしい。

そう、この物語の主人公は聴覚障害者の両親と兄を持つ少女ルビーだ。


彼女は家族で唯一聴覚健常者であり、家業の漁業の手伝いや家族の通訳をしながら高校に通っている。
そして、何より歌うことが大好きだ。
そんな彼女の才能を見抜いた合唱部の講師は音楽大学への進学を進めるが、決して裕福とは言えない漁師の仕事と健常者である娘の協力がないと仕事が難しくなるという理由で両親からは賛成されなかった。
ルビー自身もそんな家族の苦労を誰よりも理解しているから、反対を押し切ることなく家業を手伝うことで納得をする。
しかし、ルビーの持つ歌の力により家族の絆はより深まっていく。


物語としてはとてもシンプルで分かりやすく、大きな波も無い穏やかな家族のおはなし。
それだけに家族一人一人の心情をとても深く描いていて、感情移入しやすい。
そして声のない世界だからこそ感じる心の繋がりが、より繊細に伝わってくる。

これだけ書くと、どんな人にも勧められる、ファミリーで観てくださいなんて言いたくもなるところだが実はこの映画、PG-12指定となっている。
観る前はなんでだろう?えぐい描写でも出てくるのかな?だったら嫌だなぁなんて思っていたが、いざ蓋を開けてみると、どっこい!

どぎつい下ネタのオンパレードだ(笑)

大人にもなると笑って聞けるが、さすがに自分の子供にはあんまり聞かせたくはないジョークが随所に散りばめられている。
しかし、それも含め笑えるシーンが多々あるので、物語が非常にコミカルで全体的に明るい印象だ。

終盤に差しかかるにつれてジワジワ押し寄せてくる温もりと優しさが感動を呼んで、エンドロールが流れる頃には震えるくらいに涙が出ていた。
大体このエンドロールの間に余韻に浸り、徐々に現実の世界へと気持ちをシフトチェンジしていくのだが、この映画に限っては場内が明るくなってからも少しの間動けないくらいの余韻があった。
こんなに映画館で震えたのは劇場版の「鬼滅の刃」以来だ。

主人公ルビー役のエミリアジョーンズの演技は本当に素晴らしかった。
思春期の女の子らしい素振りもありつつ、しっかり家族のことを考えているところがなんとも言えず切なくなる。
彼女はこの撮影のために何ヶ月も前からボイストレーニング、手話を勉強するだけでなく、漁師としてのトレーニングまでおこなったという類まれない努力家だ。


助演男優賞を獲得した父役のトロイ・コッツァーと、母役のマーリー・マトリン、兄役のダニエル・デュラントはみんな実際に聴覚に障害を持っている俳優だ。


なので、リアルな手話による会話や、音の聞こえない世界というものがどういうものかというのを観る側に強く想像させてくれる。


ちなみに、これを観たあとすぐに、原作であるフランス映画の「エール!」も鑑賞した。

個人的にはアメリカのリメイク版の方が、家族それぞれの存在感が粒だっていて好きだった。
音楽がテーマというところもあり、歌唱力にも注目していたが、ここもアメリカ版の方が聴きごたえがあった。

個人的にこの映画1番の見どころのシーン(ネタバレになるので内容は伏せる)はアメリカ版、原作、それぞれに見せ方に大きな違いがあり、それはそれでどちらもいいなぁと思った。
リメイクの方が想像力を掻き立てられる感じがして、原作の方がより分かりやすく描いているなと感じた。


本筋としてはベタで、とてつもなくドラマティックな展開やド派手な演出、大どんでん返しがあるわけでもない。
それなのに全く退屈に感じない、むしろどんどん物語に惹き込まれていき、家族の魅力の虜になってしまうほどの俳優の素晴らしい演技や、作り手の演出に脱帽した。

これだけ捻りのない物語でアカデミー賞作品賞を獲得したその魅力は本物である。
2022年4月現在では間違いなく、僕の中で1番の映画になっている。

【★★★★☆】4.9点

是非、見逃した方もDVDやブルーレイで観ていただきたい作品だ。

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